25 年前の通信販売では、カタログ配布数が主要なマーケティング KPI でした。カタログの送付数と売上が比例していたからです。もし今、カタログ配布数が主要なマーケティング KPI だったら、数多くのビジネスチャンスを逃してしまいます。
デジタル マーケティングに関しては、多くのブランドが似たような失敗をしています。モバイルが主流になっているに、依然としてパソコン向けのマーケティング KPI を採用しています。このことは、ビジネスの成長を損なってしまう重要な問題です。
デジタル マーケティングの KPI や効果測定の切り替えは、簡単ではありませんが、可能です。具体的には、以下で説明します。
- あふれるマイクロ モーメント: 車の買い替えを検討するユーザーが新しい SUV を手に入れるまでのデジタル インタラクション数は、900 回を超えました1。
- クロスデバイス: インターネットを使う成人(18~54 歳)のうち 75% 以上が、1 つの行動を完了するまでに複数のデバイスを使用します2。
- クロスチャネル: スマートフォンで近くの情報を検索したユーザーの 76% が、その日のうちに実店舗等を訪問します3。
たとえば私は、昨日のランニング中に壊れた GPS ウォッチと同じモデルを、今日の仕事帰りにはもう入手していました。今朝検索してみて、ある小売店に在庫があり、帰宅時に購入できるとわかったからです。 今回の CPA(顧客獲得単価) について、通常のオンライン マーケティング手法で調べてみても、この在庫情報で私が得た価値や、その店舗で購入することで生じた価値は測れないでしょう。このようなモバイルを中心とした行動に対して、従来型のマーケティング KPI はあまり役立ちません。
最近のトップ ブランドは、モバイルやクロスチャネルに積極的に対応し、モバイルを優先した効果測定によってビジネスを大きく伸ばしています。ポイントは「どのデータが重要か」「どの手法がうまくいっているのか」「何が可能なのか」という 3 つの問いに集中することです。
どのデータが重要なのか
たとえ何種類ものデータを測定していても、それらが本当に役立つ情報かどうかはわかりません。
達成したい成果をまず見定め、その成果を判断する最適な測定方法を検討します。目標と KPI の組み合わせが合っていない場合、達成したい目標に向けるエネルギーは妨げられます。
逆に、目標と KPI がぴったり適合したなら、すばらしい結果が期待できます。Forrester が Google の委託で行った調査では「レベルの高いマーケター(sophisticated marketers)」である回答者のうち 53% が、ビジネス目標に直結する明確な KPI を施策の基準にしていると答えています。データによれば、このようなマーケターのいる会社は、そうでない会社と比べ、目標達成の可能性が少なくとも 3 倍高くなりま4。
FIAT France(フィアット フランス) は新しいクロスオーバー車 500X の発売にあたり、最大限の結果を出すことができるクリエイティブ キャンペーンを求めていました。 FIAT は、 500X モデルの認知度を高め、販売を促進するという目標からスタートして検討を進め、デジタル動画キャンペーンの成果を「広告想起率」「ブランド認知度」「検索での関心度の上昇」で評価することにしました。
もちろん、KPI の修正や効果測定方法の変更は容易ではありません。会議室で「我々は間違った KPI を使っているようです」と発言するのは簡単ではありません。だからこそ、手にしたい成果からスタートすることが極めて重要です。そうして、結果を出すために真に重要な KPI とは何なのか、チーム全体で話し合い、目標に向かって行動できます。
真に意味がある情報とは何か
- 自社の業績に直結する成果を洗い出す
- 市場の状況に合わせ、最適な KPI を設定する
- マーケティングの KPI や成果に向けて、チームの体制を整える
うまくいっているのは何か
見直しの 2 つ目のポイントは「うまくいっているのは何か」です。ブランドに対する生活者の関わりや期待は常に変化しているので、データ測定にはギャップが生じます。たとえば、事前にモバイルで情報を調べてから実店舗でエアコンを購入したユーザーに対しては、店舗内コンバージョンにモバイルがどれくらい役立ったのかを測る、KPI を取り入れる必要があります。
問題はオンラインとオフラインのギャップだけではありません。デバイス、セッション数、チャネルなどにも埋めるべきギャップが存在します。しかしこれらのギャップを埋めるのは不可能ではありません。
その好例がTarget(ターゲット)です。顧客の過半数がモバイルからショッピングを始めていることを知り、「モバイル中心」の視点で自社のショッピング体験を見直すことにしました。具体的には、デジタル マーケティングがオフラインに及ぼす影響をより正確に測定するため、来店データを活用することにしました。
Target の取り組みは、データ測定の精度を高めるだけでなく、データや分析を最大限に活用し、ユーザーが実店舗に足を運ぶ動機や購入を検討する商品の傾向などに着目して、チャネルを問わないスムーズで統合的なショッピング体験を整備したのです。この結果、オムニチャネル型の顧客は、現在の Target にとって最も価値の高い顧客層だと分かりました。
測定にはギャップが存在します。しかし、新しいテクノロジーを積極的に取り入れ、本当にうまくいく方法を模索すれば、意思決定の質や成果に確実な差が出るのです。
どのような手法がうまくいっているのか検討する
- マーケティング投資による効果を完璧に測定することは不可能であると認識する
- ギャップを埋める新しいツールやソリューションを活用する
- 利用できるソリューションがない場合は、新たな方法を試みる
可能なことは何か
常に「デジタルで何ができるのか?」を自問することが大切です。既存の手法を最適化するだけではなく、今、そして今後の成果のためには他にどんな方法が考えられるかという課題について、試行錯誤を重ねるのです。
スマートフォンでいつでも答えが手に入る現在、ニーズが発生した瞬間、ユーザーはおなじみのブランドよりも、目の前のニーズを簡単に満たすことを重視します。たとえば土曜日の朝、子供の誕生日プレゼントの野球グローブを売っているお店をすぐに見つけたい瞬間。あるいは故障した給湯器と水没した地下室を、なんとかしなければならない瞬間。また、忙しい雑用の合間にコーヒーを飲みたいという、シンプルながらも重要な瞬間。いずれもユーザーのニーズを満たす貴重な機会です。しかし、新しいビジネスを生み出そうという意識を持って、顧客とブランド双方に役立つ価値を見出さない限り、このような機会が活用されることはありません。
たとえば PhotoBox の事例を見てみましょう。PhotoBox は写真とギフトを扱うオンライン サービスで、ユーザーは自分の写真をプリントしたりフォトブックにまとめたりするほか、写真を使ったさまざまなグッズをデザインすることができます。同社のユーザーの大部分が、デザインや商品購入の際に、画面サイズが大きくキーボードが使用できるパソコンを利用していることはわかっていました。その一方、モバイルからショッピングが始まるケースも増えていたのです。 果たしてモバイルは、各チャネルでのビジネス目標達成にどの程度影響を及ぼすことができるのか。これが PhotoBox にとって最も重要な問いでした。
この課題を解決するには、最適なメッセージやユーザー体験等、調整しなければならない項目がたくさんあったのですが、細かい調整は後にして、 PhotoBox はモバイルが本当にビジネス目標に貢献しているのか調べることを最優先しました。地域ごとに対照テストを実施し、売上の伸びによってモバイル広告の影響力を測定することにしたのです。
結果は驚くべきものでした。モバイル検索広告キャンペーンによって、投資収益率が最大 5 倍も伸びていたのです。最適化の手段は無数にありますが、本当に役立つ方法を見極めるには、最も重要な問いを優先しなければなりません。
ブランドのために何ができるのか考える
- 効率化のための KPI や最適化にとらわれない
- デジタルを評価する際は、ビジネスに対する総合的な貢献に着目する
- 最も重要な問いに答える施策を実施する
まとめ
真にブランドに役立つ KPI を測定していますか?「カタログ送付数」のような形骸化したKPI ではありませんか?
デジタルがマーケティングにもたらした新たな可能性は、モバイルによってさらに加速しています。そして、モバイルの成長を推進するには、技術的な革新に加えて、意識の変革が欠かせません。時代遅れの KPI の代わりとなる新たな KPIの採用、ツールやベンチマークを活用した大局的な視点での意思決定、そして、新たな可能性に向けたたゆまぬ検証が必要になります。
チャンスは目の前までやってきています。逃さず掴むために、「真に測定すべき KPI 」について今一度考察してみましょう。