前回は、日本におけるプライバシー保護意識を、複数の調査からひもときました。今回は広告主や広告代理店、パブリッシャーが今取り組むべきマーケティング活動について見ていきます。
Google は、Chrome においてサードパーティ Cookie のサポートを段階的に廃止すると発表しました。それに合わせて、業界の皆さまと協力して代替手段の開発を進めています。こうした業界内のさまざまな動きは Google だけの話ではなく、デジタル広告エコシステムとそれに携わるステークホルダーに事業推進のみならず個々の業務に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
一方で、法規制などの動きは常に流動的で、決定的なマーケティングアプローチが確立されたとは言えず、企業ごとに取り組みは大きく異なっています。サードパーティ Cookie に頼らない新たなマーケティングアプローチとして、具体的にどのような準備をしているのか探っていきましょう。
新たなマーケティングアプローチの実験開始や導入は 4 割にとどまる
Google では 2021 年 11 月から 2022 年 1 月にかけて、国内の広告主や広告代理店、パブリッシャーに対して、プライバシー保護に対する意識を調査(*1)しました。回答を見ると、サードパーティ Cookie に頼らないマーケティングアプローチを導入あるいは実験を開始している企業は、約 4 割にとどまります。多くは活用方法を模索する段階であり、社内での議論を始めたばかりの企業が多いようです。
プライバシーに配慮したマーケティングテクノロジーが発展したり、規制や業界方針が変わったりなど、プライバシーを取り巻くエコシステム全体の潮流は激しく変化し、不確定要素が多いため、具体的な対策には至らず、事態を見守っている企業が多いようです。
プライバシーガバナンス
ユーザーのプライバシーに配慮したマーケティングやビジネスを推進するという大きな動きに、企業は今のうちから準備をしておく必要があります。
まず 1 つ目は「プライバシーガバナンス」です。
前回述べたとおり、日本のユーザーは企業側に情報管理を委ねる傾向が強いため、日本企業は特に、その期待に応えていく必要があります。不適切な対応は、自社ブランドの毀損につながりかねません。
多くの企業は個人情報保護の観点から、自社固有のユーザーデータを内部保有する場合、前提となる指針を定めています。しかし、ユーザーとのコミュニケーションやマーケティング活動を前提とした指針は、多くの場合定められていません。
経済産業省と総務省は「プライバシーガバナンスガイドブック」を作成し、企業側にその考えの浸透を図っています。ガイドブック内で示された 3 要件は、以下のとおりです。
- 要件 1:プライバシーガバナンスに関する姿勢の明文化
経営戦略上の重要課題として、プライバシーに関する基本的な考え方や姿勢を明文化し、組織内外へ知らしめる。経営者には、明文化した内容に基づいた実施についてアカウンタビリティを確保することが求められる - 要件 2:プライバシー保護責任者の指名
組織全体のプライバシー問題への対応の責任者を指名し、権限と責任の両方を与える - 要件 3:プライバシーへの取り組みに対するリソースの投入
必要十分な経営資源(ヒト・モノ・カネ)を漸次投入し、体制の構築、人材の配置・育成・確保などを行う
ファーストパーティデータ基盤構築を目的としたユーザー情報取得方針の策定
いま企業が準備すべき 2 つ目は、自社のデータ基盤構築を目的としたユーザー情報取得方針の策定です。
サードパーティ Cookie に頼らないマーケティングアプローチの 1 つとして、ユーザーから適切な同意を得た上で集めたファーストパーティデータを活用する方法があります。これを積極的に活用することで、ユーザーとの直接的なブランド接点をつくれます。
しかしユーザーが企業に情報を提供する体験自体は、ユーザーの情報提供に対する意識に配慮すべきです。たとえば最近では、Web サイトを開くと Cookie の利用について同意を求めるポップアップを表示するケースも増えていますが、なかにはユーザーがその内容を適切に理解しないまま同意してしまうこともあります。企業がファーストパーティデータ収集を加速させるには、情報提供についてユーザーの適切な理解を得て信頼を確立することが不可欠なのです。そしてその課題に対して、自社ならではのアプローチを検討する必要があります。
また 2021 年 9 月の Ipsos の調査(*2)では、情報提供を受ける際にも、そのプロセスは広告主側からの一方的なものではなく、その情報の提供範囲と選択の余地を生活者自身に委ね、認識してもらうことが重要だとわかっています。それによって、より自分と親和性の高い企業の広告を表示でき、広告へのポジティブな評価にもつながっていきます。
つまり、ブランド側から一方的にその提供範囲を明示し許可を得るのではなく、生活者にどの範囲まで提供をしてもらえるか、能動的にリアクションしてもらうことで、生活者自身が提供範囲を認識する必要があるといえるでしょう。
プライバシー保護を念頭においたマーケティングは生活者との対話がポイント
このように、企業が今後マーケティング活動を推進していく上で、情報提供からマーケティング活動における活用までのプロセス 1 つ 1 つにおいて、生活者意識をおざなりにしてはいけません。
データ収集から広告活動における一連のプロセスにおいて、生活者と常に対話し、その意思を汲み取る必要があります。その積み重ねによって生活者とブランドの信頼を維持することが、持続的なビジネスの成長に貢献するのです。
ユーザーへの責任を果たし、プライバシー保護意識に配慮した動きの一環として、Googleは 2022 年 10 月にマイ アド センターの提供を開始しました。
マイ アド センター は、Google のサイトやアプリでの広告体験をより自由に管理できるように設計しています。Google にログインすると、検索や YouTube、Discover に表示された広告から直接マイ アド センター にアクセスでき、好みの企業やサービス、気になるトピックの広告をより多く表示したり、興味のないものをユーザー自身で制限したりできます。
プライバシーに配慮したマーケティング活動は、生活者と広告主、パブリッシャー、そしてそのつながりをサポートする我々 Google のようなプラットフォーマーで構成される、広告エコシステム全体で取り組むことで、初めて実現できるのです。
Google は、さらにユーザーのプライバシーに配慮した未来に向けて、デジタル広告業界を前進させる取り組みを続けていきます。そして Web がすべての人にとって良いものとなるように、ステークホルダーの皆さまとともに、安全で便利な広告エコシステムを健全に発展させていきたいと考えています。
今後も、デジタル広告の発展につながる変化は止めどなく進みます。来たるべきときに備え、今一度自社として何をすべきか、立ち止まって考えるべきタイミングと言えるでしょう。
Contributor:朴 ヨンテ コンシューマーマーケットインサイトチーム マーケティング リサーチ マネージャー