US 版 Think with Google が 2023 年 6 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
私は最近、とあるミーティングについて考えていました。デジタルマーケティングがまだモバイル革命の黎明期にあった 10 年以上前のことです。あるコンサルティング会社から、“ リアルタイム ” マーケティングを採用するよう勧められたのです。興味はあったものの、その頃の技術レベルでは、実現できるとは思えませんでした。
当時、マーケティングチームや広告代理店と共に現場の最前線で奮闘していた私は、増え続ける広告フォーマットに合わせてどのように広告素材を用意するかに頭を悩ませていました。山火事のように燃え広がってはすぐに消えてしまうトレンドに追いつこうと躍起になり、また適切なメディアミックスを手動で組み立て、投資対効果(ROI)を高める予算の使い方を模索していたのです。
何よりも、煩雑なデジタル作業から抜け出して、本来のマーケティング活動である、顧客との関係構築やストーリーテリングの質、ビジネス成果に集中できれば...と夢見たものです。しかし当時は、そんなことはまるで SF の世界のように感じていました。
今は違います。
いまや多くの企業が、顧客に効率的にリーチするために AI を使っています。実際、Google 広告を利用している広告主の 80% は、すでに Google AI を取り入れた検索広告を活用しているのです。ジェネレーティブ AI の登場によって、インサイトの掘り起こしやアイデア出し、コンテンツ生成といった方法論から、どのように人々とつながるか、どのようにビジネス成長を促すか、どのようにパフォーマンスを測定するかといったことまで、マーケティングのあらゆる部分に革命が起こる可能性があります。マーケターは、こうした可能性を秘めた AI を搭載したツールの利用を急速に拡大しています(英語)。
コンテンツの 3 つの V を再定義 ── Velocity(速度)、Volume(量)、Variations(多様性)
コンテンツに関して、マーケターとしての私の最大の悩みはシンプルです。必要なときに必要な場所で人々にリーチするために必要な、コンテンツの 3 つの V ── Velocity(速度)、Volume(量)、Variations(多様性)── に対応するために必要な人材が不足していることです。
Google AI を搭載した新しいツールを使うことで、私たちのチームはかつてない精度で、自分たちで構築したクリエイティブコンセプトを、多様なフォーマットに拡張できるようになりました。これによって、広告クリエイティブの核となるコンセプトの検討(英語)に、より多くの時間と配慮を割けるようになったのです。Google AI は、このコンセプトを基に、SNS 用のコピーやランディングページ、メールなどの素材を瞬時に生成します。
広告についても同様です。代替広告コピー、自動的にフォーマット化した動画、製品写真などの組み合わせによって、幅広い顧客に合わせた広告を無限に生成できるのです。
Google AI が注力する 3 つの分野
Google は、2015 年から広告製品に AI を採用しています。AI が生成した広告クリエイティブの効果は、ディスプレイ広告、動画広告、検索広告のすべてにおいて実証できているため、Google のデジタルマーケティングにおけるメディア支出の大部分も、ここに割いています。
積極的に Google AI の採用を進めている主な分野は次の 3 つです。
クリエイティブの比較
Google Cloud のテクノロジーは、広告の公開前に AI でクリエイティブを採点するので、広告の成否を予測するのに役立ちます。現在提供中のパイロット版では、効果の低いクリエイティブをより迅速に取り除き、高い効果を発揮するであろうクリエイティブをより簡単に特定するために AI を使っています。
また広告代理店と協力し、アセット ライブラリに AI を適用しています。これによって、過去にどのクリエイティブが好評だったのかを把握し、それを将来のキャンペーンに活かすことができるのです。
キャンペーンの最適化
Google のマーケティングチームは、あらゆるマーケティング基盤を AI で最適化しています。多様な画面と視聴者に応じて、Google AI は最適な広告フォーマットと配信面の組み合わせを決定しています。
生活者の行動は複雑ですが、YouTube や検索、Gmail、Google マップ、ショッピング、Discover など、複数の配信面へ個別に広告を配信する必要はありません。たとえば Google AI を搭載した P-MAX キャンペーンなら、1 つのキャンペーンで、Google ネットワーク全体にリーチできます。これを活用して、顧客獲得単価(CPA)を損なわずに、コンバージョン数を 18% 増加させた事例もあります(*1)。
効果測定
デジタル上でのプライバシーに対する生活者の意識が高まっています。それを受けて Google のようなテクノロジープラットフォームでは、規制当局やエコシステムとの対話を通じて、これまで広告効果の測定に利用してきたデバイス ID やサードパーティ Cookie などの手法を段階的に制限する方向へと動いています。マーケティング業界は長い間、広告効果を正しく測定し、効果を最大化するために、膨大な量のデータに依存してきました。Google AI は、より少ないシグナルで、必要な判断材料と信頼できる効果測定を推進する手段の 1 つとなります。
それでも、AI の可能性を最大限に引き出すには、ひたすら実験を進めるだけでは不十分です。私たち Google では、実験を通じて確実に AI 活用について学びを深めてから、それを拡張するようにしています。そうすることで初めて、AI をいつどのように導入して、人々のスキルを補い、そしてさらに高めていけるかについて、より深く理解できるようになるのです。Google AI 基盤の構築について正しく理解してもらうために、「AI の基本」のリストをまとめました。
AI は業界に利益をもたらす素晴らしい可能性を秘めてはいますが、リスクがないわけではありません。だからこそ、こうした取り組みには、大胆であると同時に、スタート段階から責任あるアプローチが大切です。
たとえば、Google はまもなく、誤情報に対処するために、検索結果での「この画像について」の表示や画像の透かしなどの新たなイノベーション(英語)を統合する予定です。また、人々のプライバシーを保護しつつ、パフォーマンスマーケティングの成果を促進するための、プライバシーを重視した Google AI による広告体験を提供しています。
非常にエキサイティングな時代の到来です。かつて私が CMO(最高マーケティング責任者)として消費財や小売業に携わっていたころには、夢見ることしかできなかったツールや機能が、今ここにあります。
マーケティングの目的は、ブランドや製品を人々に結びつけることです。この目的は変わりません。変わったのはその方法です。マーケターの皆さん、私たちはようやく本来のマーケティングに立ち戻ることができるのです。
Google のマーケティングチームは、生産性と創造性を高めるために、以下のような AI ツールを使っています。
Google の実験的な会話型 AI サービスの Bard は、アイデアを生み出したり、新しいトピックを学習したりするのに役立ちます。
新しいキャンペーンの SNS 用のコピーを生成する際に、PaLM API(英語)を使っています。最近の例では、サービスに対する顧客からの想定質問を入力して、それに対する回答を生成しました。その中には驚くほど機知に富んだものもありました。
Gmail と Google ドキュメントに追加された Help me write(英語) 機能を使えば、メールの下書きを迅速に生成し、複数の視点を統合し、ストーリーボードやスクリプトの概要を生成できます。Google Workspace では、長いメールのスレッドを要約したり、プレゼンテーション全体を構築したり、キャンペーン資料を作成したりもできます。