広告でビジネス成長を後押ししようとする過程で、皆さんの会社では「ねじれ」に直面していませんか。
たとえばデジタル広告の運用で、コンバージョン(CV)数やコンバージョン単価(CPA)を KPI に設定している場合は多いでしょう。しかしこれらだけに目を向けていると、部分最適化が進み、肝心の会社全体の利益につながらない、いわゆる縮小均衡の状態に陥ってしまうことがあります。
ここでの問題は広告の KPI である「CV 数や CPA」と、「利益」に代表される会社としてのビジネス目標とが結びついていないことです。
なぜこうしたねじれが生じてしまうのでしょうか。
ビジネス目標と広告 KPI との「ねじれ」、理由は?
ねじれの要因は、企業の成長段階に応じて、「ビジネス目標」と「広告 KPI」が見直されていないことにあります。
創業期など顧客の拡大が最優先の時期には、CV 数や CPA を 広告 KPI に据えるのがビジネス目標とも合っているでしょう。しかし事業が成熟段階に入っていくにつれて、CPA は次第に悪化し、商品や顧客体験の改善だけでは CV 数も目標に達しないといった問題が生じてきます。
当初のまま CV 数や CPA を追いかけていると、「事業を成長させるために積極的にマーケティング投資を増やしたい」ものの「CPA の改善が見込めず利益を圧迫し得る投資には踏み切れない」といったジレンマに悩まされることになるのです。
理想を言えば、マーケティングの責任者が経営層や事業責任者と議論を重ね、事業成長に応じて、その都度ビジネス目標と広告 KPI 間の認識を合わせられればスムーズです。
とはいえ、事業の成長速度や規模によっては、常にマーケティングを考慮してビジネス目標を定義するのが難しい場合もあるでしょう。経営層と対話できる組織体制の構築や風土の醸成から着手しなければいけない場合もあるかもしれません。また組織が拡大するにつれて部門を超えた連携も難しくなり、全社的に目標を浸透させるハードルも上がります。
そのため、すでにねじれが生じてしまっているのであれば、まずは今の KPI を、事業の成長に応じて組織全体で見直すことから始めてみましょう。
KPI 見直しで、マーケティングをプロフィットセンターに転換
ねじれ解消の最もシンプルな解決策は、広告の KPI として、ビジネス成長に直結する指標を組み込むことです。たとえば CV 数や CPA ではなく、広告費用対効果(ROAS)を KPI に据えれば、ビジネス目標に対する直接的な貢献を可視化することができます。
CV 数や CPA を追求しようとすると、できる限り費用を効率化し、縮小する方向へと進むため、マーケティングはコストセンターとして扱われがちです。一方で ROAS を KPI に据えられれば、売上や利益の最大化が目標となるため、マーケティングは製造や営業と同様に利益を生み出せる、いわゆるプロフィットセンターへとその位置付けを転換できるのです。
もちろんこれは一例で、たとえば CPA を目標とした運用でも、ビジネス目標と広告 KPI が紐づいていれば機能します。反対に、ROAS を目標に運用していても、ビジネス目標との整合性が取れていなければ、マーケティング部門の一存で効率重視になってしまうこともあります。
いずれにせよ重要なのは、ビジネス目標に合った KPI を設定して、利益を優先した広告運用を実現することです。
進化する Google AI、ビジネス成長と「そろえる」ことの重要性
昨今の不確実な経済状況の中で、マーケティング部門には、さらなるビジネス貢献と投資対効果への説明責任が求められています。情報探索や購買行動がますます複雑化、多様化しており、活用できるデータ量と幅も広がる中では、進化し続ける AI とテクノロジーの活用こそが、マーケティングをプロフィットセンターへと転換する鍵なのです。
Google では 2023 年に、Google AI を取り入れたマーケティングを通じて持続的なビジネス成長を実現するための具体的なアクションを「グロース・トライアングル」として示しました。
グロース・トライアングルは、「そろえる」「すすめる」「みつめる」という 3 つの要素から成ります。
この 3 つを推し進めることで、ビジネス目標と広告 KPI のねじれを解消し、マーケティング起点でビジネス成長を実現できます。
グロース・トライアングルに沿ったアクションとして、今回取り上げた KPI の見直しを例に見てみましょう。
KPI を見直す大切さは紹介したとおりですが、既存の KPI について社内で共通認識がある場合、新しい KPI を再び浸透させるのは大変です。再定義した KPI を浸透させるには、分断した縦割り組織を超えた密なコミュニケーションが欠かせません。マーケティング部門だけに閉じることなく、営業やコールセンター、経営企画、財務といった関係部門と会話を重ねる必要があります。ビジネスとしてどんな指標を重視しているのか、その目標に対してマーケティング投資はどのように貢献できるのかなど、組織の成果について共通理解を持つことが重要なのです。
これがグロース・トライアングルにおける「そろえる」のプロセスに当たります。Google ではこうした一連のプロセスをサポートするべく、マーケティング部門と関係部門をつなぐワークショップを開催するなど、試験的な取り組みも実施しています。
さて次の記事では、実際に Google AI を活用して、ビジネス目標と広告 KPI のねじれを解消した株式会社SBI証券とトライトグループの事例をそれぞれ紹介します。
Contributor:神谷 俊昭(CXスペシャリスト)/ 麦島 修(ヘッド オブ アナリティカルコンサルタント)