情報があふれる今、企業に求められているのは、生活者の期待に的確に応える情報を提供し続けることです。
人々は、自分に深く関係する情報を得ることで、買い物での自分の選択に確信が持てるようになります。そしてそれこそが、企業と生活者との関係構築の第一歩となるのです。この点については以前の記事で詳しく紹介しました。
ただし、生活者との関係は一度築いたら終わりではありません。継続的に意味ある情報を提供し続けなければ、他の商品や企業に代替されてしまいます。マーケターは生活者の重層的なニーズを理解し、生活者と適切なコミュニケーションを取り続ける必要があります。
そこで重要な役割を果たすのが AI です。AI を活用することで、生活者 1 人ひとりにとって最適化された意味ある情報を届け、生活者とビジネスを最適な形でつなげることが可能になります。
そして AI の能力を引き出すのは、投入するデータの質と量です。独自のインサイトの発見、最適なオーディエンスの開拓、LTV の計測などが重視される今、AI を最大限活用するためにファーストパーティ データの価値が高まっています。
そこで今回は、Google Marketing Live 2024 での発表内容を基に、Google AI を取り入れたさまざまな製品を通じて、私たちがどのようにマーケティングの可能性を広げようとしているのか、さらに Google AI の基盤となる最新のデータ活用について紹介します。
AI が生活者理解をさらに後押し —— 人々の意図を捉え、根底にあるニーズの掘り起こしも可能に
これまでのデジタルマーケティングでは、企業は生活者のオンライン上での情報探索を予測し、それぞれのニーズに合った情報を提供してきました。
しかし今や AI の発達により、人々の情報探索の背景にある意図までくみ取れるようになりました。
検索行動を例にとって考えてみましょう。人々の検索クエリの単語数は年々長くなっています。検索を通じて求める情報が、より個別具体的になっていることを示していると言えるでしょう。
こうした期待に応える製品の 1 つが、検索広告のマッチタイプである「インテント マッチ」です。これまで長らく「部分一致」として提供してきましたが、2024 年 7 月から名称を変えました。
背景には、言語モデルが大幅に改善したことで、Google AI が文脈や行間をより深く理解し、検索の意図まで捉えられるようになったことが挙げられます。従来の「部分一致」という名称では、機能の実態を正確に表せなくなっていたのです。
実際、過去 6 カ月間で、インテント マッチと自動入札を掛け合わせて利用している広告主のパフォーマンスは平均 10% 改善しています(*1)。
より効果的に顧客獲得が可能になったことはもちろんですが、それだけではありません。
たとえば株式会社KINTO の事例では、車のサブスクという新しいサービス形態のため、顧客の獲得につながる検索クエリが読めない状況でした。そこで、Google AI が自動でニーズを捉えるインテント マッチでの運用を試みたところ、「車 分割払い」「車をお得に買う方法」など支払いに関するクエリからの獲得が多数確認できました。車の支払いに関する情報探索の過程で、サービスにたどり着く可能性があるという新たな顧客インサイトを発見できたのです。
このように、AI の進化は効率的な顧客獲得だけに寄与するものではなく、新たな需要の掘り起こしや、カスタマージャーニーのさらなる理解にもつながっています。
「AI による概要」などで生活者の広告接点はより価値ある形へ
前述のとおり、人々が自分にとって意味ある情報を求める結果、検索行動はますます複雑になっています。
たとえば Google では、検索結果の画面に生成AI がまとめた回答とその関連リンクを表示する「AI による概要」の実装を進めてきました。これも、生活者がより素早く効率的に、意味ある情報を得られるようにするためのアップデートの 1 つです。
こうした生活者の検索行動の変化に加え、AI を中心としたテクノロジーが発達した結果、広告を通じて生活者と企業との接点もさらに多様化しています。
たとえば「AI による概要」にも広告枠の追加を発表しましたが、これにより生活者は興味のある商品やサービスをさらに見つけやすくなり、企業としてはより価値ある形で生活者との接点を持てるようになります。
AI による概要への広告枠の拡大は、一例にすぎません。最近では「Google レンズ」や「かこって検索」などの画像検索を通じて、言葉では表現しきれない自分の望みを検索することも増えています。これを受けて、画像検索の結果にも広告の表示枠を拡大予定です。
生活者の変化やテクノロジーの進化に合わせて、アップデートを模索しています。
複雑な情報探索行動に、チャネル横断で最適化
人々はある商品の購入に至るまでに、オンライン/オフライン問わず、複数のチャネルを横断しながら情報探索や検討をするようになりました。
このような生活者の動きに対して、検索や YouTube、ディスプレイなどチャネルごと個別の広告配信では、捉えられる顧客接点に限りがあります。また個別に管理する広告が増えるほど、マーケターの負担も大きくなってしまいます。
そこで Google では、幅広い Google の広告枠への配信を 1 つのキャンペーン上で管理できる「P-MAX キャンペーン」を開発。Google AI の精度向上によりチャネル横断で最適化が図れるようになったことで、近年特に活用を推進してきました。
製品の特性上、初期は小売業を中心に活用が進んでいましたが、今では業種を問わず効果を発揮しています。P-MAX キャンペーンとインテント マッチを併用した場合、小売業以外でも、導入前と同等の顧客獲得単価(CPA)や広告費用対効果(ROAS)で、平均 27% 以上のコンバージョン(CV)数の増加が確認できています(*2)。
東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)もその 1 つです。同社のポイントサービス「JRE ポイント」では、P-MAX キャンペーンとインテント マッチを併用。さらに、ファースト パーティデータをオーディエンス シグナルとして掛け合わせて配信精度を高めたことで、CV 数が 48% 純増しました。AI の精度の高さを実感した同社では、インテント マッチへの比重をさらに高め、現在では全体の 74% をインテント マッチで運用しています。
複数の配信面を横断して広告を届けられるという点では、P-MAX キャンペーンだけでなく、動画や画像などの視覚的なクリエイティブで訴求できる「デマンド ジェネレーション キャンペーン」も活用が進んでいます。YouTube ショートを含めた YouTube や Discover などの配信面に対して広告を表示できます。
旅行サービスを提供する株式会社エイチ・アイ・エスは、海外航空券の広告でデマンド ジェネレーション キャンペーンと検索広告を併用。ファーストパーティ データに基づいた「最適化されたターゲティング」や「類似セグメント」で配信精度を高めた結果、重複接触者のコンバージョン率(CVR)は 3 倍になりました。気軽とは言えない買い物に対して、画像や動画など視覚的な情報提供で人々の検討プロセスに寄り添ったことも、成果の一因と考えられます。
AI によるクリエイティブ生成が、現実的な選択肢に
オーディエンスや掲載面に応じて多様なフォーマットに展開する重要性は、上で見た通りです。しかしこのときにネックになり得るのが、それぞれの配信面に最適化した広告クリエイティブの準備でしょう。配信面が増えるほど、サイズや動画尺などを最適化した素材を用意しなければいけません。
この負担を軽減するため、Google 広告に AI によるクリエイティブ生成を実装しました。
ただし、クリエイティブ生成に関してマーケターの役割がなくなったわけではありません。生成するクリエイティブの質を高めるには、やはり投入するデータが重要です。プライバシーに配慮したファーストパーティ データと Google 広告のデータを組み合わせることで、より成果につながるクリエイティブを生成できるようになるのです。
ビジネス価値に直結する配信技術
従来、広告の効果は「CPA が許容範囲か」「CV 件数が最大化できているか」といった指標で判断せざるを得ませんでした。
しかし本来、広告を通じて達成したいゴールは、CV の先にあるビジネス成長や利益の向上です。これに対して貢献できているかを見直す必要があります。
そのために Google では「顧客価値に基づく入札戦略」を提供してきました。各 CV の価値を算出してそのデータを Google 広告と連係させることで、Google AI が CV 値や ROAS の最大化に最適化できるようになります。
さらに、より収益性を高める「利益目標ベースの入札戦略」も追加。CV や売上原価のデータを基に、利益向上につながる見込みが高い広告枠に対して優先して配信できるようになります。
Web とアプリ横断でシームレスなユーザー体験を提供
ここまでは、Web に焦点を当てて話を進めてきましたが、もちろん人々の探索行動は Web だけにとどまりません。Web とアプリを横断する動きをマーケティングに組み込む重要性はますます高まっています。
Web とアプリをシームレスにつなげて成果を上げたのが、株式会社リクルートの不動産情報サービス「SUUMO」の事例です。Web とアプリの両チームが、社内横断でユーザー体験の改善に着手しました。すでにアプリユーザーの LTV が高いことがわかっていたため、「Web to App コネクト」を導入。生活者が Web 上での検索結果から、すでにインストールしているアプリ内の該当ページに直接遷移できるようにしました。これにより A / B テストでは、CV 数が 56% 増加しました。
そのほかのアップデートに、iOS 向けに配信したアプリ広告において、Google 広告上で確認できる CV の精度が大幅に改善するなど、あらゆる場所やタイミングの生活者にアプローチしてビジネス成果につなげられるようになりました。
Google AI を通じて精度高く成果を把握することで、高速で PDCA サイクルを回せる環境が整っています。
データ活用が Google AI の基盤に
ここまで見たとおり、AI の進化によって、生活者の期待に応えながら企業のビジネス成長を実現できるようになりました。
そして繰り返しになりますが、AI 活用の基盤となるのは投入するデータの質と量です。企業のビジネスゴールを AI に理解させ、目的に合った質の高いファーストパーティ データがあれば、AI は正しく学習していきます。
しかし Google の調査によると、ファーストパーティ データの活用を進める上で 1 番の課題は、データ連係の複雑さでした。
そこで、直感的な操作画面で、保有している顧客データを一元管理できるように開発したのが「Google 広告データ マネージャー」です。定期的なデータ連係のためのスケジュール設定やデータの整形など、これまで社内で対応しなければいけなかった業務も、一度データソースに接続してしまえば自動化できます。
高度なセキュリティ環境で、データ連係を推進する
ファーストパーティ データを広告システムと連係させることで、さらなるビジネス成長を実現できる可能性があります。
たとえば株式会社SUBARUの場合、マーケティング、販促、メンテナンスなど部門ごとにデータが分散していたことで、カスタマージャーニー全体での一貫した分析が難しい状況でした。そこで、あらゆる顧客情報を「SUBARU ID」として統合し、これを軸に統合マーケティング基盤を構築。さらに統合したファーストパーティ データを Google 広告と連係させることで CPA は 20% 改善し、商談数や見積もり件数も増加するなど、幅広い顧客接点で価値を高めました。
このようなデータ連係を進める上では、その安全性を確保しなければいけません。これを強化するために、Google では新たに「コンフィデンシャルマッチング」という機能を開発しました。これにより、ファーストパーティ データと Google 広告のデータを、より安全で透明性高く照合できるようになりました。
データの照合は「TEE」(Trusted Execution Environment)と呼ばれる高度なセキュリティ環境下で行われます。ハードウェア上の安全な領域内でデータを保護しながら処理するため、外部からのソフトウェアレベルの不正アクセスや改ざんから保護できるといった特徴があります。TEEは、広告のみならずさまざまな業界で、データ保護のために利用されています。
AI がマーケティングの可能性を広げる
ここまで見たとおり、情報環境やそれに伴う生活者の変化、テクノロジーの進化によって、マーケティングのあり方や担う役割そのものも変化を迫られる可能性があります。顧客ニーズをより深く理解し、適切なタイミングで最適な情報を届け、持続的なビジネス成長につなげるには、AI によって日々アップデートされる広告製品への見方も変えていかなければいけません。
これは Google 広告に限った話ではなく、大きな変化に直面している今、業界全体で新しい形を作り上げていく必要があるのです。
Contributor:小澤 昇歩(ヘッド オブ メジャメント & データ)