ユーザーにおけるプライバシー保護意識が高まっている中で、広告主、広告代理店、パブリッシャーそれぞれの取り組みも変化しています。
この記事では、そうした変化に対応するため、日本におけるオンライン上での生活者のプライバシー意識に関する調査から分析を試みます。
プライバシー保護意識、他国との比較
プライバシーに対する意識は、その国の文化や習慣、世論、規制当局の取り組みなどによって大きく異なります。そのため、現在の日本におけるプライバシー保護意識を正しく捉えていくことが、適切なデジタル広告エコシステムの発展には欠かせません。
そこで Google では 2021 年 12 月から 2022 年 1 月にかけて、日本の生活者の意識を他国と比較する調査(*1)を行いました。これらの調査は、各国の社会や文化的な背景を十分に考慮し比較したものです。
その結果、他国と比べて日本では、オンライン上のプライバシーに関する問題により不安を感じているものの、十分な知識を持っているという意識が相対的に低く、自ら具体的な対策をとっているわけではないという傾向がわかりました。
情報提供に対する抵抗は、個人の特定範囲によって差
たとえば SNS は、若い人たちを中心に生活の一部になっています。しかし Google が日本で実施した調査(*2)によると、SNS における実名での投稿や私生活の発信に対して、抵抗がある人の割合はおよそ 8 割にのぼることがわかりました。
ではそれ以外の情報については、何をどこまで提供することに抵抗を覚えているのでしょうか。同様の調査結果から、詳しく見ていきましょう。以下の図は、自分に関する情報(*3)について、特に条件はなく提供することに、抵抗がないと回答した人の割合です。
「当てはまるものはない」が最多の 44% であることから、前提として企業は、多くの人が企業への情報提供に対して慎重な姿勢であることを理解する必要があるでしょう。その上で、所在や嗜好、行動履歴などを特定され得る情報についてはよりユーザーの抵抗感が強く、企業としてはユーザーから情報を提供してもらう際の範囲や方法についていっそうの配慮が求められます。
自身にとってのメリットがわかると、7 割が情報提供を許容
ユーザーが自身に関する情報を提供する際、何も考えずに提供しているわけではありません。広告主側は情報をマーケティング活動に活用することに対して、通常何かインセンティブを提供するというトレードオフを提示します。そのトレードオフに対して、人々はどのような意識を持っているのでしょうか。
総務省の調査(*4)によると、日本のユーザーが自身の情報提供に際して何らかのメリットを重視する割合は全体の 6 割弱で、他国と比較すると低い傾向にあります。一方で、「自分への経済的なメリットが受けられる」「自分へのサービスが向上する」場合は、全体のおよそ 7 割が自分の情報を提供しても良いと回答しています。
つまり、無料でサービスが利用できる、自分にとって利用しやすくなるなど、メリットがある場合には、ユーザーは情報提供を許容していると考えられます。
企業による顧客のプライバシー関連情報の管理に高い期待
同じ総務省の調査では、情報を提供しても良いと思う条件として、「提供したデータの流出の心配がないこと」が 62.5% で最も高く、全対象国の平均と比べておよそ 15% 高くなっています。「自分のプライバシーが保護されること(61.4%)」「提供した企業によるデータの悪用の心配がないこと(55.7%)」も平均と比べて高いことから、日本の生活者は、サービス利用におけるプライバシーの保護主体が、ユーザーではなく情報を集めている企業側にある、と考えていることがわかります。言い換えると日本においては、顧客のプライバシーを企業が責任を持って保護することへの期待が高いといえます。
Google の調査でも、上記の動向を裏付けるように顧客のプライバシー保護に取り組む企業を選びたいという意識が強い傾向にあります(*2)。企業が先立ってプライバシー保護に取り組むことは、顧客との信頼関係を維持するために非常に重要だといえるでしょう。
2022 年 4 月 1 日の改正個人情報保護法の施行に伴い、各社がプライバシーポリシー改定などの対応に迫られました。このように、法規制を取り巻く企業側の対応こそが、生活者の意識を感化する起点になり得るといえます。
特に日本においては、前述の通り、生活者が企業に情報管理を委ねる姿勢が相対的に強いことからも、企業に求められる期待は大きいといえるでしょう。ユーザーのプライバシー保護に対する姿勢やそれを示す対応を誤ると、企業のブランド毀損を招く可能性が特に高くなると考えられます。
広告主、広告代理店、パブリッシャーはプライバシー侵害による損失を警戒
企業に責任を求める生活者の意識に呼応するように、企業側もユーザーのプライバシーに配慮した新たなマーケティング手法を模索しています。
Google は 2021 年 11 月から 2022 年 1 月にかけて、国内の広告主や広告代理店、パブリッシャーに対して、プライバシー保護に対する意識を調査(*5)しました。その結果をもとに、広告主、広告代理店、パブリッシャー側の情報意識をひもといていきましょう。
まず近年のプライバシー保護の潮流に対する意識を探ります。
調査の対象になった広告主、広告代理店、パブリッシャーの視点からも、ユーザーにとってプライバシーの重要性が、今後数年の間に高まると予想されています。またプライバシーに関する規制が強化されること、プライバシー保護に配慮したマーケティングテクノロジーへの注目が高まることを予想している企業が、いずれも約 8 割以上という高い結果です。
また、プライバシー保護の対応をしなかったことによるリスクへの意識は、顕著に高い傾向が見られます。具体的なリスクとしては、「収益の損失」「ユーザーからの信頼の喪失」、新しい法律に準拠するためのシステム変更やアドバイザーの雇用にかかるコスト、罰金といった「規制を遵守するための追加コスト」などが上位に挙げられています。売り上げや収益への影響だけにとどまらず、企業のブランドに対しても影響するという高い危機意識が読み取れます。
ここまで、日本における生活者と企業側のプライバシー意識を紹介しました。グローバル規模で進むプライバシーに配慮した新たなマーケティングに関する取り組みを活用すると同時に、そのまま日本に転用するのではなく、日本における人々の意識や状況に適合する取り組みも推進していく必要があります。
次の記事では、広告主、広告代理店、パブリッシャーとして何をすべきか、今何ができるのかを一緒に探っていきましょう。
Contributor:朴 ヨンテ コンシューマーマーケットインサイトチーム マーケティング リサーチ マネージャー