ヨーロッパ、中東、アフリカ(EMEA)版 Think with Google が 2023 年 8 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
AI への関心が急激に高まる中、ビジネスにどう活かせるかを模索しているマーケターは多いでしょう。私が所属する Google のマーケティングチームでも、AI チャットの Bard を用いて SEO コンテンツの制作を効率化できるか試しています。
マーケターの 67% は AI を前向きに受け止めていますが(*1)、一方である程度の不安も抱いています。まだまだ明らかになっていない点も多く、当然ながら多くの企業が疑問を持っていることは、私も認識しています。
そこで、皆さんが急速に進歩する AI を最大限に活用できるように、Google に寄せられる代表的な質問に対して Google 社内の専門家が回答します。
AI の可能性を引き出せるかが企業の成長の鍵になるでしょう。以下の回答で、皆さんが自信を持って Google AI を活用したマーケティングに取り組めることを願っています。
質問 1:Google AI を活用したキャンペーンの効果をより高めるには何をすべき?
AI は優れた機能を提供してくれますが、それを活用する人間の専門知識や戦略的思考と組み合わさることで、初めて成功につながります。
だからこそ、適切な目標を設定する最初のタイミングから、AI を取り入れることが重要です。たとえば Google 広告のキャンペーンを新規顧客の獲得に最適化したい場合、自動入札戦略の 1 つである「価値に基づく入札戦略(Value Based Bidding)」と「『新規顧客の獲得』目標」を組み合わせるのが有効です。こうすることで Google AI は、既存顧客よりも新規顧客の入札単価を高くしたり、新規顧客にのみ広告を表示したりするなど、アルゴリズムを調整します。
目標が設定できたら、次に適切なシグナルを Google AI のアルゴリズムに提供しましょう。関連する「オーディエンスのシグナル」を提供することで、広告に強い関心を持っている潜在顧客をより早く学習し、効果的にリーチできるようになります。シグナルを設定することは、AI の可能性を最大限に引き出すための手がかりを与えるようなものです。
さらに、オリジナルの高品質な動画やテキスト、画像などの素材を追加することで、キャンペーン成功につながります。AI が、その企業に合った、共感を呼ぶように個々人に最適化された広告体験を実現できるようになります。
質問 2:データの不足や変動に直面した際、最も適切なデータを Google AI と共有する方法は?
使いにくい顧客管理システムや、長い販売サイクル、価格の変動など、企業はしばしばデータに関する課題に直面します。だからこそ、同意を得て取得したファーストパーティデータを有効に活用するために、時間と労力を先行投資する価値があるのです。
Google AI と共有するデータを微調整するには、継続的なテストが必要です。始めるにあたって知っておきたい項目を紹介します。
- 最小コンバージョン(CV)数:Google 広告の入札アルゴリズムを機能させるのに必要なデータ量は、思っているほど多くはありません。それでも十分な CV が得られない場合には、CV ポイントを、アプリのインストールや電話での問い合わせなど他のアクションに最適化してみてください。
- モデリング:Google AI は、Google タグ、拡張 CV、同意モードなどのモデリング機能と予測機能を使うことで、データのギャップを埋めます。これにより、情報が不完全だったり不足したりしている場合でも、より賢明な意思決定を行えます。
- オフライン CV のトラッキング:データベースや顧客管理システム、実店舗への来客など、オフラインで記録された CV のデータをインポートすることで、どのキーワードと配信条件が最も広告費用対効果(ROAS)の高い CV をもたらしているかをより包括的に確認できます。
- 季節性の調整:Google AI は、時間の経過とともにデータの変動を学習して調整しますが、季節性の調整ツールを使うことで、セール時期や季節の変化に合わせてキャンペーンを微調整することもできます。
そして、忘れてはならないのは、量より質だということです。Google AI を活用してキャンペーンを成功させる鍵は、大量のデータを蓄積することではなく、適切なデータを選択することにあります。
質問 3:AI がマーケティングデータから学習するということは、競合もうちのデータから恩恵を受けるのか?
一般に、AI アルゴリズムの正確性を高めるには、大規模なデータセットでの学習が必要です。マーケターが使う AI ツールを強化するアルゴリズムもまた、数十億ものシグナルで学習することで、改善していきます。
ただし Google では、明示的な許可がない限り、広告主である企業のデータを他の企業と共有することはありません。競合他社があなたの会社の Google 広告の CV データにアクセスしたり利用したりすることはあり得ないということです。
自動入札の効果を改善したり、スパムや詐欺の検出精度を高めたりする目的で集約した CV データを用いることはありますが、その場合のデータは厳密に匿名化したものです。個別の企業のデータは完全に保護しています。
また Google 広告ではファーストパーティデータの管理と有効化が簡単に行えます。同意を得た顧客データを保護しながら、より関連性の高い潜在顧客にリーチして、CV を測定し、収益増につなげられるようになります。
質問 4:生成 AI による素材が、著作権など法的に安全に使えるかを確認する方法は?
広告素材の編集やサイズの調整、翻訳などに掛かる時間を節約するために、生成 AI(英語)によって作成された素材を試す企業も増えています。ゼロから新しい広告クリエイティブを制作するのにも役立つでしょう。
ただし、著作権の保護など法律を遵守し、ブランドイメージを守ることの重要性は、どれだけ強調してもし過ぎることはありません。
AI が作る広告を使う場合、スタート地点は必ず自社のオリジナルコンテンツとブランドガイドラインであるべきです。そうすれば、AI は既存の素材と組み合わさり、一貫性を保ちつつ、企業のビジョンやブランドアイデンティティに沿うようになります。
生成 AI によるクリエイティブを使う場合は、法務部門を巻き込んだ徹底的な確認が不可欠です。Google は、商標侵害の懸念に対処するためにオンラインフォームで問題を簡単に報告できるようにしています。Google の広告クリエイティブチームはこれらの報告を精査し、侵害を是正するために必要な措置を講じます。
もちろん、広告関連の著作権や法的な問題は、生成 AI の台頭以前から存在しました。Google では、広告コンテンツの作成方法にかかわらず、広告コンテンツを審査するための確立されたポリシーをすでに導入しています。これは、コンテンツ制作者の権利を守るために、著作権および商標のガイドラインの遵守を促すものです。
生成 AI による素材を安全に使用するには、進化し続ける業界のガイダンスやポリシーを常に把握した上で、人の目で精査し、オリジナルコンテンツで素材を補完しましょう。そうすれば、コンプライアンスを守りながら、自信を持って AI の創造性を取り入れることができるでしょう。
質問 5:AI による分析やインサイトを、ビジネス戦略に活かすには?
AI は、人間が設定した目標に向けて最適化していくものです。ただし、継続的な学習と改善を通じて、その目標を達成するためにより良い、新たな方法を発見できます。たとえば、ゲームの「ブロック崩し」で勝つことを目標として設定すると、AI は何度もプレイするうちに、ゲームに勝つための最善の方法は、ブロック壁の側面に、ボールが抜けるトンネルを作ることだと学習します。
このように、AI が学習して導き出した結果は、マーケターの意思決定にとっても非常に貴重なものです。以下で、Google 広告で提供している AI ツールを紹介します。
Google 広告の分析情報ページは、個々のキャンペーンの最適化だけでなく、データに基づいてより包括的なビジネスアプローチに関する意思決定も支援します。
注目すべき主な分析情報:
- 変更履歴の分析:アカウントでの最近の変更のうち、広告のパフォーマンスに影響したものを確認できます。
- アセットに関するオーディエンス分析:どの広告素材が最もオーディエンスの共感を集めているかを確認できます。
- オークション分析:自社と同じオークションに参加している競合他社と自社のパフォーマンスを比較できます。
- ペルソナに関するオーディエンス分析:どのオーディエンスが最も多くの CV を獲得しているかを確認することで、より CV 確率が高いオーディエンスへのリーチに集中できます。
分析情報ページでは、広告効果を把握して改善するために重要な情報を提供しています。たとえば、新たな市場での売り上げの急増や、どのオーディエンスセグメントが最も CV を獲得しているかなどを特定することで、配信条件の絞り込みや、特定のニーズに合わせたサービスの調整が可能です。これらの情報を活用することで、さらなるビジネスの成長と収益性の向上を実現できます。
質問 6:Google AI を活用した包括的な広告ソリューションはありますか?
2021 年、Google は広告キャンペーンをより簡素化するために「P-MAX キャンペーン」のトライアルを開始しました。P-MAX キャンペーンは、入札戦略や予算、オーディエンス、クリエイティブ、アトリビューションなどの最適化に Google AI の技術を織り込んでいます。また、マーケターがすでに検索広告で実施していることを、YouTube やディスプレイ、Discover、Gmail、マップなど、他のチャネルにまで拡大します。
現行のキャンペーンに P-MAX キャンペーンを追加した場合、CV や CV 値がどう増加するかを理解してもらえるように、私たちは最近、P-MAX テストの提供も開始しました。P-MAX キャンペーンを運用した際の上昇率を測定できます。
では、これらの機能を包括する統一的な AI ソリューションは現れるのでしょうか? 私たちが広告業界全体を代表して語ることはできませんが、Google では今後もキャンペーンの構築を簡素化し、統合するために、透明性や統制を確保しながら AI の活用を続けていきます。
そのため、まずは引き続き、Google 広告の効果を高める検索広告と P-MAX キャンペーンの組み合わせ(パワーペア)を推奨していきます。