ヨーロッパ、中東、アフリカ(EMEA)版 Think with Google が 2023 年 3 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
筆者のドロテア・ウィーズマン・ロトハイゼンとウォイテク・スクートは Google のエンジニアとして、AI と大規模言語モデル(LLM、英語)の改善に取り組み続けています。検索広告のマッチタイプである「インテント マッチ(旧:部分一致)」などの機能を実装するチームのメンバーです。
AI の基盤となる技術の飛躍的な進化に伴い、AI への関心は高まり続けています。たとえば、LLM の進化で AI は言語をより深く理解できるようになり、より自然で直感的な会話が可能になりました。
こうした技術によって、検索広告のマッチタイプである「インテント マッチ」も大幅に強化されました。インテント マッチは、指定したキーワードと同じ意味や関連した検索結果に対して広告を表示できる機能で、「完全一致」や「フレーズ一致」よりもリーチを広げられるのが特徴です。これを採用すると、関連性のある検索キーワードをすべて細かく設定する必要がないため、設定作業を軽減できます。
インテント マッチの機能自体は、Google 広告の初期から「部分一致」という名称で提供し続けてきましたが、今ほど高い精度ではありませんでした。そして 15 年ほど前から、勢いを失いつつありました。
当時はたとえば、「自宅でペットを治療(treating)する」といった検索クエリに対して、「ペットのおやつ(treat)」という関係のないキーワードの広告を表示してしまうことがありました。逆に、本来は「自宅でペットを治療する」と関連があるはずの「獣医がいなくても」というキーワードの広告は、互いに同じ単語が含まれないために表示できなかったのです。
しかし、Google AI の新たな進歩と機能の継続的なアップデートにより、インテント マッチはこのようなニュアンスや文脈をより適切に解釈できるようになりました。
今では、人々の検索クエリをより深いレベルで理解し、検索の意図を把握できるようになっています。検索広告にとって最も効果的なソリューションの 1 つになっているのです。
Google AI の進化がマーケティングの視野を広げる
現在のインテント マッチを、部分一致として実装した当時、Google のエンジニアリングチームはキーワードの同義語を手作業で書き出しましたが、それは非常に広範囲にわたる作業でした。たとえば「cheap(安価)」を含むキーワードは、「inexpensive(低価格)」だけでなく「shoestring(靴ひも)」を含む検索クエリとも一致するようにしました。「shoestring」は、靴ひもという意味のほかに、「(用途に満たない少額の)budget(予算)」という意味で使われることもあるためです。
進化した機械学習(英語)のおかげで、LLM は人々の検索意図をより深く理解できるようになりました。何十億ものテキストを使って学習させることで、LLM は単語やフレーズのさまざまなバリエーションや意味、その並びによって生まれる意味合いなどを理解できるようになりました。Google のエンジニアリングチームでは、まずこうした基本的な土台を整備してから、広告と検索クエリのマッチングといった特定のタスクを割り当てていきました。
インテント マッチを使うと、潜在的な顧客需要に対してアプローチできますが、スマート自動入札と組み合わせるとさらに効果を発揮します。スマート自動入札では、プライバシーに配慮した方法で、ユーザーの検索履歴や興味関心、購入履歴などの幅広いシグナルとその周辺のデータポイントを考慮。よりコンバージョンの可能性が高いオーディエンスを予測するのに役立つ予測モデルを構築します。
インテント マッチはどう進化した?
インテント マッチに関する、主な改善点を紹介します。
単語の順序の重要性を理解できるように
従来は、検索クエリ内の単語と広告を紐づけていましたが、クエリ内の単語の順序は、必ずしも考慮できていませんでした。
順序を考慮しない場合、たとえばオランダのアムステルダムからスウェーデンのストックホルムへの航空券を探している人に「ストックホルムからアムステルダムへの航空券」の広告を表示してしまう可能性があります。以前であれば Google の担当者は、適切なクエリに広告を表示するために、別のキーワード戦略を勧めたことでしょう。しかし今では、A 地点から B 地点に進むこととその逆が同じではないことを、インテント マッチは認識しています。
同様の改善は、検索クエリが一方向にしか機能しない他の領域にも適用しています。たとえば、「ユーロをスウェーデンクローナに両替」や「USB を USB Type-C に変換するケーブル」を検索している人にとっては、これらの単語が入れ替わった広告は関係ありません。インテント マッチは、こうしたクエリから人々の意図を理解できるようになったのです。
より関連性の高い広告を表示するための優先順位
「同じ広告主の 2 つの広告が、同じ検索クエリに一致した場合はどうなりますか?」という質問がよく寄せられます。従来は、広告主の広告ランクを基にどちらの広告を表示するかを決めていましたが、これが常に最善とは限りませんでした。
そこで、広告と検索した人々との関連性を高めるために、広告グループ内の他のキーワードや広告のランディングページなどの情報をより考慮するようになりました。また LLM の性能が向上したおかげで、検索クエリの多種多様な意味を理解できるようになり、より関連のある広告を表示できるようになっています。
多言語検索における広告表示
多言語検索への対応も進んでいます。インテント マッチは、人々がオンラインで何かを探すときに言語を切り替えていることを認識し、その情報を基に適切な広告を配信します。
たとえばオランダ在住のトルコ語を話す人や、デンマーク在住の英国人などの場合です。検索クエリがユーザーの母国語であっても、現在住んでいる国の言語での情報を探している場合があります。
キャンペーンをたった 1 つの言語で実行するだけで、すべての言語でトラフィックを獲得できるとまでは言いません。キャンペーンの成功は、独自の言語設定とクリエイティブのローカライズに依存するからです。
それでも、国外から働きに来ているマルチリンガルの駐在員が多い国では、検索がその国の言語以外で行われても、インテント マッチによって関連性の高い現地の広告を表示できることを知っておくとよいでしょう。
現在の検索広告におけるインテント マッチの役割
インテント マッチは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ほどではありませんが、古くからある機能です。この 1985 年公開の映画と同じように、インテント マッチは、現在の価値を理解するのに、時には過去を振り返る必要があることを示しています。
インテント マッチが Google AI によって効果的なツールに進化したとはいえ、これを操るのは変わらずマーケター(英語)です。精通したマーケターは、広告のパフォーマンスを確認し、適切な入札戦略(英語)を見極め、インテント マッチによって確認できた新たなクエリを、新規顧客の獲得へと役立てます。キャンペーンを通じてオーディエンスとその行動に関する新たなインサイトを発見できるのです。
AI はあなたから学び、あなたも AI から学びます。インテント マッチを成功につなげられるかは、この機能を扱うチームにかかっています。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシン、デロリアンで過去や未来に向かうには、その発明者であるドクのインプットと創造性が必要だったように。