グローバル人材の育成、及び、日本の大学の国際化が話題となっていますが、人々の教育に関する関心はどこにあるのでしょうか。今回は『留学』をキーワードに、グーグルの検索データから見える留学事情について、日本から(アウトバウンド)と日本へ(インバウンド)の双方について、その動向を推察してみました。
1.日本からの留学(アウトバウンド)の傾向
データから読み取れる特徴
- 日本における「留学」関連の検索数はOECD諸国の中で最も多い
- 「留学の形態」として、地理的・時間的条件が緩いものの検索が増えている
- MBA 留学は、海外よりも国内大学の検索数が多い
文部科学省によると、日本人の海外留学者数は2004年をピークに長らく減少傾向にありました。12012年はやや持ち直していますが、世界的には依然として少ない状況です。ところが「留学」に関連する検索数は OECD 諸国の中で最も多く、2015年は対前年比で10%伸びました。
「留学先」に関する検索は2011年夏頃に変曲点を迎え、「アメリカ」が減少する一方で「フィリピン」や「韓国」など日本から地理的に近い地域が伸びています。
「MBA」に関する検索数も伸びていますが、海外MBAよりも日本国内のMBAに対する検索の方が多く、伸び率も高い状況です。
以上のような検索トレンドからは、日本人の留学に対する堅調なニーズがうかがえます。しかし留学先や留学形態については、なるべく地理的・時間的条件が緩いところで学習ニーズを満たそうとする傾向が見られます。
2. 海外から日本への留学(インバウンド)の傾向
データから読み取れる特徴
- 特に東南アジアにおいて、アジアの主要大学に対する検索が顕著に伸びている
- 海外からの検索数において、日本の大学は韓国・中国・シンガポールに劣後
- 日本の大学と他のアジア諸国の大学では、海外から最も検索される時期が異なる
海外へ渡る日本人留学生だけでなく、外国人留学生を増やそうという動きも強まっていますが、日本の大学は海外でどのように検索されているのでしょうか?この章では「アジアにおける日本」という観点で、日本の大学の検索トレンドをアジアの他の主要大学2と比較していきます。3
(1)どの国でよく検索されるのか?(検索している学生の出身国)
アジアの主要大学についての検索が最も多く行われている国は、世界でも有数の留学生輩出国であるアメリカとインドですが、直近では東南アジアの新興国からの検索数が顕著に伸びています。
(2)どの国がよく検索されるのか?(検索対象の大学がある国)
しかし検索されているアジアの主要大学を、大学の所在国別に見ると、日本の大学の検索数は韓国・中国・シンガポールの大学に依然としておくれを取っています。直近で検索数は 14% 伸びたものの、韓国・中国との差は縮まっていません。
要因の1つは入学時期の差異にあると考えられます。日本の大学は4月入学が一般的です。一方で韓国・中国の大学は、9月入学が一般的である諸外国からの留学生を受け入れられるよう、秋入学(9月入学)を積極的に解放しています。この入学時期の差異が、結果的に検索数の差を生む一因になっているのではないでしょうか。
留学生は入学の約半年前に当たる出願開始時期に、志望大学に関する情報収集を最も行います。そのため、秋入学(9月入学)を解放しているアジア諸国の大学は3月が、4月入学が一般的な日本の大学では10月が、海外からの検索の繁忙期になっています。
また日本の大学名だけの検索数ランキングを見ると、TOP 10 の大部分に SGU (スーパー・グローバル・ユニバーシティ) 4に制定された大学が並びますが、アジアの主要大学ランキングではようやく9位に日本の大学が登場します。
大学名の検索ランキングは、各大学の学術的な功績なども影響するため、必ずしも「留学」に関わるニーズを全面的に反映しているとは限りません。しかし入学時期の差異が後退要因の1つであるならば、海外で留学気運が高まる3月期前後に日本の大学の存在感を高めることが、留学生の更なる獲得への一歩となりえるのではないでしょうか。
この記事は、2016年2月9日にInside AdWords-Japanで公開されたものです。