マイクロモーメントを活用したマーケティングの価値を最大化するためには、効果を正しく「測定」することが不可欠です。モバイルでは、必ずしも最終的な購買につながる行動がモバイルの中で完結するわけではありません。モバイルの真の価値を総合的に把握した上で、組織の垣根を超えたPDCAの仕組みを構築し、改善を積み重ねていくことで、その価値を最大化させましょう。
クロスデバイスでコンバージョンを測定する
モバイルで検索してから PC で購入するなど、コンバージョンに至るまでに複数のデバイスを活用する生活者が増えています。モバイルが生活者の購入意向に与える影響を正しく理解するには、デバイスをまたいだ生活者の行動を数値として可視化した上で、モバイルが果たす役割を把握しなければなりません。例えば 2013 年の TNS の調査では、衣類やアクセサリーなどを購入するにあたり、モバイルで情報収集をした人のうち、 5 割が PC やタブレットなど他のデバイスから購入しています1。
モバイルからオフラインへのコンバージョンも
モバイルで情報収集した人の多くが、さらに詳細を知るためにコールセンターやオンラインで問い合わせを行います。つまり、コンバージョンの場がオンラインからオフラインへと移動しているのです。
- 69% の人がモバイルでの検索時に、検索結果の画面から簡単に電話できたり、オンラインで問い合わせができることが望ましいと答えています1。
- 67% の人が、スマートフォンやオンラインで簡単にやり取りできる企業やサービスが望ましいと答えています1。
77%
生活者は、実際に店舗に行きたい場合、まずモバイルで調べ、経路を確認します。例えばローカルビジネスでは 77% のオンラインユーザーが、目指す場所までのアクセスを事前にモバイルで検索しています2。
セブン&アイ・ホールディングス、楽天市場、 Macy’s 、 Target の事例を参照しながら、オンラインとオフラインを統合的に連携することで、デジタルマーケティングの真の価値を測定し、効果を最大化するための方法を探っていきます。
■ セブン&アイ・ホールディングス
オンライン広告からの来店数を可視化
コンビニ・デパート・レストランなど多様な業態を展開するセブン&アイ・ホールディングスでは、積極的にオムニチャネル戦略を推進しています。最近もテレビ CM やイベントなどでキャンペーンを盛り上げることでネット拡散を起こし、自社サイトへの訪問から来店へと誘導する事例を成功させました。しかし、従来の測定方法ではマス媒体やオンライン広告からの来店数をリアルタイムに測ることが難しく、デジタルへの投資を最適化させることができませんでした。
そこでセブン&アイ・ホールディングスは「来店コンバージョン」を導入することを決定しました。正確なROAS (広告費用対効果) を算出し、価値に見合った広告投資を行って効果を最大化することを目指したのです。導入時には、 Google マイビジネス(店舗地図情報)への登録や Wi-Fi 環境調査など、正確な数値測定のための確認作業を複数店舗と協力して実施。各店舗にも成果が見込める活動のため、前向きな協力を得て調査を行うことができました。
その結果、オンライン広告の包括的効果を可視化することができたと同時に、来店を促す上でのモバイルの優位性が明らかになりました。検索からの来店率は、 PC と比べスマートフォンが 3.2 ポイント高い 10.4% となりました。モバイル広告の来店単価を分析すると、 PC よりスマートフォンが約 40% 低く、費用対効果も高いことが証明されました。今後はテレビ・チラシ・オンライン広告 (PC・モバイル) への投資バランスをより効果的に調整しようという認識に至りました。
■ 楽天市場
KPI (重要業績評価指標) を LTV (生涯価値) に変更し、モバイル戦略を強化
楽天市場では、すべてのサービスをモバイル対応させ、アプリも提供することで、マルチデバイスでのユーザーロイヤルティ獲得を目指しています。2012 年頃からスマートフォンからのアクセスが急増し、利用者の大半が複数デバイスを使うマルチスクリーンユーザーとなったこと、モバイルの売上も全体の 5 割まで伸びたこと、そしてマルチスクリーンユーザーは客単価の高い「優良顧客」に育つことがわかったことにより、 PC からスマートフォンへの重心移動を加速させてきました。しかし、モバイルへの投資の必要性は認識されていたにもかかわらず、従来のデバイス別測定では PC と比べてモバイルの CVR (コンバージョン率) が低く、それによって生じた高 CPA (顧客獲得単価) が投資を増やす上でのボトルネックとなっていました。
そこで、短期的な KPI ではなく、中長期的収益を考慮した新たな KPI として LTV ベースの ROI (投資利益率) を導入し、モバイルへの投資を増大。併せて、デバイスごとの性別・年代・利用時間帯・購入傾向を分析し、パーソナライズ及びデバイスに最適化したクリエイティブやコンテンツを A/B テストを繰り返して開発しました。そしてデバイス別に詳細な設定ができる入札単価調整を Google AdWords に導入し、これまで入札を敬遠していた未購入ユーザーに対しても 3 年先までの LTV をプロダクト単位で試算し、 KPI を再設定。さらに、新規キーワードを特定して入札を促したり、デバイスに適したクリエイティブを設定するなど、マルチスクリーン最適化を意識した緻密な入札単価設定を実施しました。
その結果、訪問数は 4 割も増え、 CVR も 9% 改善することに成功しました。「オムニチャネル時代に入り、モバイルの果たす役割はさらに重要となります。これらを通して、モバイルにおいても楽天らしい人間味のある購買体験を提供していきたいと思います」と執行役員の河野氏は述べています。
部門をまたいで連携し、効果の最大化を目指す
ハーバード・ビジネス・レビューの 2015 年の調査によると、ユーザーエクスペリエンスの質を高める上で最も障壁となる要因が、細分化された組織の壁であることが明らかになっています* 。
モバイルを通じて生活者のマイクロモーメントを捉えるには、あらゆる部門を超えた連携のもと、オンライン・オフラインを問わず、生活者と企業・サービスの接点となる場における顧客体験の質を高めることが求められます。今後ますます利用が加速するモバイル時代に向けて、組織の壁を取り払い、同じ目標に向けて邁進できるようにしましょう。アメリカの百貨店チェーン Macy’s と、小売チェーン大手の Target の事例から、オムニチャネルによるマーケティングの成功例を見ていきます。 3
■ Macy’s
部門の壁を超えたマーケティングを実現
オンライン店舗とオフライン店舗の双方を利用する顧客は、 1 つのチャネルだけを使って購買をした顧客と比べて、どれくらいの価値があるのでしょうか? 全米で約 780 店舗を展開する最大規模の百貨店チェーンの Macy’s の最近の分析によれば、その両者に実に 8 倍の価値の差があることがわかり、オンラインと実店舗のマーケティングを統合する決断を下しました。
手始めに、パーティードレスのカテゴリーでテストを行い、横のつながりがなかったオンラインとオフラインのマーケティング部門の売上目標をひとつにまとめ、部門を超えて連携できるようにしました。「まず、両部門の在庫品元帳と発注済みファイルをひとつにまとめ、すべての在庫品を一元的に把握しました。そして、とにかく売上を伸ばすように指示したのです」とオムニチャネル部門最高責任者の R.B.Harrison 氏は述べ、「結果として、驚異的な成果が生まれました」と結論づけました。
これにより Macy’s では、 2015 年に商品部門・マーケティング部門・販売部門すべての再編成を正式に決定。デジタル部門とオフライン部門が同じ目標に向けて一丸となることで、顧客を取り合うのではなく、顧客のニーズを確実につかむ取り組みができるようにしました。
■ Target
シームレスな利便性を実現
アメリカで売上規模第 5 位の小売チェーンの Target では、今や顧客の 98% がオンラインで商品を購入し、その購入経路のうち 4 分の 3 がモバイルから始まっています。これに着目した Target は、生活者のマイクロモーメントを捉える方法を大幅に見直しました。
例えば、ガーデニング用品やエクステリアのカテゴリーを扱う部門では、販売店部門とオンライン部門に分かれていた組織をひとつにまとめ「ガーデニングエクステリア部門」としました。そして、デジタル部門が中心となって、買い物客に対する利便性とインパクトを最大化するようにオンラインと実店舗での取り組みをうまく組み合わせました。そして、店舗では陳列されていないモデルについて Target.com でチェックできる看板を設置したり、担当商品がオンラインで売れた場合には店頭の販売員にもインセンティブを割り当てる仕組みをつくることにより、販売員にもモバイルでの販売を後押しするよう働きかけました。さらに、デジタル部門が複数のデバイスやチャネルをまたいだ視点で顧客データを捉えられるように、データのあり方も見直したのです。
その結果、実店舗への来店数は 2.9 倍に増え、複数チャネル経由の顧客による売上は、そうでない顧客の 3.2 倍にも上ることがわかりました。戦略およびイノベーション担当最高責任者の Casey Carl 氏は「生活者は PC からモバイル、実店舗までのあらゆるチャネルを縦横無尽に行き来します。したがって、チャネルをまたいだ行動を促進できるように、組織体制を適切に整える必要があると考えています」と語ります。
まとめ マイクロモーメントを活用して、効果を最大化するために
1、 モバイル経由で生まれる価値を、 PC ・アプリ・店舗・コールセンターなど、あらゆるデバイス・チャネルでのコンバージョンを含め測定していますか? また、それに基づいた投資の最適化を行っていますか?
2、 モバイルを含めたデジタルマーケティングの成果を、クリック数やその場のコンバージョンのみで測っていませんか? 最終的な業績指標となる売上や収益、または顧客あたりの生涯価値などの指標と連動させ、「見える化」していますか?
3、 部門の壁を超えてモバイルが生み出しうる価値を最大化させるために、連携した取り組みを行っていますか? その際、互いの目標や実績について整合性が取れていますか?