US 版 Think with Google が 2024 年 6 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
AI は、広告クリエイティブの一連の制作プロセスにどのような影響を与えるのか——。広告業界のリーダーたちが話すのを、至る所で耳にします。私たちは、AI を活用することで、より高度な問題に対して人間の創造性を発揮できるようにしている 15 人のリーダーにインタビューを実施し、企業が AI を日々の業務に無理なく取り入れるヒントを明らかにしました。
以下では、インタビューを通じて浮かび上がってきた 3 つのステップを紹介します。これらを取り入れることで、チームの創造性を高めることができるでしょう。
1:AI 実装を進める特設チームを立ち上げる
今回話を聞いたリーダーたちは皆、AI の導入を加速させるために特設のプロジェクトチームを組成していました。これは組織とデータを保護しながら、AI を責任を持って効果的に活用する上で不可欠な役割を果たします。
米広告代理店 Pereira O’Dell の創業者でクリエイティブ部門の責任者を務める PJペレイラ氏は「イノベーションラボ(企業内に設置された、新規事業など実験的な取り組みを進めるための研究開発部門)によって、私たちは実験し、先駆者として試験的なプロジェクトを実行できました」と話します。
AI 導入を進めるための特設チームが必要な理由としては、次の 3 つが挙げられます。
- ユースケースを特定する:新しいツールを導入する前に、まずは組織全体を見て、AI によって解決できるビジネス上の問題を特定することが重要です
- AI 活用の環境を整える:クリエイティブチームが AI を効果的にかつ責任を持って使えるように、ツールやガイドライン、インスピレーションを提供する必要があります
- 常に先を行く:AI は絶えず進化するため、その動向に常にアンテナを張ることで、イノベーターとしての地位を確保しなければいけません
組織に特設チームがなくても、おそらくそれぞれが無料のツールを使って AI を導入し続けるでしょう。しかし無料ツールの多くは、ビジネスで使うには欠点があります。たとえば、ツールで生成したコンテンツの著作権が、ツールの提供者に帰属する場合があります。また、ツールに対して共有した情報が、プライバシー保護が不十分な状態で学習データとして使われ、会社の知的財産やユーザー情報が危険にさらされる可能性もあります。
リサーチ、メディア、クリエイティブなど、分野別の特設チームを設置するのも良いでしょう。重要なのは、組織全体の AI 実装を主導する一元化されたリーダーシップです。
なお、特設チームは必ずしもフルタイムである必要はありません。チームのメンバーが通常業務を継続することで、日々の業務に AI をどう活かせるかを考えられます。また正式な報告ラインにとらわれない機能横断のチームだからこそ、部署の垣根を越えて AI に関する知識を共有し、情報交換を活性化できます。
2:クリエイティブ制作のあらゆる段階で AI を活用する
今回インタビューをしたリーダーたちは皆、アーリーアダプターです。AI ツールが使えるようになった瞬間から、それらを使い始めました。
しかし、今からでも遅くはありません。話を聞いたリーダーたちは、誰でも使える既存の製品と「Google 広告における AI 活用の基本」のような基本的な基盤の整備から始め、今では、戦略の立案からアイデア創出、実際の制作まであらゆる段階に AI を実装しています。
AI で戦略を立てるための知見を見出す
AI を使えば、何カ月もかけて情報を集める必要はありません。膨大なデータからわずか数分で、インサイトを見つけ出すことができます。たとえば Google の Gemini のような AI は、自社ブランドに関する調査データや顧客に関するデータ、さらにはソーシャルメディアのトレンドまで分析し、広告戦略の立案に直接的に役立つ洞察を明らかにできます。
Gemini などで使っている大規模言語モデル(LLM)は、世界中の情報を基に学習しています。そのため特別な設定をしなくても、すぐに役立つインサイトを提供してくれるのです。そのまま AI にインサイトを尋ねることも、過去の調査データを LLM に提供して戦略立案に役立てることもできます。
アイデアを出して、形にする
戦略が決まったら、次はブランドやキャンペーンの中核となるコアアイデアを創造する段階です。ここでも LLM が力を発揮します。まるでチームの一員のように、さまざまなアイデアをスピーディーに出し、具体化し、検証していくプロセスをサポートします。また、LLM に独自のファーストパーティ データを学習させることで、世界に関する一般的知識に加え、その企業ならではの知識を AI に持たせることができます。
クリエイティブ制作をサポートするプラットフォーム Springboards.ai の共同創業者であるピップ・ビンゲマン氏が指摘するように、LLM のこうした能力により、クリエイティブな役割以外のマーケター(たとえば戦略担当者)が、一連のクリエイティブ制作プロセスの早い段階でアイデアの概念実証を作成できるようになり、プレゼンテーションを強化し、時間を節約できます。
Media.Monks の共同創業者であるウェスリー・テル・ハール氏も同意見です。「適切な知見の生成が、ブリーフィングとクリエイティブなアイデア創出にほぼ直結することがわかっています」
LLM はテキストのためだけのものではありません。画像にも使われており、まもなく動画にも使用されるようになるでしょう。たとえば Gemini は、テキスト、画像、動画を扱うようにゼロから構築されており、その広範な情報処理能力によって質の高いアウトプット(英語)を生み出すことができます。広告の観点から見ると、最新の LLM はまるで伝説的な広告クリエイターであるビル・バーンバック氏が提唱した、コピーライターとアートディレクターのコンビのような、複数の専門分野を兼ね備えた存在と言えるでしょう。
アイデアを素早く形にして、検証し、繰り返し改善することで、クリエイティブチームはより効果的なアイデアにより早くたどり着けます。たとえばアウトドア用品の会社が「探検の価値」についてのインサイトを見出したとしたら、AI を使うことでそのインサイトを反映した広告をすぐに作り出すことができます。
広告クリエイティブをさまざまな形で展開する
AI は、広告のコンテンツ制作も効率化します。クリエイティブチームは、AI を活用したクリエイティブツールである Product Studio を使って時間とリソースを節約したり、Google 広告のナレーション機能(日本語は未対応)を使って、異なるプラットフォームや生活者に対して簡単に広告を最適化したりできるようになりました。
こうしたツールを使えば、人々の多様なニーズ、要望、状況を反映したクリエイティブを短時間で制作できます。あらゆる人に対して、一貫性があり説得力のある方法で、何度も、大規模にリーチするように広告を調整できるのです。これまで制作に割かざるを得なかったリソースを、より創造性を発揮する領域や広告を届けるメディア戦略に対して投資できます。
AI を使ってさまざまなプラットフォーム向けに広告素材を生成できるツールもありますが、P-MAX キャンペーンなら、各社が設定したブランドガイドラインや Web サイトのコンテンツ、画像を使って、無数の素材をリアルタイムで生成します(2024 年 10 月現在、英語を含む 7 カ国語に対応)。また P-MAX キャンペーン は常に学習し、Google のプラットフォーム全体でインパクトとリーチを最大化できるように、自動でキャンペーンを最適化します。
VCCP が英通信企業 O2 のために行ったように、広告代理店は特定の目的を達成するために独自のカスタムツールと方法論を構築することもできます。
従来の AI は量と速さの面で力を発揮していましたが、最先端のツールはこれまでにない規模で、多様なクリエイティブアセットを生成できます。リーチだけでは十分ではありません。リーチと関連性を組み合わせることが重要です。
動画はこちら(英語)。VCCP 傘下のクリエイティブ AI エージェンシー faith は、多様なキャンペーンクリエイティブで O2 のマスコッ トBulb に命を吹き込むために、特注の生成 AI ツールを構築した。
無料の既製ツールであれ、オーダーメイドの AI ソリューションであれ、どちらを選んでも、ビジネスの成長、効率化、組織での AI 活用を加速させるのに役立ちます。これらの基本が整えば、長期的な目標の観点で AI による変革について考えられます。
3:AI を活用した革新的な体験を構築する
今回インタビューをしたリーダーたちは、AI ツールを単に利用するだけでなく、まったく新しい体験を創造しています。これらの体験は、AI、ファーストパーティデータ、そして個々の企業に合わせて独自に開発したプログラムを組み合わせることで、オーダーメイドに作り上げられています。どのようにそれを実現しているかを見てみましょう。
- AI 搭載ツール:多くの企業は、ソーシャルメディア、レビュー、顧客とのやり取りをリアルタイムで分析するための社内 AI ツール(英語)を構築しています。これにより、トレンドに素早く対応し、顧客に対してパーソナライズされた体験を提供できます。さらに、成果の出た広告クリエイティブやキャンペーン結果を学習し、マーケターによるテストや学習を助けるツールもあります。
- AI を活用した顧客体験:AI を活用した販売アシスタントやパーソナライズされたおすすめ機能は、企業と顧客間のやり取りを大きく変えています。たとえば米ファッションブランドの Victoria's Secret は、Google Cloud と協力して AI を活用した販売アシスタント(英語)を構築しました。Google Cloud の Vertex AI を基盤とするこのアシスタントは、買い物客に合わせた商品のおすすめや、役立つアドバイスを提供します。
- AI を活用したキャンペーン:最も革新的な企業は、AI を使ってまったく新しいクリエイティブコンセプトや広告素材を生成しています。AI が生成した音楽からインタラクティブな体験まで、可能性は無限大です。
こうした AI を活用した体験は、従来のマーケティングとは異なりますが、マーケティング目標の達成に貢献します。一方、AI を活用したキャンペーンは、AI によって強化された従来のマーケティングキャンペーンです。これらのキャンペーンは、人々がクリエイティブな方法で直接参加できるような仕掛けになっています。
Media Monks のテル・ハール氏が手掛けた Burger King の「100 万ドルのワッパーコンテスト」も、AI を効果的に活用したキャンペーンの良い例です。このコンテストでは、参加者が生成 AI を使って自分だけのオリジナルワッパー(ハンバーガー)を作り、それをソーシャルメディア上で共有するというものです。優秀作品は商品化され 100 万ドルの賞金が授与されます。テル・ハール氏はこのキャンペーンについて「とてもシームレスな体験なので、ほんの半年前にはこのようなことが文字通り不可能だったことに誰も気づかないでしょう」と話します。
将来に向けて
AI が次に私たちをどこに導くのか、想像するだけでわくわくします。確かなことは誰にもわかりませんが、クリエイティブおよび AI 業界のリーダーたちのアドバイスは、時代を超えて通用するものだと確信しています。
AI 活用を主導する特設チームを立ち上げ、クリエイティブの制作プロセス全体に AI ツールを採用し、革新的な AI 体験を構築することで、これらのリーダーたちは、スタート地点から最先端に至るまでの道のりを切り開き、私たちにクリエイティブ業界の未来についての刺激的なビジョンを示してくれました。
謝辞
このプロジェクトのために時間を割いて知見を提供してくださった皆さまに心から感謝します。業界の AI リーダーである皆さまの英知を共有でき、大変うれしく思います。ご協力いただいた皆さまは以下の通りです(名前のアルファベット順)。
- ピップ・ビンゲマン氏(Co-founder, Springboards.ai)
- エヴァン・ボーム氏(Group Creative Director, Experience and AI, Buck)
- ラジニーシュ・ボリア氏(Head of Creative Technology, Ogilvy India)
- レックス・ブラッドショー・ザンガー氏(Chief Digital and Marketing Officer, South Asia Pacific, Middle East, and North Africa Region, L’Oréal Groupe)
- アレックス・ダルマン氏(Managing Partner, Head of Social and Innovation, VCCP and Faith)
- サブリナ・ゴッデン氏(Global Creative Director, Vodafone)
- ウェスリー・テル・ハール氏(Co-founder, Media.Monks)
- ソリン・パティリネット氏(Senior Director of Global Marketing Effectiveness, Mars)
- PJペレイラ氏(Founder and Creative Chairman, Pereira O’Dell; Founder, Silverside AI)
- フレデリック・ライヤル氏(Co-Founder and Chief Creative Officer, Fred & Farid; Founder and Head of Generative AI, [Ai]magination)
- トム・ローチ氏(VP of Strategy, Jellyfish)