音楽、映画、オリンピック関連、個性的な YouTuber などが注目を集めた 2016 年の動画トレンドに、新たに加わった兆候の 1 つが料理やお菓子などの作り方を紹介した「レシピ動画」です。Google データを参照しながら、「レシピ動画」普及の背景や生活者の行動に与える影響、さらにはマーケティングにおける活用例などを見ていきましょう。
Google 検索データによれば、 2015 年秋以降から徐々に「レシピ 動画」の検索数が増加しており、 2016 年の 5 月以降は大きく伸びています。さらに詳しく、「レシピに関する検索全体」と「レシピと動画の掛け合わせ」それぞれについて、検索数の推移を比較してみたいと思います。2011 年 1 月の検索数を 100 として検索数を比べてみたところ、 2015 年まではいずれも緩やかな増加傾向ですが、 2016 年は「レシピ」と「動画」を掛け合わせた検索数が飛躍的に伸びていることが分かります。
「 レシピ × 動画 」 「レシピ全般」に関する検索ボリュームの推移
(月間 2015 年 1 月~ 2016 年 9 月 )
グーグルが実施したレシピ動画に関する調査( 2016 年 11 月調査 N= 687)では、「インターネットでレシピ動画を視聴したことがあるか?」という設問に対して、調査回答者の約 50% が視聴した経験があるとしています。
性年代別では、女性の「18歳 - 24歳」で約 5 割、25 歳以上では 60% 以上がレシピ動画を視聴したことがあると回答しています。また「18 歳 - 24 歳」を除いた男性の約 40% 以上でも、視聴経験があると答えています ( 男性・女性共に 55 歳以上の数値は、調査手法の特性上参考値扱い ) 。
性年代別 レシピ動画視聴経験
またレシピ動画の視聴者のうち約 40% が週に 1 回以上動画を見ています。そのきっかけは、料理サイトや SNS のフィード上で偶然接触したケースだけでなく、積極的に検索エンジン ( 22% ) や動画サイト ( 12% ) で検索して探しているようです。
レシピ動画を見るきっかけ
このように、生活者の中で「レシピ動画」の存在感が高まっているのはなぜなのでしょう?
ひとつには、レシピ動画専門プラットフォームによるサービスの開始や積極化が挙げられます。Tastemade や Tasty といった海外のレシピ動画専門プラットフォームが日本でサービスを展開したと同時に、 KURASHIRU FOOD や Delish Kitchen といった日本発のレシピ動画専門のプラットフォームも誕生しました。さらに、料理レシピの検索・投稿インターネットサイトの草分けともいえる「クックパッド」も、 2015 年 6 月よりレシピ動画の提供を始めています。
その結果、生活者がレシピ動画を目にする機会も増えてきました。日々の生活文脈に沿ったテーマである「料理」は、受け入れやすい動画コンテンツだったのではないでしょうか。レシピ動画では、料理を作る過程をシンプルにわかりやすく見せたり、五感を刺激するシズル感のあるシーンを盛り込むなど、様々に工夫を凝らしています。見るだけではなく、シェアしやすいコンテンツであることも大きな要因と考えられます。
では、 Google 検索の「レシピに関する検索全体」と「レシピ動画」の時間帯別推移比較から、さらに詳しく分析をしてみましょう。「レシピに関する検索全体」では、昼食時間に向けて小さなピークと晩ご飯に向けての大きなピークがあり、 18:00 以降は減少していきます。これは、その日の昼食や夕食に作るメニューを考えるという実用的なニーズが要因だと推察できます。
「レシピ全般」のある平均的な1日の時間別 検索ボリュームの推移
一方、「レシピ × 動画」については、食事時間前のピークはなく、 21時 - 23 時の夜の時間帯に最も検索されていることがわかります。このことから、視聴者は必ずしも次の食事の準備のためではなく、コンテンツとして楽しむためにレシピ動画を視聴しているという実態が見えてきます。
「レシピ動画」のある平均的な1日の時間別 検索ボリュームの推移
では、視聴者にとってレシピ動画は見て楽しむことだけを目的としたコンテンツなのでしょうか? 今回の調査からは、視聴後に新たな行動を喚起できる可能性が浮かび上がってきました。
5段階評価の Top1 box において、 67% がレシピ動画の視聴をきっかけとして「食べてみたい」という気持ちが高まったと回答しており、 61% が「レシピ動画を見て、自分も作ってみたい」と感じたと答えています。「紹介されていた食材や調味料などを買ってみたいと思ったことがあるか」については、約 40% が「ある」と回答し、「ややある」まで含めれば、約 7 割が購入意向が高まったと感じていたのです。
レシピ動画視聴後の意識
この可能性に着目し、レシピ動画は企業のマーケティングへの取り組みでも注目を集めつつあります。例えば味の素株式会社は、ペースト状の万能調味料「Cook Do® 香味ペースト」の販売促進にむけて、レシピ動画を活用しました。TVCM においては「これだけで簡単に味が決まる」という点に特化して訴求しましたが、レシピ動画なら「簡単」「時短」「これだけ」等、商品の持つ複数の魅力をより効果的に伝えられるのではないかと考えたのです。
味の素は、尺の長さにとらわれない「卵かけごはん」「オイスターうどん」「ガーリックエッグ」「ガーリックチキン」などのレシピ動画 6 本を実験的に配信しました。その動画キャンペーン中の A/B テストから、視聴率や比較検討率の向上に最も貢献した「ガーリックチキン」に絞り込んで本格展開を行い、結果として販売拡大へ大きく寄与したことが確認できました。2016 年の 6 月からは、商品パッケージそのものに「YouTube 秒速メシで検索」と記載して、動画の視聴を促すメッセージを展開しています。
日本における動画コンテンツは、年代を問わず広く浸透しています。それに伴い、コンテンツの幅も広がってきました。「食」という生活の基盤になる領域においても、動画の視聴によって生活者の潜在的な意識が顕在化され、様々なアクションを引き出すきっかけとなっています。2017 年以降もレシピ動画はますます発展することが期待できます。