生活者の情報との接点が多様化していく中で、それにどう応えて自社の成長へつなげていけるか。マーケターに求められる役割も広がっています。
マーケティング全体を管理する上でその力をいかんなく発揮するためにも、テクノロジーを活用し、データに基づいて生活者の購買行動を的確に理解することが重要です。
そうしたマーケターの強い味方として、Google では 2021 年に「P-MAX キャンペーン」の国内での提供を開始しました。Google AI を活用して広告パフォーマンスを最大化することを目的としたツールです。1 つのキャンペーンで、検索や YouTube、ディスプレイ、ショッピング、Gmail、Google マップ など、あらゆる Google サービスへ横断的に広告を配信でき、クリエイティブや入札、チャネルごとの予算配分も、最適化できます。
今回は、この P-MAX キャンペーンを駆使することで成果を上げた 4 社のマーケティング事例を紹介します。
ROAS 向上と新規顧客獲得を両立させた、BtoB の EC 大手「MonotaRO」
まず紹介するのは、BtoB の大手 EC サイトを運営する株式会社MonotaRO です。広告費用対効果(ROAS)を高めつつ、新規顧客の獲得に成功しました。
MonotaRO のマーケティング目標は、新規顧客の獲得です。しかし、従来の検索広告やショッピング キャンペーンの運用では、リーチ、ROAS ともに伸び悩んでいました。検索広告のマッチタイプとして「部分一致」を増やすことによるリーチ範囲の拡大や、目標 ROAS の引き下げ、自社データを活用したライフタイムバリュー(LTV)の予測モデルの導入などをやり切っており、さらなる成果を見込めない状態だったのです。
そこで活用したのが P-MAX キャンペーンでした。
導入による運用効率の悪化のリスクを軽減するために、まずはトライアルとして、従来のショッピング キャンペーンで目標 ROAS を満たしていなかった小規模カテゴリを対象に運用を開始しました。その結果、導入後 4 週間で、従来のショッピング キャンペーンと比較して ROAS が 48% 向上し、新規の法人顧客の獲得数も 44% 増加したのです。これを受けて、他のすべてのカテゴリでも、ショッピング キャンペーンから P-MAX キャンペーンへの移行を進めました。
MonotaRO の小林史明氏(広告グループ グループリード)は P-MAX キャンペーンの活用を決めた理由について「Google 広告の最新プロダクトを積極的に活用することは、オンライン広告での競争力を保つための重要な戦略の 1 つ」と振り返ります。
同社では今後、主力商材にも P-MAX キャンペーンを採用し、ビジネスインパクトへのさらなる検証を進めていく予定だということです。
会員登録から他サービスの利用確率を加味した最適化へ移行「freee」
上で見た通り、Google AI を活用した製品はマーケティング目標を達成する手段として有効ですが、これを最大限活用するには、マーケターによる基盤作りが必要です。その好例として、P-MAX キャンペーンと Google 広告の自動入札戦略の 1 つである「価値に基づく入札戦略(Value Based Bidding、VBB)」を組み合わせた freee株式会社の事例を紹介します。
freee は、バックオフィスを効率化する BtoB の SaaS 型クラウドサービスを開発、運営しています。同社では、AI が最大限効果を発揮できるように、データに基づいた分析や運用設定を行いました。
P-MAX キャンペーンを活用したのは「freee会社設立」という無料で法人設立に必要な書類が作成できるサービスです。ここでユーザーと接点を持ち、freeeが提供する他サービスの利用を促す役割を果たしています。
freee会社設立はこれまで、検索広告を中心にユーザー獲得の最大化を図っていましたが、幅広い見込み顧客獲得のために新たなプロダクトの活用を検討していました。そこで目をつけたのが、広告展開が可能な Google サービス全体にリーチを広げられる P-MAX キャンペーンでした。
導入当初は freee会社設立の会員登録に最適化する形で、目標 CPA での入札戦略を採用していました。その後、最終的なビジネス成果へのさらなる貢献を目指して、カスタマージャーニーを分析。その後の有料サービスの利用へつながる確率を基に、最適化するコンバージョン(CV)アクションに CV 値を割り当て、Google 広告へそのデータを送信しました。機械学習に十分なデータを確保するために 28 日間データを蓄積し、その後目標 ROAS での VBB に切り替え、効率的な配信を実現したのです。
CV データを分析したところ、PC からのCVが最終的な有料サービスの利用 につながりやすいことがわかったため、一定のルールに基づき CV の価値を調整できる「コンバージョン値のルール」を利用して、PC からの CV を他デバイスよりも高く評価するように設定。その後、検索広告の入札戦略も切り替え、Google 広告全体で CV 値を最大化する入札戦略を実施しました。
その結果、Google 広告経由の CV 値は 169% 増加、ROAS も 96% 向上しました。また会員登録数は 7.2% 増加と、より価値の高い CV を獲得できたのです。
中古車事業の「ガリバー」、成約確率の高い見込み顧客を獲得
freee 同様に P-MAX キャンペーンと VBB の組み合わせによって成果を上げたのが、中古車の販売買取店「ガリバー」を全国に展開する株式会社IDOM です。
ガリバーの中古車買取販売サービスでは、Web サイト上のフォームからの申し込みを、店舗での成約へとつなげる必要があります。そのため従来は P-MAX キャンペーンを導入し、見込み顧客の獲得数を KPI とした目標 CPA による運用で、フォームからの申し込み数や店舗での成約数を計測してきました。
こうした運用で見込み顧客の獲得数を伸ばすことに成功した一方で、その質にはまだ改善の余地がありました。より成約確率の高い見込み顧客を獲得することで、ROAS や利益へのさらなる貢献を目指していたのです。
見込み顧客の質と量を両立させる運用を目指して、同社はまず顧客行動を分析。オンラインからオフラインまで横断して広告を最適化するために、オンライン上での最初の接点から成約までの行動を分析し、Google の BigQuery を活用して自社データに基づいた予測成約率を算出しました。その数値を P-MAX キャンペーンの CV 値として設定し、VBB による配信を実施。同時に、個々のキャンペーン(ディスプレイ、ファインドキャンペーン)に分散していた予算と効果の高いクリエイティブを、P-MAX キャンペーンに統合しました。
対象の中古車買取販売のキャンペーンにおいて、従来の目標 CPA での入札と、新たに VBB を導入した目標 ROAS での入札を比較したところ、導入 1 カ月間で成約率は 1.4 倍 、成約単価は 30% 削減、ROI は 10% 向上。狙い通り見込み顧客の成約率と獲得数を両立させたのです。
チラシ配布に代えて来店効果を可視化、ROAS 890% の「イトーヨーカ堂」
最後に紹介するのは、総合スーパーを展開する株式会社イトーヨーカ堂です。P-MAX キャンペーンを活用して来店成果をデータ化することで、ガリバー同様に来店数の増加に加え、売り上げの純増に成功しました。
同社の課題は、紙のチラシの購読率が低下し、またリーチできる年齢層も偏っていることでした。チラシではリーチし切れていなかった年齢層に向けた新たな集客ツールを検討していたのです。そこで、来店への効果はもちろんのこと、その数値を計測できてかつ顧客のインサイトを理解できる P-MAX キャンペーンを採用しました。
まずは P-MAX キャンペーンで全地域に広告を配信して、エリア別の広告効果を比較することで、デジタル広告が特に有効なエリアを洗い出しました。デジタル広告が有効なエリアには、デジタルデバイスをよく利用する年齢層、つまり同社がこれまで紙のチラシでリーチできていなかった潜在顧客が多いと仮定し、そのエリアへの広告配信に注力したのです。潜在顧客に対しては別途アンケート調査を実施し、コスパや利便性といったニーズを明らかにした上で、それに沿ったクリエイティブを配信しました。
また、広告による店舗の売り上げへの貢献を可視化するために、イトーヨーカ堂と広告代理店、Google の 3 社で効果検証の体制を整えました。あらかじめ同質になるように設計した 2 つのグループの一方には広告を配信し、もう一方には配信せずに効果を確認。そのデータを用いて AI の予測モデルを作成し、広告を出稿しなかった場合の売り上げを予測しました。この予測と、実際に P-MAX キャンペーンで広告を配信した際の売り上げを比較したところ、売り上げの純増を確認できました。また純増分に対する ROAS は 890% と想定以上の成果を収めることができたのです。
成功の理由として、従来のチラシでは難しかった商品カテゴリごとのクリエイティブの出し分けや、P-MAX キャンペーンの強みである、顧客行動に合わせた広告配信はもちろんですが、何よりその基盤としてのデータ活用の体制が非常に大きな要因だったと言えます。大手スーパーであるイトーヨーカ堂においても、デジタル広告が新たな競争優位性に成り得ることを証明しました。
今回紹介した 4 社を見てもわかる通り、Google AI はマーケターが戦略を考える際の強力なサポーターになります。マーケティング目標を効率的に達成するために、P-MAX キャンペーンをはじめとした最新技術を活用してみてください。
Contributor:守川 美来 パフォーマンスソリューション プロダクト エキスパート