インターネット利用者のプライバシーを保護する動きが世界で高まり、デジタル広告のエコシステムは、新たなニーズに応えていくことが求められています。プライバシーは当然保護されるべきものですが、その一方で、デジタル広告の効率性や収益性が低下すれば、これまで無料もしくは安価でリーズナブルに利用できていた Web 上のコンテンツやサービスが継続できなくなってしまうかもしれません。
こうした中で Google では、プライバシーの保護とデジタル広告の効率性は相反するものではなく、両立できるものだと考え、新たなエコシステム構築に向けて取り組んでいます。
持続可能な新しいデジタル広告のエコシステムを構築するために
近年、デジタル広告におけるプライバシー領域の考え方が大きく変化しています。2018 年の GDPR(EU一般データ保護規則)、2020 年の CCPA(米カリフォルニア州消費者プライバシー法)、2021 年の LGPD(ブラジルの個人情報保護法)、そして日本では 2022 年に改正個人情報保護法の施行が決まっており、いずれも人々のプライバシーを守るための体制作りを目指しています。
プライバシー意識が高まっている背景には、人々のデジタル広告に対する意識の変化が大きく影響しています。企業のデータ活用に不信感を抱くことが増え、企業側もデータ活用がビジネスの成長に大切であると認識しつつも、その「取り扱いで信頼を損ねると、ビジネスにも悪影響がある」ことにも気づいているのです。人々の意識の高まりを受け、Cookie をはじめとする個人識別子の使用の制限や、利用者自身がプライバシーを管理できるような新たな仕組みの導入といった技術面での変化も進んでいます。
Google も業界の一員として、利用者のプライバシーを保護し、データの乱用がないよう、しっかりと対策していく責務があると考えています。またパブリッシャーや広告主の要望に応えながら、利用者のプライバシーをより重視したユーザーエクスペリエンスを提供していく使命もあります。
ただし、Google 1 社だけで新たなエコシステムを構築するのは不可能であり、業界全体での協働が不可欠です。そこで、私たち Google の具体的な取り組みを紹介するとともに、こうした課題に業界を挙げて取り組んでいけたらと考えています。
ポスト Cookie 時代の広告戦略を支援する Google の 3 つの柱
現在、あらゆる Web サイトで Cookie の技術が活用されています。個々の Web ブラウザの訪問履歴を Web サイト運営者が相互利用できるこの技術が、多くのニーズに応える形で 1994 年に誕生して以来、さまざまなサービスが Cookie を軸に進化してきました。1 度 Web サイトにログインすれば、2 回目以降は ID やパスワードの入力が不要なのも Cookie があるからですし、「旅行に行きたい」と思って行き先を調べたら関連する旅行会社の広告が表示されるようになるのも、Cookie を利用しているからです。Cookie により、Web 利用者は手間が省けたり自分に関連性の高い情報に触れやすくなったのです。また個人に関連性の高い広告を届けるターゲティング広告が広がったことで、デジタル広告はさらなる発展を遂げました。
ただ、そうしたターゲティングがあまりに過度になると、利用者は自分の個人情報が過度に使用されているのではないか、という不安を感じるようになります。そこで、多くの Web ブラウザがサードパーティ Cookie をブロックするなど個人識別トラッキングの使用を制限し、利用者の管理範囲が拡大するようになりました。
Google でも 2020 年 1 月、Chrome において段階的にサードパーティ Cookie を廃止すると発表しました。なぜ段階的かといえば、前述したように、Cookie そのものは Web サイトや Web 上のサービスのUI/UX にとって欠かせないものだからです。こうした用途に応える代替手段が整わないうちに廃止すると、従来よりもプライバシー侵害の恐れのあるトラッキング方法が出現しやすくなります。
つまり、「利用者のプライバシーに対する配慮」と「広告効果の追求」がトレードオフの関係にならず、両者が共存できる新しいエコシステムを構築する必要があります。そのための Google の取り組みを、「ユーザーファースト視点で利用者を保護」「新たなエコシステムのためのテクノロジー」「業界との協働」という 3 つのアプローチから見ていきたいと思います。
1:ユーザーファースト視点の利用者保護
Google はセキュリティ分野への大きな投資を継続して行っています。まず必要なのは利用者の保護であるという立場から、フィッシングなどの詐欺からの保護、ポリシーに反する悪意あるアカウントの停止を実行。また Android における利用者データの暗号化や、利用者自身がアクティビティデータを任意で削除できたり、自分に合った広告表示の選択ができたりといった、利用者によるプライバシー管理を実現するためのツールや機能を提供しています。
また厳格なポリシーのもと、健康、人種、宗教、性的指向など、利用者のセンシティブな情報に基づいた広告は表示しません。個人情報を販売したり、メールやドキュメントなど利用者が作成したコンテンツを Google が広告目的で使用したりすることもありません。
2:新たなエコシステムのための新たなテクノロジー
また利用者のプライバシーを保護しつつ、広告主やパブリッシャーに対して現在の広告パフォーマンス基準を十分に満たすことができる新たなテクノロジーの開発にも取り組んでいます。
その 1 つが、利用者がオプトイン(許可)したファーストパーティのデータを有効活用する仕組みです。
Google は、サードパーティ Cookie の代替となる個人識別子機能の自社開発をしないこと、これらのテクノロジーを Google の製品に利用しないことを発表しました。企業自ら、利用者との信頼関係を築く準備を進めるために Google でも、ファーストパーティデータとオープンデータを掛け合わせることで、より価値のあるインサイト発掘を支援したり、広告パフォーマンスの効果測定にも、モデリング技術を応用した新しい手法を提案したりしています。
さらに業界に向けては「プライバシーサンドボックス」を提案し、情報管理や匿名化の手法など、プライバシー保護の新たな開発も進めています。
その 1 つに FLoC(Federated Learning of Cohort)という機能があります。これは Cookie とは異なり、個人単位ではなくグループ化した集団に対して ID を振るものです。オーディエンスの興味関心などから特徴を推定することで、パーソナライズされた広告の実現が期待できます。テストでは、広告投資 1 ドルあたりのコンバージョン数が Cookie ベース広告の 95% と、従来に迫る結果が出ています(*1)。
そのほか、リマーケティングを実現する FLEDGE(First "Locally-Executed Decision over Groups" Experiment)なども開発中です。こうした仕組みが、プライバシーを保護しつつ、広告収入によって支えられている Web サイトやデジタルコンテンツを持続可能にする 1 つの方法だと考えています。
3:業界との協働
3 つ目の重要な柱は、デジタル広告業界と協働して有益な基準とソリューションを構築することです。今後も、プライバシーの脅威となる技術が出てくる懸念はありますが、よりよいエコシステムを構築するには、そこに関わるすべての人が、利用者のプライバシーを保護する責任を負い、守るための一貫した基準を構築しなければなりません。Google もその一員として、よりよいエコシステム構築に向け、協力していきたいと考えています。
プライバシー保護のため、皆さんと共に備えていくべきこと
そしてもちろん企業側にも準備は必要です。ファーストパーティデータを収集し、顧客に直接リーチし、再エンゲージするために利用することで、より効果的な顧客接点の構築、更には包括的なパフォーマンス測定が可能となります。
そのためには利用者の意向を重視し、ポリシーに基づくプライバシー保護の環境を整備する必要があります。将来、規制がより強化されても、それに準じていける体制作りも欠かせません。特にファーストパーティデータの収集にあたっては、利用者の同意を得たうえで利活用できるようにする同意モードや TCF v2(Transparency & Consent Framework:透明性と同意の枠組み)の導入が求められます。
次のステップとして、機械学習を活用したソリューションの導入があります。これらを積極的に試していくために今から準備を進めることも大切です。Google でも、ファーストパーティデータを有効活用し、Cookie 利用以上の効果を上げるために、新たな手法や、効率的、効果的な運用に向けた広告入札の自動化ソリューションなどを用意しています。
業界の皆さまとともに、これらのテクノロジーをより進化させ、よりよいエコシステム構築が実現できると信じています。こうした取り組みにぜひ積極的に参加していただき、新たなアイデアを議論しながら、利用者、広告主、パブリッシャーの“三方よし”の世界を実現していきましょう。