アジア太平洋地域(APAC)版 Think with Google が 2024 年 10月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
筆者のジェイディープ・ジャンギアニは、Google の東南アジア地域における広告マーケティングを担当しています。
AI 技術は、インターネットが進化してきたよりも速いペースで進歩しています。その結果マーケターは、顧客ニーズを捉え、魅力的なキャンペーンを企画制作し、成果を拡大するための新たなツールを手に入れることになりました。
特に APAC では、「AI を活用するのか、取り残されるのか」という段階に来ています。調査では、マーケターの 85% が AI 導入の計画または設計の段階にあると回答しています(*1)。
データが豊富な分野では、AI が企業にとって非常に強力なパートナーになり得ることは間違いありません。しかし、AI によるアウトプットは、インプットするデータの品質に左右されます。質の低いデータからは、質の低いアウトプットしか得られません。
これこそが、AI が人間の創造性、戦略的な洞察力、専門知識に取って代われない理由です。こうした人間ならではの強みと AI を組み合わせることで、初めて AI の可能性を最大限に引き出すことができます。AI は、これまで不可能だったことを可能にし、ビジネスを変革する新たな機会を切り開きます。
しかし、AI 自体はしばらく前からすでに存在していました。いったいなぜ、今になってこれほど話題になっているのでしょうか。
なぜ、誰もが AI について考え、語り、使おうとするようになったのか、そして現在がいかに革新的なタイミングであるのかを理解するために、1997 年まで遡ってみましょう。この年、IBM が開発したスーパーコンピュータ「Deep Blue」は、現役の世界チェスチャンピオンを破った最初のコンピュータアルゴリズムとなりました。
ゲームチェンジャー AI の進歩
Deep Blue は、過去のパターンを分析し、将来の結果が最善となる選択肢を予測する、「予測 AI」の初期形態でした。チェスのような特定の目的に対して膨大な計算が必要な問題を解決するようにトレーニングされていました。
Google でも、Google マップの交通量の予測や広告のスマート入札などで予測 AI を活用し、皆さんの生活や仕事がより良くなるよう改善を続けてきました。
予測 AI を搭載したアプリは、すでに一般的になっていますが、最近の変革のほとんどは「生成 AI」の分野で起きています。特定の結果に向けて推論する予測 AI と異なり、生成 AI は、詩から数学の問題、医療診断、マーケティングまで、幅広いトピックや領域にわたって推論します。また、新しいコンテンツを作成することもできます。
生成 AI は予測 AI よりもはるかに複雑なため、サイズもはるかに大きくなります。2017 年には、この分野のモデルのパラメータ数は 1 億個未満でしたが、その年の後半に Google が「GPT」(Generative Pre-trained Transformer)の「T」に当たる「Transformer」というディープラーニングのモデルを提唱したことで、状況は劇的に変わりました。
その結果、AI モデル設計は急速に進歩し、モデルサイズは過去 5 年間で 1 万 8,000 倍に拡大。2023 年にはパラメータの数が 1.8 兆個にまで達しました。わかりやすく言うと、大規模言語モデル(LLM)のサイズは、インターネットの 5 分の 1 の期間に、4 倍の勢いで成長したことになります。こうした加速的な成長が、AI 分野における飛躍のきっかけとなったのです。
生成 AI における 2 つの進歩
サイズ以外にも、生成 AI はさまざまな面で進歩しています。その 1 つはマルチモーダル化です。画像、動画、音声、コード、テキストなど、さまざまな種類の情報をシームレスに理解し、処理できることを意味します。
Google の AI、Gemini もそんなマルチモーダル モデルの生成 AI の 1 つです。
また生成 AI は、コンテキストウィンドウ(一定のプロンプトで取り込み、処理できる情報量)が飛躍的に増加しています。
たとえば、Gemini 1.5 Pro のコンテキストウィンドウは、2024 年 2 月から 5 月の間に 2 倍の 200 万トークンに増加しました。これは、5,000 ページの書籍、2 時間の動画、22 時間の音声、6 万行のコードに相当するコンテンツを取り込んで処理し、高度に洗練された高精度の推論を即座に実行できることを意味します。
AI の変革力
話を再び、現在に移しましょう。今やマーケターは、初期段階の調査からアイデア出し、クリエイティブ制作、キャンペーン成果の最大化まで、マーケティング全体にわたって AI を活用できるようになりました。これ以下では、Gemini モデルを会話型のインターフェースで直接使えるようにした「Gemini アプリ」を例に、マーケティング活動において AI がどのように役立つのか、具体的に紹介します。
リサーチ
新しい市場の可能性やセグメントの規模の推定など、マーケティングキャンペーンの初期段階の調査は時間がかかるものです。しかし Gemini を使えば、数分で結果を推定できます。最近リリースした新機能「Gem」を使えば、数回の操作で、どんな分野であってもパーソナライズされた専属の AI アシスタントを作成できます。
たとえば、インドネシアの Z 世代のコーヒー好きにキャンペーンを届けたいコーヒーブランドがあるとしましょう。まずは、市場調査のアシスタントとして機能するカスタム Gem を作成します。この Gem では、1 プロンプトでインドネシアの都市における Z 世代の市場規模を分析できます。過去の調査結果で Gem をトレーニングし、より関連性の高い回答を得ることもできます。
アイデア出し
調査段階からアイデア出しに移行するために、Gemini のアイデア生成機能を使って、クリエイティブな発想のきっかけを作ることができます。先ほどのコーヒーブランドのキャンペーンを例に取りましょう。Z 世代のコーヒー好きにリーチするための 30 秒の動画広告について、4 〜 5 個のアイデアを出すよう Gemini に依頼することで、インスピレーションを得ることができます。
このとき、プロンプトが具体的であればあるほど、より精度の高いアイデアが得られます。気に入ったアイデアがあれば、「もっと考えを共有して」「詳しく説明して」と促すことで、さらに深堀りすることもできます。
クリエイティブ制作
すばらしいアイデアを得られたら、次は「Imagen 3」を使ってクリエイティブ制作を始めましょう。Imagen 3 は、テキストで入力したプロンプトに基づいて数秒で高品質な画像を生成する、Google の画像生成モデルです。Gemini アプリで利用できます。
Gemini アプリで「『mirachiato』というブランド名の缶コーヒーの画像を生成してください。氷のように冷たく、結露した水滴が滴り落ちていて、背景には、波と白い砂浜のある海岸やビーチがあります」というプロンプトを入力し、Imagen 3 が画像を生成している様子
キャンペーン成果の最大化
魅力的なクリエイティブや説得力のあるキャンペーンの効果を高めるために、視聴者の特定のニーズに合わせて適切なタイミングでそれらを届けましょう。
そのためには、適切な広告インプレッションを選び、数秒で多数のオプションについて意思決定を行わなければなりません(英語)。ここで、AI がゲームチェンジャーとして登場します。
AI を活用する広告キャンペーンは、パフォーマンスの向上だけなく、マーケティング全般にわたってますます洗練されてきています。
たとえば YouTube では、インストリーム広告、インフィード広告、ショート広告を通じて、エンゲージメントの高い視聴者とのつながりを構築し、さまざまなマーケティング目標の達成に役立てることができます。認知度を高めるには動画リーチ キャンペーンを、ブランドの検討を促すには動画視聴キャンペーンを使いましょう。また、デマンド ジェネレーション キャンペーンを活用すれば、YouTube、Discover、Gmail などの配信面を通じて、視覚に訴える広告で需要を創出することもできます。
また、P-MAX キャンペーンを活用することで、検索をはじめとした Google の幅広いチャネルで、キャンペーンを広く届けることができます。AI を活用した広告キャンペーンでは、顧客がどこにいてもリーチできるだけでなく、利益の最大化などのビジネス目標に向けて、キャンペーンを最適化することも可能です。
実際、現場のマーケターは長年、テクノロジーとクリエイティビティの融合を大切にしてきました。なぜなら、それが素晴らしい結果をもたらし、優れたクリエイティブが優れたビジネスにつながることを知っているからです。AI の時代が到来した今、このゲームチェンジングな瞬間を捉え、マーケティングの力でビジネスを変革する機会を最大限に活かすときが来ています。