当社、株式会社セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)は、国内 47 都道府県に約 2 万 1,000 店舗を展開しており、2021 年度の推計では延べ 73 億人が来店しています(*1)。
店舗網が拡大し、顧客のニーズも多様化するにつれて、画一的なマスマーケティングは限界を迎え、地域や立地、あるいは個店別にきめ細やかな対応が求められてきました。
たとえば店舗展開においては、立地に合わせて「都市型モデル」「郊外モデル」といったフォーマットを用意し、顧客ニーズに合わせた商品の棚割などを決めています。マーケティング活動でも同様に、デジタル広告を活用し、One to One マーケティングを推し進めています。
セブン-イレブンアプリはどんな観点でアップデートしたのか
なかでも、デジタルマーケティングの中核を担うのが、2018 年にローンチした「セブン‐イレブンアプリ」です。お得なクーポンの配布や、他社の決済サービスとの連携などにより、会員数は約 1,800 万人まで成長。生活者の興味関心やインサイトを把握し、より精緻な One to One マーケティングを実現するための核に据えています。
アプリのローンチ以前、顧客の行動や嗜好を最も把握していたのは、店頭に立つ従業員さんでした。たとえば、平日毎朝コーヒーを購入する顧客が、プロテイン飲料も購入し始めたなら、従業員さんはそれを把握し、「きっとトレーニングを始めたから、タンパク質を求めているのだろう」と推測できました。しかしそうした情報を、本部がマーケティング活動に活かせる粒度で 2 万以上の加盟店から吸い上げることは非常に困難だったのです。
セブン‐イレブンアプリは、 One to One マーケティングをさらに強化するために、「アプリの利用を促すユーザビリティの改善」と「マーケティングデータ基盤と分析体制の構築」の 2 つの観点でアップデートを続けてきました。
ユーザビリティ向上+データ基盤の構築
まずはアプリのユーザビリティの改善に取り組みました。ダウンロードしてもらうだけではなく、その後アクティブ会員として継続的に利用してもらうためです。ユーザビリティを向上させるためのノウハウを社内に蓄積して、最終的には内製したいと考えていたため、まずは外部の知見を取り入れるために Google に相談することにしました。
その際に活用したのが、Google が自社プロダクトの UI/UX 改善に使っている「Design Sprint」(英語)というフレームワークです。Google とともに社内でワークショップを開催し、アプリのコンセプトの再策定からスタートしました。
ワークショップの中で実際にアプリ内でのユーザー行動を分析したところ、アカウントの登録フローなどに課題があることが見えてきました。そこで、登録フローを従来の 7 ステップから 4 ステップに簡略化し、初期のチュートリアルを改善することで会員登録のハードルを下げました。
なお、ユーザビリティの改修にあたっては、ユーザーのみならず、店頭でアプリを操作する従業員さんなど関係者への配慮も重要です。そのため、ユーザー側のユーザビリティと同様に、店頭でのオペレーション上の使いやすさを重視した点もあります。こうした工夫によって従業員さんのユーザビリティを高めることが、結果としてユーザーにとっての利便性にもつながっていくのです。
Design Sprint で明確になった改修ポイントや、そのほか細かなユーザビリティ改修の積み重ねを通じて、iOS アプリの App Storeでの評価は 2.3 から 4.4 へ、Android アプリの Google Play での評価(日本を地域設定しているユーザー)も 2.5 から 4.0 へと大きく改善しました。
ユーザビリティの改善と同時に、マーケティング活動に活用するデータや施策基盤の整備、構築も進めました。たとえばアプリを接点とした One to One マーケティングを強化していくためには、アプリ内だけではなくデジタル広告との連携も不可欠です。
そこで当社の ID-POS データ(顧客 ID と紐付いた購買データ)基盤と Google 広告のアカウントを連携して、顧客の購買データを起点にデジタル広告を配信できるようにしました。また Google BigQuery と Ads Data Hub を導入することで、広告接触ログと購買データを加味した効果検証も可能にしたのです。これらのデータや施策基盤の整備に際しては、利用規約やオプトアウト(データ活用の許可)のフローを丁寧に見直すなど、さまざまな観点からプライバシーを保護しながらデータを活用するための体制を構築しました。
潜在ニーズをデータで把握、本部から直接的なコミュニケーションが可能に
こうしたアップデートにより、同様の興味関心を持つ一定数のスモールマスに対してデジタル広告やクーポンを個別に配信したり、ID-POS データを機械学習で分析することで、購入回数や単価を高めて LTV の最大化を図れるようになりました。
たとえば 2021 年に、「たんぱく質が摂れるチキン&スパイシーチリ」を対象にした施策では、一定期間に商品を 2 個以上購入しているリピーターを分析。特徴として 20 種類以上の要素を把握したうえで、当該商品を購入していないもののリピーターと同じような特徴を持つ会員に向けて商品を訴求しました。こうした施策によって、狙い通り新規の購入やリピートを促せただけではなく、その後のリピート率などを細かく検証することで、さらに精度の高い LTV 施策にもつなげられるようになったのです。
実際に 2022 年 4 月に開催した沖縄フェアのキャンペーンでも効果的でした。スイーツ商品を対象にした広告を、アプリ会員のうち普段からスイーツを購入している層、していない層にそれぞれ配信。いずれにおいても、広告接触者は非接触者と比べてアプリを利用した商品購入率が高く、フリークエンシーに比例してその数値も高まる傾向にありました。
このように、これまで店頭で従業員さんが感じ取っていた顧客の毎日の購買行動の変化を、アプリのデータとして活用できるようになったのです。
約 1,800 万人の顧客データを資産に
当社は今後も、アプリを起点としたマーケティング活動を強化していきます。アプリ会員をさらに増やす取り組みとともに、より継続的に活用してもらうために、利用率やアクティベーション率を高めるアプローチを模索し続けます。
アプリの進化により、購買頻度の高い約 1,800 万人の同意を得た顧客行動データを手にすることができました。これらの資産を最大限に活かすことで、新たな顧客接点をつくり、顧客の満足度を高め、結果としてビジネスの拡大につなげていきます。