Google 消費財担当副社長 Adam Stewart が、自動車業界を例に挙げ、一元化した顧客データを活用したマーケティングの重要性についてご説明します。
このような経験はありませんか。新車の購入を検討中で、現在乗っている車と同ブランドの最新モデルが欲しいのだが、企業からのメッセージはロイヤル カスタマーに向けたものではない。さらに、そのブランドの販売店で数時間過ごしたにもかかわらず、帰宅直後に「ぜひ一度お越しになり、最新モデルをご覧ください」というメールが届く。ちょうどその販売店を訪れたばかりなのに。
似たような経験をした人は多いはずです。これは多くの業界が直面しているマーケティングの課題です。ブランドは、社内体制を整備して顧客データを一元化しなくてはなりません。生活者のブランドへの期待がこれまでになく高まり、要求を満たさないブランドに対する許容度が低下している昨今、このことは特に重要です。
生活者は、どこからマーケティング メッセージが届くのかは気に留めません。ブランドであっても、その地区の営業所であっても、また販売店であっても、すべて同一ブランドだと認識します。カスタマー ジャーニーのいずれかの段階でユーザーの満足度が低下すると、ブランド全体のユーザー エクスペリエンスの質が低下します。複数の販売経路を持つ自動車業界は、特にこの課題の影響を受けやすいと言えるでしょう。メーカー、地域のディーラー グループ、地場資本の販売店のそれぞれが個別にデータを収集し、マーケティング メッセージを発信しているのが現状です。
優れたマーケターは、本当の意味で顧客に役立つためには、メーカーからディーラーまで、あらゆる関係者が協力しあう必要があるとを認識しています。そのために必要になるのは、いかにして顧客の全体像を把握するかという戦略です。この戦略は、「基盤の整備」、「データの有効活用」、「効果測定手法の再検討」の 3 段階で構成されます。
基盤を整備する
フィアット・クライスラーは、顧客の全体像を把握したマーケティングのため、ブランド、地区の営業所、販売店の顧客データを 1 つに統合しようと考えました。顧客データを一元化すれば、効果を測定することが可能になり、各段階に適した目標を設定することもできます。さらに、そのデータをマーケティングに関連付ける仕組みも必要でした。そうしてはじめて、顧客獲得のためにメディアが役立っているかどうか正しく理解することができるからです。
フィアット・クライスラーが最初に行ったのは、社内チームの組織基盤を整備することでした。これにより、あらゆる販路のマーケティング状況を可視化することができました。さらに同社は、Google マーケティング プラットフォームのアナリティクス 360を導入し、すべての販路のデータを統合しました。
現在同社は、この戦略を傘下のディーラー 2,600 社に浸透させている途中ですが、すべてのウェブサイトで同一のテクノロジーが採用されれば、一元化された顧客情報をもとに、より的確な意思決定を行うことができます。たとえば、ユーザーが販売店のウェブサイトで行った操作や、販売店への問い合わせ電話を、フィアット・クライスラーのブランド メディアと連携させることも可能です。
データを有効活用する
データの統合と連携が完了したなら、マーケティングで活用しましょう。BMW の Mini は、高級車の購入を考えており、BMW ブランドに興味を持っている成年者へのアプローチを検討していました。Mini は、自社の CRM システムに登録されている顧客や、Mini のウェブサイトを閲覧したユーザーなどのデータを蓄積していました。Universal McCann と協力して、これらの自社データを既存の検索戦略に取り入れて有効活用するとともに、「車の購入に関心があるユーザー」に最適化したメッセージを制作しました。
さらに同社は、推測に頼ることなく、適切なユーザーに向けて、適正なタイミングで最適なメッセージを配信するために役立つテクノロジーを導入しました。機械学習により、ユーザーが使用している端末、時間帯、検索履歴などさまざまなシグナルに基づき、適切な瞬間を捉えてメッセージを配信することができます。
このアプローチが功を奏し、Mini の一部のキャンペーンでは、コンバージョンが 3 倍に増加したことに加え、コンバージョン単価が最大 75% 低下しました。
効果測定手法を再検討する
データを統合し、あらゆる顧客情報をワンストップで確認できるようにしたフィアット・クライスラーと Mini は、その情報をもとにマーケティングを開始しました。では、効果測定については改善すべき点はあったのでしょうか。
他の自動車メーカーと同様 Honda も、現在の生活者は複数のデバイスやチャネルを介してブランドに接触しているため、成果に結びついたマーケティング活動の特定が難しいと感じていました。このため Honda と Acura は、効果測定方法をラストクリック モデルからデータドリブン モデルへと移行する計画を立てました。
この試みはまだ始まったばかりですが、第 1 段階として検索チャネルの移行を進めています。まず単一のチャネルに新しいモデルを導入し、効果が確認できればディスプレイや動画といった他チャネルでも採用する予定です。ラストクリック モデルでは、Honda CRV 検索広告のクリックなどの最終タッチポイントに 100% の貢献度を割り当てますが、データドリブン モデルでは、その他のユーザー行動(たとえば「コンパクト SUV 」や「評価が高い SUV 」の検索など)も考慮します。このアプローチにより、Honda と Acura はマーケティング戦略を俯瞰することができるようになり、効果のある戦略の特定も可能になりました。
通常データドリブン アトリビューションでは、ラストクリック アトリビューションと同程度のコンバージョン単価で、より多くのコンバージョンを獲得することができます1。さらに、データドリブン モデルでは、成果につながらないメディアへの配信を停止することもできます。
完璧でなくても前進すべき
自動車業界には、メーカーと販売店が緊密に連携するモデルを実現するという課題が残されています。どのブランドもまだ最適解を見出していませんが、そこにたどり着く道はさまざまです。CEO が主導する場合もあれば、CMO がリーダーシップをとることもあるでしょう。代理店やコンサルタント、またビジネス パートナーなど、外部の関係者がその役割を担うかもしれません。
いずれにしても、生活者の行動変化に応じてマーケティングを進化させることが欠かせません。この鉄則は自動車、テクノロジー、消費財、リテールなど、どの業界においても同様です。今すぐ行動を起こしましょう。すべての販路に関わる経営陣が集まって、ユーザーの期待に応えるためにはどのように基盤を整え、データを活用し、効果測定するのがよいのか、意見を交わしましょう。
「完璧な解決策がない」と言っている場合ではありません。完璧でなくてもいいのです。前進することが大切なのです。