昨今、多くの企業がファーストパーティ データの活用に向けて注力していますが、そのためには、社内での合意形成や、データを収集するための仕組みづくりなど、さまざまなハードルがあるのも事実です。当社、株式会社SUBARU もいくつかのハードルを乗り越えながらデータドリブンなマーケティングに向けて、準備を進めました。
商品の機能だけでなく、情緒的な価値を通じて顧客と深い関係を築くことを重視している SUBARU にとって、ファーストパーティ データの活用は、顧客をさらに理解し、より良い顧客体験を提供するための重要な柱の 1 つとなっています。
データ基盤の構築に着手した 2016 年から、Google 広告とのデータ連係を進めている現在までの取り組みを、順を追って紹介します。
メーカーとディーラー間、部門間でバラバラだったデータ
データをマーケティングに活かすためには、あらゆるデータを統合して分析できるマーケティング基盤が欠かせません。当社の取り組みも、ここからスタートしました。
それまで、顧客が自動車の購入を検討してから購入するまでの各接点でのデータが分散していました。たとえば、オンライン上での来店や試乗の予約、カタログ請求といったデータは、当社が保有している一方で、多くの人が実際に車を購入するのは、SUBARU のグループ会社などが運営している販売店(ディーラー)です。そのデータはディーラーの業務支援システム内に蓄積されていたため、検討段階のデータと実際の購買データを合わせて分析することが難しい状態でした。
当社とディーラー間だけでなく、当社内でもデータが複数に分散していました。マーケティング、販促、メンテナンス用のアフターパーツなど、部門ごとにデータを収集管理していたため、顧客のログイン ID なども複数存在していたのです。
バラバラだった顧客データを「SUBARU ID」を軸に統合
そこで、まずはあらゆるデータを統合した「統合マーケティング基盤」の構築に取り掛かりました。
構想がスタートした 2016 年当時は、今ほど DX やデータ活用を進める機運が高まっておらず、社内にその必要性を理解してもらうには丁寧なコミュニケーションが必要でした。どの部門の担当者でも理解しやすいように、「サードパーティ Cookie」などの専門用語を使うことなく、時間をかけて説明をしました。
またデータ活用による最適化はコスト削減につながることはもちろんですが、経営層に向けてはそれ以上に、新規顧客の開拓にもつながるという点も強調しました。
社内の理解を得ながら、翌 2017 年に当社内で顧客データの取得を開始。ディーラーの業務支援システムにあった顧客データや、車両オーナー向けのアプリで取得したデータを収集しました。
そして 2020 年には、これまで分散していた顧客情報を「SUBARU ID」として統合しました。SUBARU ID は、ディーラーを含めた共通の ID 基盤で、SUBARU グループのあらゆる会員サイトで使えます。
これにより、Web サイト上の閲覧傾向はもちろん、ディーラーで試乗した際の反応やその後購入に至ったかまで、カスタマージャーニー全体で顧客の行動を把握できます。
SUBARU ID の管理には、「Treasure Data CDP」を活用している他、「Tableau」 などの分析ツールでデータを可視化。機械学習によって購入確率が高い行動パターンを分析し、それをディーラーとも共有することで、営業活動にも活かしています。
Google とのデータ連係で、潜在顧客へ効率的にアプローチ
こうしたデータ整備によって統合マーケティング基盤を構築できたら、次に取り組んだのが、ファーストパーティ データと Google など外部システムとの連係です。
従来のマーケティングは、年齢や性別、興味関心などに基づいて情報を届けてきました。しかし価値観が多様化しているこれからの時代においては、当社が提供している価値に共感してもらえる顧客に届けることこそがマーケティングの重要な役割だと考えています。その鍵を握るのが、ファーストパーティ データの活用と、AI による最適化です。
Google とのデータ連係で期待したのは、2 つでした。
1 つは、潜在的な顧客層とそのニーズを把握すること。従来も取得したデータから車の購入を検討している顧客層は理解できていましたが、さらに前の段階にいる潜在顧客層を深く理解することはできていませんでした。潜在顧客層の特徴やニーズを理解するには、外部データと連係し、検討前の行動を確認しなければいけません。これが分析できれば、その後の購入確率の高い潜在顧客の行動を把握し、適切にアプローチできると考えました。
もう 1 つは、そうした検討の前段階にいる潜在顧客に対して配信している動画広告の効果測定の精度を高めることです。動画広告の接触/非接触や接触回数、頻度などによって、顧客行動がどう変化し、購入確率がどう変わるのかを確認できれば、さらに適切な予算配分を見極められると考えました。
なお当社の場合、ファーストパーティ データと Google 広告など外部システムとの連係はスムーズに進みましたが、それは統合マーケティング基盤を構築する段階から、その後のデータ活用や連係を見据えていたことが大きな要因です。
プライバシーポリシーの改訂や、顧客に許諾を再取得するといった工程が必要になるため、法務など各部門との調整がハードルになるケースも聞きます。当社ではオプトアウト(データの取得を許可しない)機能を備えるなど、顧客のプライバシーに最大限配慮して連係を進めました。
カスタマー マッチなどの導入で、コンバージョン単価が 20% 改善
広告運用にあたり、実際に導入したのがカスタマー マッチと拡張コンバージョンです。
まずは、潜在顧客に適切にアプローチする方法として、2023 年 4 月にカスタマー マッチを導入し、「最適化されたターゲティング」でマーケティング目標の最大化をゴールにディスプレイ広告を配信。導入から 6 カ月間での効果を従来のディスプレイ広告と比較したところ、コンバージョン単価が 20% 改善したのに加え、ディーラーへの来場や試乗予約、資料請求、販売店の検索、オンライン商談の予約、見積もりなど各接点でのコンバージョン増に寄与していることも確認できました。
また、サードパーティ Cookie 廃止後を見据えて、拡張コンバージョンも導入。自社の Web サイトで取得したファーストパーティ データをプライバシーに配慮した形式、方法で Google に送信するため、コンバージョン計測を補完し、より正確にマーケティング成果を測ることができます。導入による計測の精緻化の結果入札へ使うシグナルも改善され、ある車種に関して広告経由でのカタログ請求のコンバージョン数は 14.5% 改善しました。
こうした目に見える成果を上げられた要因は、ディーラーへの来場予約やキャンペーンへの応募、車の購入といった質の高いファーストパーティ データがあったこと、そしてそれに基づく Google AI の最適化です。
現在は、Google の他にも、さまざまな AI ツールとの連係を進めています。さらなるマーケティング効果の向上とビジネス成長の実現に向けて、今後もデータ活用を積極的に進めていきたいと考えています。
Contributor:矢野 健太郎(代理店パートナーシップ営業部 インダストリー マネージャー)/ 川本 暁彦(アジア太平洋地域 日本/韓国 プライバシーリード)