スマホの普及により、あらゆる世代で、PC よりもスマホがネットアクセスのメインデバイスになりました。ニールセン デジタルが、日本でのスマートフォン利用状況をまとめた「ニールセン モバイル ネットビュー」(2019 年 12 月)によると、スマートフォンの 1 日の平均利用時間は 3 時間 46 分で、その中でアプリの利用時間が 92% を占めています。(*1)
一方、モバイルアプリ市場は成熟しており、新しいアプリを出せばすぐに利用者が獲得できる状況ではありません。アプリ提供元企業の最初の課題は、ユーザーにアプリを認知してもらい、新規にダウンロードしてもらうことにあるでしょう。
また前出の調査では、ユーザーが月に 1 回以上利用するアプリの個数が 34.6 個なのに対し、ほぼ毎日利用するアプリは 8.8 個という結果も出ていました。これはアプリのダウンロード後に、「常にアクティブなユーザー」になってもらうための難しさを顕著に示しています。
一般的にユーザーエンゲージメントは、アプリのダウンロード時から時間が経過すればするほど、低下する傾向にあります。そこで、モバイルアプリを展開する企業が、一定のユーザー数を獲得した後に課題の 1 つに上がってくるのが、ダウンロード後にアプリから離れてしまった「休眠ユーザー」に、その魅力を伝えアプリの利用を再開してもらうかということです。
休眠ユーザーに再度アプリを使ってもらうためには
ユーザーの継続率を向上させ、長期的に収益の拡大を図るには、モバイルアプリのインストール後、しばらく起動していないユーザーに対し、広告を通じて再度の利用を促すリエンゲージメント施策が重要です。
新規ユーザーを獲得するより、すでに一度アプリをインストールしたユーザーのほうが、そのアプリに関心をもっている可能性が高いのが一般的。当然、マーケティングの効率もいい傾向にあるからです。
Google では、アプリの既存ユーザーのエンゲージメントを高める「アプリ エンゲージメント キャンペーン」を提供しています。
これは、機械学習を用い、既存ユーザーにとって最適な広告を Google の広告面に配信し、ユーザーが対象となるアプリの魅力を伝え結果として利用を再開するように促すもの。広告は、Google 検索や YouTube、ディスプレイネットワーク上の他のアプリ内など、複数の Google サービスで表示されます。
「アプリ エンゲージメント キャンペーン」は、すでにアプリを使用しているユーザーに再度アプローチすることで、次のような「アプリ内での特定の行動」を促すのに役立ちます。
・アプリをダウンロードしたがまだ開いていない、または使用していない顧客へのアプローチ。
・特定のアプリ内アクションを促す。
・(アプリの)カートの中にアイテムがあれば、それを顧客に伝え、チェックアウトを完了するよう促す。
・しばらくアプリを使用していないユーザーに利用の再開を促す。
・ゲームをプレイしているユーザーに、レベルアップなど特定のアクションを促す。
・ライブイベントやセールの宣伝。
「アプリ エンゲージメント キャンペーン」では、個々の広告を自社で作成する必要がありません。自社で指定した広告文の候補や画像、動画と、アプリストアに掲載されている情報を使って、さまざまな広告を自動的に作成し、複数のフォーマットやネットワークに掲載します。また、さまざまな組み合わせを自動的にテストし、掲載結果の優れた広告を選別して、優先的に表示していきます。
では、モバイルアプリの広告最適化に取り組んだ事例を紹介しましょう。
Google 推奨設定で効果をあげた KONAMI『実況パワフルプロ野球』の事例
株式会社コナミデジタルエンタテインメント(以下、KONAMI)が手がける『実況パワフルプロ野球』(以下、『パワプロアプリ』)は、コンソール(家庭用ゲーム機)用のソフトとしてスタートし、その後モバイルアプリ化。リリースから 5 年が経過し、累計ダウンロード数は 4,300 万を超える人気タイトルです。
プロ野球ファンを中心に、リリース以降順調にユーザーが増加してきたものの、時間の経過と共に休眠ユーザーも増加。KONAMI では、一度離脱したユーザーにゲームの新しいイベントやキャラクターを伝えることで再び戻ってきてもらうことが大きな課題でした。
Googleが「アプリエンゲージメント キャンペーン」の提供を開始したことを受けて、年に一度の“大感謝祭”である 8 月 26 日「826(パワプロ)の日」に、「アプリ エンゲージメント キャンペーン」の活用を決定。Google が推奨する最適化設定を用いて休眠ユーザーに向けた広告を出稿したところ、大幅に広告効果を改善できました。
機械学習の効果を最大化するには「学習データ量の確保」が必須
Google では、「アプリ エンゲージメント キャンペーン」の運用にあたり、下図の設定を推奨しています。機械学習によって効率が高まっていくので、効率的に動作するまでにはある程度の学習量が必要だからです。
アプリ エンゲージメント キャンペーンを最適化するための条件
休眠ユーザーに向けて広告を配信する場合、これまで他媒体では「4 〜 7 日の休眠ユーザー」「8 〜 14 日の休眠ユーザー」などと細かくセグメントを分ける運用が一般的でした。一方、Google の「アプリエンゲージメント キャンペーン」では休眠ユーザーを 1 つのグループにまとめることを推奨。これは、十分な学習量を確保するため、1 キャンペーンあたりの配信対象ユーザーを最大化する必要があるからです。
また、ユーザーに合ったクリエイティブを機械学習によって自動配信。日頃から配信している一般的なものに加えてゲーム内のイベントの訴求を追加するなど複数のクリエイティブを制作し、あらゆる訴求を網羅するよう工夫しました。ユーザーによって動画の視聴環境は異なるため、一般的な横型の動画のみでなく、縦型や正方形の動画広告を配信したこともポイントです。
「アプリ エンゲージメント キャンペーン」では、「休眠日数 xx 日」「過去課金経験あり」などと細かく設定できるため、より狭いユーザー群へ広告を配信してしまいがちです。このように配信対象となるオーディエンスを細かく分けることは、これまで他媒体での運用で築き上げてきた業界のセオリーでもありました。しかし、機械学習を十分に機能させるための学習量を確保するには、あえて広めにとることが重要なのです。
従来比 2 倍以上の広告費用対効果で、休眠ユーザーの復帰を実現
「826(パワプロ)の日」に合わせた休眠ユーザー復帰の最大化を目的とし、上記の知見に沿って広告運用を実施したところ、セグメント分けしていた期間と比較し、ゲームアプリ内支払いにおける支払獲得単価(CPA)を悪化させることなく、配信ボリュームも 2 倍以上に増やすことができました。
ゲーム内施策も相まって、復帰者数、広告費用対効果(ROAS)についても、前月比で 2 倍以上となりました。
今回の『パワプロアプリ』での取り組みは、機械学習を最大限活用するための設定を考慮したからこそ得られた成果です。Google が推奨する設定に沿った広告の配信で、これほど大きな効果が得られたことから、パワプロアプリだけでなく、他のゲームアプリタイトルでも、Google 推奨事項に則って「アプリ エンゲージメント キャンペーン」による配信をすることに。KONAMI 社内でも大きな反響を呼び、その後は、他のタイトルでも同様の施策を展開しました。
KONAMI プロモーション企画本部 デジタルマーケティング部 デジタルマーケティング課 課長の佐藤大介氏と、運用を担当した同課の長岡泰志氏は次のように話します。
「ゲームを長くプレイしてもらうためには、一度ゲームを離れてしまった方への復帰施策が重要性を増しています。Google のアプリ エンゲージメント キャンペーンの最大のメリットは、機械学習に任せることで、効率的にエンゲージメントを得られるところでしょう。
Google が推奨する設定は、今回の施策のように、ゲームに戻ってきてくれるユーザーの最大化を目的とした場合に、大変有効であると感じました。これまでしていた、ターゲットを厳密に定めた配信手法に加えて、新たな選択肢が得られた点は収穫でした。
とくに今回の施策では、他の媒体や広告ネットワークと比較して、獲得規模の点でも大きく伸ばせました。長期間継続的にエンゲージメントを得たい、あるいはゲーム内のイベントに合わせて短期間で多くのエンゲージメントを得たい、といったときの両方に効果のある広告だと認識しています」(佐藤氏)
「日々の広告運用を振り返ると、Google のプロダクトにはやったことの効果がきちんと目に見えるという印象を受けます。
今回のテーマであるキャンペーン設計や、クリエイティブの精査といった取り組みの良し悪しが、数値としてしっかり浮かび上がってくるので、そこでの気付きを次回施策に生かすことができます。
アップデートも多く、運用目線では大変なこともありますが、今後も成功事例となるような取り組みを続けていきたいです」(長岡氏)