US 版 Think with Google が 2023 年 12 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
マーケターとビジネスリーダーは現在、変革期にいます。生活者から企業への期待は、かつてないほどに高まっています。また AI を活用したツールによってマーケターの影響力が増す一方で、これまで活用が進んでいたサードパーティ Cookie は、2024 年内に Chrome での段階的な廃止が予定されています(*1)。
生活者から企業への期待の中心にあるのは、信頼関係です。企業はその信頼を得るために、生活者に自身のデータの使われ方を理解してもらい、生活者自身が管理できるようにする必要があります。人々は自分のデータを管理できていると感じると、自分にとって役に立つパーソナライズされた体験と引き換えに、より積極的にデータを提供してくれるようになります。プライバシー保護は広告効果と相反するものではなく、むしろ広告効果を支えるものなのです。
マーケターにとって、今こそ生活者からの信頼を高め、ビジネス成長につなげる、マーケティングの新時代を定義する絶好の機会です。最先端を行くマーケターたちは、次の 3 つの方法でリーダーシップを発揮しています。
- 生活者の同意を得たファーストパーティ データ戦略に基づくプライバシー原則の採用
- マーケティング成果を改善し、測定するための AI ツールの導入
- 自社および業界全体での意識改革
今回の記事では、Deloitte と Google が協力し、生活者からの信頼とプライバシーを守りながらも業界を前進させているマーケターたちの物語に光を当てました。
Unilever のルイス・ディ・コモ氏(Head of Global Media)
ルイス・ディ・コモ氏によると、デジタル広告が変わろうとも、マーケティングの基本は変わりません。「適切な状況で、適切なメッセージを、質の高いクリエイティブで、安全かつ責任を持って人々に届けることが、マーケティングの成功を意味します」。
成功の手立てとして、同氏は Global Alliance for Responsible Media(責任あるメディアに向けた世界同盟、GARM)、World Federation of Advertisers(世界広告主連盟、WFA)と協力し、業界全体で責任を持ってデータを活用するために、広告におけるデータ倫理に関する世界初のブランドガイド(英語)を制作しました。また Unilever とそのパートナー間で共通の取り組みを確立するための Responsibility Framework(英語) も開発。これは「責任あるプラットフォーム」「責任あるコンテンツ」「責任あるインフラ」という 3 つの柱から成り、企業がオンライン上で生活者と信頼関係を築くための再現性のあるフレームワークを提供しています。
Mediahub のカトリン・バウワーズ氏(VP, Director of Data Privacy Governance)
カトリン・バウワーズ氏は、生活者に対して透明性とデータを管理する権限を与えることで、プライバシー向上を目指しています。同氏は、クライアントのマーケティングキャンペーンにプライバシーファーストな手法を取り入れた企業や人々のネットワークを構築してきました。「生活者は、企業と接触した瞬間から、どのような種類のデータが収集されるのか、どのように管理されるのか、初期設定はどうなっているのか、そして自分のデータが何に使われるのかを知るべきです。そして企業は、明確なプライバシーポリシーと、生活者がオプトアウトする(データ活用を許可しない)ためのわかりやすい方法を提示するべきです。」
Mediahub のプライバシー推進ネットワークのメンバーは、マーケティングキャンペーンにおけるプライバシーの運用に関するガイダンスを、クライアントに提供しています。その中には、クライアント固有のプロセスの実装、日々のキャンペーン運営の見直し、メディアパートナーへの説明責任の徹底などが含まれます。同氏は、この取り組みを 2 年半で 300 人以上のネットワークに成長させ、プライバシーの知見をクライアントの業務に統合する大規模なリソースを構築しました。
PepsiCo のシャム・ヴェヌゴパル氏(SVP of Global Marketing & Media Transformation)
シャム・ヴェヌゴパル氏は、マーケティングにおけるプライバシーを「人中心」に捉えています。つまり、マーケティングにおけるプライバシーとは、データの背後にいる人々と、ブランドが人々に提供する価値に基づいて構築されるものであるという考え方です。PepsiCo のブランドの多くは生活者と直接的な関係を持っていなかったため、同氏とそのチームは、人々が進んで自分のデータを提供したくなるように製品を設計する必要がありました。
たとえばパッケージや店頭販売の場所に QR コードを導入するなど、革新的な手法を用いることで、顧客は自身の情報を入力するのと引き換えに、特典プログラムへ参加できます。これにより、顧客との関係は一時的な取引から長期的なものに変わると共に、ファーストパーティ データを収集し、顧客のさらなるインサイトを発見できるようになったのです。
同氏は「企業が際立つ唯一の方法は、生活者に役立つ、有意義でパーソナライズされた体験を生み出すことです。企業には、ライフタイムバリューを高める、顧客にとって魅力的で有益な取り組みを考える責任があります」と話します。実際に PepsiCo は、世界中で収集したファーストパーティ データの数を、18 カ月間で 50% 増やし、ファーストパーティ データを活用したキャンペーンの広告想起率を 2 倍に高めました(*4)。
Instacart のアリ・ミラー氏(VP of Ads Product)
アリ・ミラー氏は、AI を活用したプライバシー保護のツールを導入することで、より良い顧客体験を提供しながら、業績も向上させています。商品の検索やカートへの追加など、オンライン上での買い物行動からの匿名化されたシグナルにより、瞬時に関連性の高い広告を表示できるのです。
質の高い情報で学習した AI は、パスタソースを買った人に対して、ソースの染み抜きのための洗剤を勧めるなど、個人情報をさらに求めることなく、生活者の目的や発見の幅を広げることができます。
さらにミラー氏とそのチームは、サードパーティ Cookie を使用するのではなく、集約された生活者の行動データや取引データなどのファーストパーティ データに基づく Instacart 内で完結したデータを活用することによって、広告主がオーディエンスにリーチし、成果を測定する方法を模索しています。これはまだ初期段階ですが、ミラー氏は、企業がインサイトを得て、マーケティングにおけるさらなる効果を生み出せる可能性があると考えています。
SiriusXM のマリア・ブレザ氏(VP of Audience Data Ops & Ad Quality Measurement)
SiriusXM で、同社の広告販売部門である SXM Media と、音声広告の技術を提供する AdsWizz を担当しているマリア・ブレザ氏にとって、適切なプライバシー保護と広告の効果測定のプロセスは、実験から始まります。「プライバシー保護ツールのほとんどはまだ初期段階です。業界標準として広く受け入れられるような製品の登場を待ちたくなりますが、それよりも市場で複数の手法をテストして有効性を評価すれば、先頭を切って進みやすくなります」
広告とパブリッシャーの収益化の双方を担当する同氏は、コンテキストとアイデンティティが交わる部分で実験を行っています。小規模なオーディエンス群を観察して共通の特徴を見つけ、表面上は明らかになっていない類似性を見出すのです。その後これらのオーディエンスを拡大し、ストリーミングやポッドキャストを通じて広告主にとって関連性の高い生活者へ広告を届けます。重要なのは、ブレザ氏の実験において、広告主がコンテキストのみに基づいてオーディエンスに広告を届けることを支援しており、プライバシーと広告効果を両立させていることです。
PMG のジェイソン・ハートリー氏(Head of Media Innovation & Trust)
PMG のジェイソン・ハートリー氏は、プライバシーに対するこれまでの一般的な考え方は「hope and hide」(サードパーティ Cookie が存続することを望みながら規制から身を隠す)ことだったと指摘しています。同氏は、こうした考え方を変え、生活者との関係を中心とした方向へチームやクライアントを導くべきだと確信しています。
そのために採用しているのが、「learn and plan」(学んで計画する)アプローチです。たとえば小売企業のクライアントにとって、年末のホリデーシーズンは重要な学習の機会です。コンテキストのシグナルを評価し、モデル化されたオーディエンスを用い、メディアミックスモデリング(MMM)やアトリビューションの実験をこの時期に行います。 そこから、サードパーティ Cookie 廃止後の世界でも機能するリーチと効果測定の戦略をクライアントが構築できるようにするのです。ハートリー氏が指摘するように、誰もが責任を果たす必要があります。「私たちは今、全員がプライバシーの専門家なのです」。
Spark Foundry のリサ・ジャコーサ氏(Chief Investment Officer)
Spark Foundry のリサ・ジャコーサ氏は、広告代理店の視点から、クライアントがプラットフォームや製品、サービスを横断したカスタマージャーニーを理解できるようにサポートしています。またプライバシーファーストの実践があらゆる段階で果たす重要な役割や、プライバシーと広告効果の要件に基づいて投資の優先順位をつける方法についても助言します。
「データの活用は必須ですが、より良いビジネスの成果を生み出すには、適切なデータを見つけ、責任を持ってそれを収集し、プライバシーを確実に保護する必要があります」。そのために同氏は、法務やコンプライアンス、IT の各部門を横断し、データガバナンスの実践を推進するエヴァンジェリストとなる人材を見つけるようクライアントに勧めています。「遅すぎるということはありません。急速に進化するプライバシー環境において、革新的な戦略を採用すれば、飛躍的な前進とビジネス成長を実現できます」。
Bank of America のエドワード・ドレイク氏(SVP of Marketing Data Strategy)
Bank of America におけるプライバシーに関する各チームの連携を再構築するために、同行のエドワード・ドレイク氏は、部門を超えたプロジェクトチームを立ち上げました。このチームは、マーケティング、経営、法務、コンプライアンス部門と、ブランドセーフティ、テクノロジー、分析の専門家を結びつけ、組織全体でテストを行い、導入できるテクノロジーや機能を探しています。
プロジェクトチームの創設以来、Bank of America はプライバシーファーストなデータ実践を行い、生活者とブランドとの信頼関係を強化してきました。ドレイク氏はまた、同行および業界全体でプライバシーを推進するために、Association of National Advertisers(ANA、全米広告主協会)、Interactive Advertising Bureau(IAB、インタラクティブ広告ビューロー)、Mobile Marketing Association(MMA、モバイルマーケティング協会)での活動に貢献していると話します。これらの団体は、アトリビューション分析、効果測定、テクノロジーに重点を置いています。
Raptive のポール・バニスター氏(Chief Strategy Officer)
ポール・バニスター氏は、新たなプライバシー保護対応が、生活者の信頼を再構築し、広告主、クリエイター、パブリッシャーにとってより良い成果をもたらす機会になると捉えています。
ただしその過程では、従来の技術を新しいものに置き換える必要があるため、同氏は新しいデジタル広告規格の開発を主導しています。IAB Tech Lab や World Wide Web Consortium(W3C)での指導的役割を通じて、同氏はプラットフォームや Web ブラウザの開発企業と密に連携し、広告主のオーディエンスと測定要件を満たすツールを構築しています。広告とメディアの技術的基盤に関する彼の専門性と、営業、編集、製品、エンジニアリングでの経験を合わせて、プライバシー保護技術の推進に向けて幅広いアプローチで取り組んでいます。
Dotdash Meredith のアリシア・ボルサ氏(Chief Business Officer)
アリシア・ボルサ氏はキャリアを通じて、プライバシーに関する重要なイニシアチブを主導しています。信頼性をマーケティングに組み込むことを含め、ファーストパーティ データ機能の構築や、プライバシー保護技術の早期の導入を先頭に立って推進してきました。同氏は、コンテンツや製品、機能がプライバシーを保護しつつ企業の成果を高めるように構築できているかを判断するのが重要だと強調します。
またワシントンでは、さまざまな利害関係者と協力してプライバシー問題にも取り組んでいます。彼女は IAB の議長を務めており、広告エコシステム内の人々に対し、「業界団体と協力して、規制の変更について情報を入手し、新しいソリューションを積極的に採用する」よう勧めています。
2024/05/22 00:10 記事を更新。出典(*1)を追加し、出典の数字を更新しました。