Google Marketing Live 2023(GML)(2023 年 5 月 23 日、米国開催)では Google AI を活用したマーケティングソリューションを発表しました。この記事では、進歩を続ける Google AI によってマーケティングにどのような機会が生まれているのか、それをつかむために今、何に取り組んでおくべきかを紹介します。
近年の AI の進化は目覚ましいものがあり、マーケティング分野にも新たな風を吹き込んでいます。
ただし、まず理解しておきたいのは、AI によって今すぐにマーケティングのあり方そのものが変わるわけではないということです。振り返ると 20 年ほど前、日本でインターネットが普及し始めたころから、デジタル化の波はマーケティングを段階的に変化させてきました。
そしてマーケティングは「一方通行から双方向」「経験と勘からデータドリブン」へとシフトすることになったのです。また、「企業規模を問わない機会提供」「より容易な国外向け販売施策」にも貢献してきました。AI の進化も、こうした大きな変化の流れの中にあると考えるべきでしょう。
マーケティングが直面する 3 つの変化
このような発展を遂げてきたマーケティングですが、現在また新たな変化に直面しています。
1 つ目は、生活者の行動の変化です。スマートフォンの普及を背景に、人々は従来の「カスタマージャーニー」の順序に沿った合理的な購買プロセスではなく、直感的で一見すると非合理にも思えるようなプロセスをたどるようになっています。
Google マーケットインサイトチームは 2018 年に「パルス消費」というコンセプトを発表しました。昨今の買物環境では、情報量・選択肢がとても多いため、合理的に比較検討をすることが難しく、より直感的な選択が増加しているという結果を示したものです。また 2019 年には、そうした予測が難しい生活者の情報探索行動を「バタフライ・サーキット」として発表しています。
さらに、直感的な自分の選択に対して確信を持とうとする生活者の心理や行動も見えてきました。Google では選択に対する自信の強度を「肯定度」という概念で表し、この肯定度の高低がその後の商品サービスの満足度に影響を与えることを紹介しました。
こうした例からもわかる通り、これまでの合理的で順序立った購買行動を前提としたマーケティングだけでは、生活者のニーズを捉えきれなくなっているのです。
変化の 2 つ目が、データ取得の難しさです。
データの活用は依然としてマーケティングの中心に位置づけられますが、生活者のプライバシー保護への意識が高まり、法令の整備や業界の自主規制も進んだことで、個人に紐づいたデータの取得やその利用には、より配慮と慎重さが求められるようになりました。
現在マーケターには、データ活用と同時に「データ取得が難しい状況でも成果を出すための代替策」が求められているのです。
そして 3 つ目は、企業内におけるマーケティング投資への説明責任です。
広告費は増加を続け、その中でもデジタル広告への比重は増しています。企業内でのマーケティング部門の存在感は増していると言えるでしょう。
しかしながら、昨今の経済状況の中で企業活動の見通しを持つのは簡単ではありません。マーケティング部門には、さらなる貢献と投資対効果への説明責任を果たすことが期待されています。
このような変化の中でも、マーケティングの価値を発揮し、発展を続けていくために鍵となるのが、Google AI です。活用を進めていくことで、この先マーケティングが企業の成長そのものへより直接的なインパクトを与えられるようにもなるでしょう。
Google AI を取り入れてマーケティングを前に進めるために、何に取り組めばよいのでしょうか。企業やマーケターが今できる具体的なアクションを「グロース・トライアングル」というフレームで整理します。
グロース・トライアングルは、「そろえる」「すすめる」「みつめる」 という 3 つの頂点で成り立っています。
それぞれの要素に紐づいたアクションによって、三角形の面積を広げていくことで、マーケティングが直接的に企業の成長へと貢献できるようになっていきます。
組織のサイロを打破して、目線を「そろえる」
さて、グロース・トライアングルの要素の 1 つ目が「そろえる」です。
これは、企業全体のビジネス目標とマーケティング活動との関係性を整理し、マーケティングに活かせるデータ基盤を整備することを意味します。これにより、Google AI に与える変数が明確になり、マーケティングの方向性が、最終的なビジネス目標と一致するようになるのです。
目線をそろえるためには、組織のサイロを超えた密なコミュニケーションが欠かせません。マーケティング部門に閉じることなく、営業やコールセンター、経営企画、財務といった関係部門と会話を重ね、ビジネス目標としてどんな指標を重視しているのか、その目標に対してマーケティング投資はどのように貢献できるのかなどを議論することが重要です。お互いに理解を深めていくことで、合意形成や社内における成果について共通理解が生まれていきます。
Google では、欧米の知見も基に、マーケティング部門と関係部門をつなぐワークショップを開催するなど、企業やマーケターの皆さんと一緒に最適解を模索すべく試験的な取り組みを実施しています。
またデータ基盤を構築する際には、Google Cloud Platform や BigQuery、Google アナリティクス 4、Firebase などを活用し、システムとマーケティングを柔軟に連携できる点が Google の強みです。
Google AI を動かし続け、マーケティングを前に「すすめる」
組織における目線を「そろえた」ら、次は実際にマーケティングを進めていきましょう。「すすめる」では、データと Google AI を動かし続け、効率的かつ効果的に顧客基盤の拡大と安定を図ります。
現在の AI 言語モデルの性能は、2017 年以降 5,000 倍に向上し、人間の自然言語を理解する能力も 50% 向上したと言われています(*1)。今後ますます、生活者の検索における細やかな表現の違いやニュアンスを理解していくことでしょう。広告による生活者との接点を、より自然に、価値ある形で多く生み出せるようになるのです。
代表的な例が、Google の検索広告マッチタイプの 1 つである「部分一致」です。部分一致自体は 2019 年からすでに Google が推奨してきましたが、AI の発達により、その精度はここにきて飛躍的に向上しています。
また検索広告と、Google サービスへ横断的に広告を配信できる P-MAX キャンペーンとの併用(パワーペア)も、新たな打ち手になるでしょう。Google AI の精度向上が確認できた 2023 年から Google はこれを推奨し始めました。日本における初期の取り組みの 1 つでは、広告掲載面を広げトップラインをさらに伸ばす目的で活用。コンバージョン数を 30% 増加させると同時に、顧客獲得単価(CPA)は 12% の増加にとどめることに成功しました。
さらに、「そろえる」で設定したビジネス目標に対して広告運用を最適化する際には、「価値に基づく入札戦略(Value Based Bidding)」の活用が有効です。
マーケティング投資の貢献を「みつめる」
実際にマーケティングを「すすめた」ら、それを評価して次のマーケティング投資につなげていく必要があります。それが「みつめる」です。適切な効果検証を行い、それに合わせたマーケティング投資や運用ができているかを判断する必要があります。
しかし「すすめる」で紹介したように、Google AI の進化に伴い新たな広告製品やアプローチが生まれてくると、従来の手法ではその効果を正しく検証できない可能性があります。 誤った意思決定を避けるために、多角的な検証が必要です。
まずは顧客価値の視点。たとえばライフタイムバリューのように、獲得した顧客ごとに、自社ビジネスへの貢献度を推計できる手法を確立しましょう。
次にメディアとデバイスの視点。Google AI による最適化で、クリエイティブはさまざまなタイミングで多方面に届けられます。それは Web やアプリ、スマートフォン、 PC、コネクテッドテレビなど実に多様です。そのため、これらを横断して評価する「データ ドリブン アトリビューション」や「Web to App Connect」のような手法が欠かせません。
しかし、計測ツールのクリックに基づいた効果測定だけでは、ビジネス目標全体への貢献度を把握するのが難しい場合があります。そこで最後に必要なのが俯瞰の視点です。統計モデルによる検証を掛け合わせましょう。Google では「エリア別配信テスト」や 「CausalImpact」「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)」などを組み合わせた効果測定で意思決定をサポートしています。
このように、多角的な検証で各施策の効果や効率を総合的に判断することが可能になれば、AI がより包括的に機能するメディアプランニングが実現できるようになるのです。
「グロース・トライアングル」に取り組むにあたって
ここまで、Google AI をマーケティングに活かすグロース・トライアングルを紹介しましたが、取り上げた 3 つの要素のうち、いったいどこから始めればよいのか疑問に思うかもしれません。
グロース・トライアングルを運用する際の指針として、マーケティング課題に応じたいくつかの例を紹介します。
たとえば、マーケティングで積極的な企業成長を遂げるという戦略を掲げた場合、ビジネス目標とマーケティング活動の関係性を把握し、データ基盤を整備する「そろえる」がきっかけになります。
また、マーケティング投資全体の効率化を検討せざるを得ない場合は、より成果が見込めそうなものを見極める「みつめる」が起点です。そこから適切な予算配分で効果を最大化するための「そろえる」「すすめる」が続きます。
あるいは、マーケティング部門においてリードの獲得数だけでなく質も両立させるために、Google AI を活かした「すすめる」にまずは取り組む場合もあるでしょう。
ある 1 つの広告施策だけでなく、動画や検索、アプリなどさまざまな広告展開まで試していきたい、広げていきたいという時には、具体的に「すすめ」つつ、「みつめる」で各施策を共通の KPI で検証して、その貢献を判断することになるでしょう。
AI を活用し、企業の持続的成長に貢献するマーケティングを
Google AI によるマーケティングの進化とは、端的に言えば、複雑化する生活者の行動に応じて、企業が届けるメッセージとそのタイミングの精度を高めること、そして、企業の成長そのものに対し、マーケティングが直接的かつ継続的に貢献することです。今回はそのためのアクションを紹介しました。
Google はこれからも AI の力を活用し、マーケティングをさらに発展させ、企業の持続的な成長をマーケティングによって強固に支えるべく貢献していきます。
AI をマーケティングに活かす足がかりとして、まずは Google AI と Google 製品を活用してみてはいかがでしょうか。
Contributor:大木 義昭 インダストリーヘッド 金融業界担当 / 夏木 龍也 ビジネスファイナンス ファイナンシャルアナリスト / 麦島 修 ヘッド オブ アナリティカルコンサルタント