すべての顧客が同じ価値を持つということはありません。ビジネスの成長のためには、優良顧客を囲い込むことが必要です。Google のパフォーマンス広告部門マーケティング担当ディレクター Matt Lawson が、デジタル広告代理店 FRWD の CEO である John Grudnowski 氏から、優良顧客に注力する方法を聞きました。
マーケティングの現場では、チャネルや商品を中心とした戦略が主流で顧客中心の対応ができないために、成果を出すことが難しくなっています。 しかし、この状況を打破するマーケターも出てきています。 まずは、顧客の生涯価値(CLV)を戦略の中心に据えることが第一歩です。 それには、組織の壁を取り払い、データと測定の戦略を進化させ、テストして学ぶ文化を育むことが必要です。
Matt Lawson(Google): 顧客中心の戦略では、データが大きな役割を果たします。 まず、組織がデータの統合を実施するうえで、直面する課題を挙げていただけますか。
John Grudnowski(FRWD): マーケティング戦略にデータを組み込むには複数の部門の協力が必要となるため、いろいろな意味でやっかいな作業になるかもしれません。 しかし、この作業はマーケティング部門の腕の見せ所だと思います。 企業の経営幹部は事業部門に対して最善の業績を出すことを求めますが、事業部門では最善の業績を出せるような体制や技術が整っていないケースがほとんどです。 現状では個別のエンゲージメント目標の達成に向けてチャネルごとに予算が設定されるため、ビジネスの全体的な目標ではなく、検索やソーシャルなどのチャネル別の投資収益率を目標として最適化せざるを得ないのです。 これでは成果は期待できません。
弊社では、企業がマーケティング、財務、IT、代理店といった部門の垣根を取り払うことで極めて大きな価値を生み出し、すべての部門が透明性を高め、包括的なデータを利用できるようにサポートしています。
企業が顧客をより深く把握するために、自社データの用途を発展させていることについて、どのようにお考えですか。
自社データはマーケティングの強い味方です。 しかし、的確なタイミングを捉えて顧客にリーチし、個々の顧客に最適なメッセージを表示することだけに、用途が限られている場合が少なくありません。 自社データはそうした用途で有効ですが、優れたマーケターは 2 段階のデータ戦略を取り入れています。 自社データを従来の用途で使うと同時に、自社データから割り出した個々の顧客の価値に基づいて階層的な顧客セグメントを構築し、セグメントごとにメディアやクリエイティブを使い分けているのです。
マーケティングに第三者データが組み込まれるようになりましたが、その点についてはいかがですか。
マーケティング ミックスに第三者データを組み込むことは、新規ユーザーを開拓するうえで欠かせない取り組みです。 第三者データは実用性は高いものの、往々にしてモデリングの精度は自社データよりも劣ります。 また、適切なデータセットを特定するためにテストを実施することも必要になります。 優れたマーケターは、新規顧客にリーチして働きかける顧客開拓の取り組みと、クリエイティブやユーザー層別サービスの有効性を評価する取り組みの両方で、第三者データを上手に活用するようになってきています。
マーケティングの現場では常に顧客の生涯価値が話題になってきましたが、今や話題の中心はその測定に移ってきています。 生涯価値に関しては、現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。
マーケティングに魔法の杖はなく、完全な測定はあり得ないという認識を持つことが、マーケティングの成功に向けたスタートラインになっています。 成果を出すには、個々のチャネルで発生したクリックやコンバージョンの指標ではなく、ビジネス全体の KPI に焦点を切り替える必要があります。 それができて初めて、ビジネスの成果を大局的な視点でリアルタイムに把握して、最も効果的なタイミングでマーケティング戦略を調整できるようになるのです。 もちろん簡単なことではありません。しかし、成果を出しているマーケターは経営幹部を説得し、投資収益率の指標に基づく予算運用から、ビジネス全体の目標に基づく柔軟な予算運用へと舵を切っています。
具体的な成功事例を挙げていただけますか。
成功事例の 1 つは、ミネソタ大学カールソン スクールの事例です。 同校では、10 種類の独自サービスの広告予算を最大化することと、新入生へのリーチとメッセージのパーソナライズで分かれていた予算について統合の必要性を実証することを目指していました。 極めて難しい課題だと思われるでしょうが、顧客の生涯価値を中心に据えることで、とても実践的なプランができました。
プログラムによって各生徒に価値を割り当て、意思決定サイクルのすべてのステージに目標を設定しました。 また、生涯価値を割り出す際の要素として卒業後の関係性も含めました。 顧客の生涯価値を最大化して利益を引き出すという一貫した 1 つの目標を掲げたことで、購入経路全体で予算を柔軟に配分することが可能になったのです。 この取り組みの 1 年目の終わりには、マーケティング予算を増やすことなく、入学者数が 28% 増えました。 2 年目にはこの取り組みへの予算を倍増し、わずか 5 か月で 1 年間の目標を上回る成果を出しました。
マーケターにアドバイスがあればお願いします。
ぜひチャネル別のテストの枠を超え、大局的な視点でテストして学ぶ文化を育んでください。 経営幹部と代理店を巻き込んで、従来のモデルを破棄して仮説を検証するテストへの同意を取り付けましょう。 それには、成果拡大には失敗がつきものであることを、おそらくマーケター自身が理解する必要があります。 また、1 つの戦略がすべてのユーザー層、地域、商品で効果を発揮するとは限りません。しかし、結果から学び続ければ、現状に即して迅速に対応し、適切な変更を加えられるようになるでしょう。