当社、株式会社メルカリが運営するフリマサービス「メルカリ」は、2013 年にスマートフォンアプリとして誕生しました。
そこから 10 年以上がたち、ユーザー層は大きく変わっています。2013 年当時はユーザーの約半数を 30 代が占めていましたが、2022 年時点では 50 代以上が 23% を占めるなど、世代を問わず利用が広がっています。

アプリだけでなく、Web の強化でユーザー体験の向上を図る
こうした多様化する既存ユーザーのニーズに応えると同時に、さらなる成長のためには、新規ユーザーの獲得や既存のライトユーザーの利用を促す工夫が必要です。
そこで目を向けたのが、メルカリでまだ商品を購入したことがないユーザーでした。なかでも、アプリをインストールして会員登録はしたものの購入経験はない休眠ユーザー、そしてアプリのインストール自体がハードルになっている新規ユーザーへのアプローチを試みました。
取り組んだのは、Web 版のサービス強化です。メルカリは、サービス開始以来アプリファーストで運営してきましたが、社内の調査やデータ分析から、Web メインのユーザーとアプリメインのユーザーでは、その属性や使い方に違いがあることがわかりました。従来のように、単にアプリを踏襲した Web の設計では、一部のユーザーに対して満足な体験を届けられていない可能性があったのです。
まず、休眠ユーザー向けには、Web 版の UI/UX を改善しました。アプリを利用していない休眠ユーザーは、検索からメルカリの Web 版サービスへ遷移する場合が多いと考えられます。その際に初回購入までの動線が煩雑だと、購入前に離脱してしまいます。そのため、従来は会員登録をしてから購入へと進む必要があった仕様を、購入時に入力した個人情報で同時に会員登録ができるように変更しました。Web 版の UI/UX をスムーズにすることで、メルカリでの購入体験をより良いものにしたのです。

また Web 版のサービスは、新規ユーザーの入口としても重要なチャネルです。実際に検索からメルカリを訪れる新規ユーザーは増加傾向にありました。Web 上での初回購入をより快適にすることで、新規ユーザーの獲得にもつながるのです。
このように Web の UI /UX を強化した上で、新規ユーザーやライトユーザー獲得のために検索広告やショッピング広告も配信しました。配信にあたっては、メルカリのアプリ内の検索データや商品データを Google 広告と連係させ、精度を高めています。メルカリでの購入経験がない場合、メルカリが扱っている商品カテゴリの幅広さを認知していないことが多いと考えられます。広告を通じて「これもメルカリで売っているんだ」と新たな認知を獲得しつつ、その後は Web に最適化した UI/UX でユーザー獲得、定着を図りました。
KPI 重視の施策から、KGI に直結する施策へ
Web の使い勝手をアプリと近い水準まで引き上げたことで、Web もアプリも横断して、KGI の設定やマーケティングの設計が可能になりました。その結果、改めて自社のマーケティングのあり方を見直すきっかけにもなりました。
複雑に変化を続ける人々の買い物行動に対して、メルカリを利用するユーザーへの理解も変容的であるべきだとの考えを強めたのです。その上で、従来のマーケティング手法に固執することなく、データから見えるユーザーニーズを起点に最適なマーケティングを検討することが重要です。そこで当社が推進したのが、Web とアプリを統合したマーケティングの構築でした。
まずは目指すべきゴールを整理しました。当社の KGI、つまり最終的なビジネスゴールはサービス内の流通取引総額(Gross Merchandise Value:GMV)の拡大です。従来それぞれのチームは、その KGI に紐づいた KPI を設定し、達成を目指してきました。
しかし各チームは KPI の達成に注力していたため、結果的に全社で見ると、部門横断で投資対効果(ROI)の向上に最適化できていませんでした。
たとえばチャネル別に分かれていた従来の体制の場合、Web のチームでは、Web サイトの訪問数や Web 経由での会員登録数、Web での売り上げなどが指標になり得ますし、アプリのチームであれば、アプリのインストール数や平均セッション時間、アプリでの売り上げが指標になるでしょう。しかしチャネル別の KPI に最適化すると、たとえば Web の広告から流入したユーザーがその後アプリをインストールしたとしても、その効果は計測、評価できません。またこうした状態は、新規獲得向けの施策が既存ユーザーに表示されるなど、ユーザー体験の面から見ても好ましくないものでした。
そこで、最終的な KGI である GMV への貢献を強く意識した KPI 設定へと変更しました。短期的な GMV、中長期的な GMV のそれぞれに必要な要素を分解し、そこに連動した KPI を設計することで、各チームの KPI と KGI の整合性が取れたことはもちろん、最終的な KGI に貢献できる施策であれば、前例にとらわれることなくトライできるようなマインドセットが醸成できたのです。
Web とアプリをシームレスにつなぎ、横断した広告効果の測定が可能に
KPI の再設定を踏まえて、実際にアプリと Web の統合を目指した施策として、「ディープリンク」と「Web to App Connect」の導入を進めました。
これにより、すでにアプリをインストールしているユーザーは、Web ブラウザ経由で広告をクリックした際にアプリの該当ページに直接遷移できるようになります。また、Web からアプリに遷移した際のユーザーの動向もトラッキングできるようになり、Web とアプリを横断した広告効果の測定が可能になるのです。
GMV に直結した KPI を設定できたことに加え、Web とアプリを横断した測定が可能になったことで、データに基づいてマーケティング投資を増やすことが可能になり、実際に Web とアプリ統合での Google 広告の投資額が増えました。
「積み上がる投資」のために
当社が最も重視しているのは、外部環境の変化を踏まえつつ、中長期的な GMV を積み上げるマーケティング投資を行うことです。
たとえば、直接的に商品の購入を訴求する広告で 1 件の購入があったとしても、1 回きりで継続的な利用にはつながらない可能性があります。こうした「剥がれやすい」投資ではなく、新規ユーザーの獲得など中長期にわたって成果が「積み上がる」投資が重要です。
そのために、短期的な GMV の積み上げが重要な場合もあれば、休眠ユーザーの復帰が将来の GMV に寄与する可能性もあるでしょう。
データドリブンなマーケティングでこうした仮説を検証するには、既存の組織の枠組みにとらわれず、マーケティングのビジネス貢献の可視化に取り組み、各施策が中長期的な GMV 向上に貢献するかを継続的に注視する必要があります。
マーケティングの成果を常に評価、改善しながら、中長期的な GMV の積み上げのためにより良い KPI を設計していく方針です。