ブランド戦略にとってデジタル マーケティングが極めて重要であるにもかかわらず、その効果測定の重大さはあまり理解されていません。効果測定を見直し、ビジネスを真の意味で拡大するための方法を、 Merkle の Chief Growth Officer(最高業績拡大責任者)Adam Lavelle(アダム ラベル)氏に聞きました。
モバイルが普及し、生活者はいつでも好きなものを「見つけ」「調べ」「買う」ことができるようになりました。マーケターは戦略を練り上げ、人々が何かを欲している瞬間にアプローチしようとしています。モバイルの重要性が高まる昨今、どのようにデジタル広告の価値を測定し、ビジネスの成長につなげるかということが、改めて課題となっています。
Google: モバイルの時代になって、マーケターの意識はどのように変化したのでしょう。
Adam : メディアとのかかわり方が変われば、マーケティングの方法論もおのずと変化します。ユーザーは、モバイル経由でたくさんの商品やサービスを購入しています。多くのクライアントは、その数に驚きます。これは、ただデバイスのトレンドが変わったということにとどまらず、消費者の行動そのものが大きく変化したということです。
Merkle では、モバイルを「チャネル」ではなく、ユーザーを取り巻く「環境」の一部と見なしています。デバイスの種類、ユーザーのいる場所や時間、そして状況など、あらゆるシグナルがそれぞれのユーザーの情報を得るための貴重な情報です。マーケターの役割は、適切な瞬間を捉えて最適な情報を届けることだと言えます。
ユーザーのニーズに応えるには、意図を理解する必要があります。それに役立つシグナルとして、他にどのようなものがあるのでしょう。
検索行動は極めて重要です。ユーザーが何を検索しているか分析すれば、その意図がわかります。他にも、天候や交通、店舗の場所や在庫など、重要な指標はいくつもあり、それらを適切に読み取れば、より関連性の高い体験を提供することができます。 Google は、ユーザーが「知りたい」「行きたい」「したい」「買いたい」と感じる瞬間を捉えて、その欲求に応えることが重要だと指摘していますが、Merkle は顧客に関する知識に加え、ブランドやその他の関連情報を組み合わせて、これを実現しています。
ユーザーのロケーションは極めて重要な情報です。「近くの何か」という情報を求めているユーザーに効果的にマーケティングをするにはどうすればよいのでしょう。
マイクロモーメントというコンセプト、つまりユーザーが「近くの何か」を求めていたり「どこかに行きたい」と感じている瞬間を捉えることは非常に有効です。「近くの何か」を検索しているユーザーは、その商品やサービスを購入する可能性が高いです。購入前の検討はすでに終わっており、あとは出かけて商品を購入するだけという状況です。しかし、その瞬間、こう思うかもしれません。「在庫があるかわからないのに、何キロもドライブして混んだショッピング モールに出かけていくのはごめんだ。電話で問い合わせしても、たらい回しにされて待たされるかもしれない。在庫の有無がすぐわかるといいのに」
近くにいて、商品に関心を持っているユーザーに来店を促し、さらにコンバージョンまでつなげるには、モバイル マーケティングを効果的に行う必要があります。効果的な方法は、「近くの何か」を検索しているユーザーの欲求にタイミングよく応えることです。いまだに多くのマーケターが、測定方法が複雑そうだという理由でこのチャンスを捉えきれていませんが、難しいものではありません。
おっしゃるとおり、現在、コンバージョン経路は大きく変化し、マルチ モーメントやマルチ チャネルを伴う場合も少なくありません。複数のチャネルにまたがるコンバージョンの効果測定を行う際のポイントを教えてください。
もちろん、コンバージョンに役立つのはユーザーの最後の接点だけではありません。われわれは、販売経路において複数の接点を重視しており、これらを「マイクロ コンバージョン」と呼んでいます。メールアドレスの登録、店舗検索、住所表示のクリック、コールセンターの利用、チャットによる対応などはすべて、ユーザーの行動を追跡する重要な指標です。
上記のような「マイクロ コンバージョン」を通じたカスタマー ジャーニーを把握するために、Merkle では e レシートによく似た追跡ツールを採用しました。ユーザーのレシートメールにピクセルデータを埋め込み、インターネット上での行動と関連付けたのです。さらに、 Google の来店コンバージョンなどオフラインでの追跡ツールも用いることで、実店舗での購買活動をオンラインでの行動と紐付けています。オンラインとオフラインは関連しあっており、切り離して考えることはできません。
購入までのカスタマージャーニーを詳細に把握したいという意向のマットレス会社の案件をご紹介します。当初、 e コマースに限定してデジタル広告の費用の効果測定を行ったところ、予算に対して成果が正しく反映されていませんでした。そこで改めて購入経路におけるさまざまな段階を測定し、さらに e レシートを用いてそれらと店舗での購入とを関連付けたところ、広告の費用対効果は極めて高いことが判明しました。デジタル施策が効果を発揮し、クライアントのビジネスの拡大に役立った一例です。正しい効果測定には、大局的な視点が欠かせません。
効果を上げるには測定の見直しが極めて重要ですが、考え方を大きく変える必要がありますね。
われわれはクライアントに対し、PDCA を重ねるという方法を提案しています。これにより、真に役立つアプローチが浮かび上がってきます。確実に成果が期待できる分野にリソースと費用の 70~80% を、最適化すれば成果が見込める分野に 10~15% 、そしてかなり挑戦しなければならない分野に 5~10% を投じてください。
測定の内容も重要です。達成目標や評価基準を明確にせず始めても、よい結果は得られません。特にモバイルにおいてはこれが重要です。
これ以外に、従来の効果測定をビジネスに活かせる指標の測定へと見直すには、どのようなことに気をつけるべきでしょう。
マーケターは 2 つのポイントを見直さなければなりません。
1 つは、現在測定している指標の見直しです。「データが多いほどマーケティングは効果を発揮している」と思われがちですが、それは本当にビジネスに役立つデータでしょうか。
真の KPI とは言えないデータを測定している会社が数多くあります。たとえばコンバージョン単価、インプレッション数、サイトの滞在時間などは、ビジネスに役立たない可能性のある指標の例です。点と点とを結びつけ、ビジネスにおける重要な KPI に関連する指標 (売り上げやライフタイムバリューなど) の真価を理解すべきです。そうすることによって、ビジネスを大きく飛躍させることが可能です。
もう 1 つのポイントが組織の見直しです。ほとんどの会社では、検索、ウェブ、メール、ディスプレイなどチャネル別に担当者が存在しており、評価もチャネルごとに行われています。ミレニアル世代や優良顧客といったユーザー層ごとにマーケティング担当者を置く組織はほとんどありません。しかしデジタル マーケティングにおいては、こちらのほうが効果的なのです。つまり、 1 人のマーケターが特定のユーザー層を統括して担当し、複数のチャネルを活用したマーケティングを行うというアプローチです。このほうがより役立つデータを集めることができます。
最後に、ビジネスの拡大を目指すマーケターへのアドバイスをお願いします。
より高みを目指し、挑戦を続けてください。自分がよく知っている範囲内で最適化を調整しているだけでは、抜きん出た成果は望めません。さらに「挑戦には終わりがない」ということについて、社内で周知しておくべきです。