US 版 Think with Google が 2022 年 6 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
広告業界では、障害者コミュニティは重視されておらず、依然として過小評価されていると言えるのではないでしょうか。本稿では、Google のマーケティングにおけるブランドアクセシビリティを担当する KR.リューが、自身の体験と、アクセシブルマーケティングがすべてのブランドにとっていかに重要かについて語ります。
私は女性であり、クィアであり、障害者です。これまでの人生で、こうした特性をメディアや広告が正しく表現しているのを見たことはほとんどありませんでした。その影響で、私は自分が異端で、無価値で、孤独だと感じてきました。結果、私は 10 年以上、職場でもプライベートでも自分を偽ってきました。
しかし数年前、自分のアイデンティティのそれぞれが私にとって不可欠で分かちがたいものであることに気づき始めました。周囲の人々が気にかけてくれているのは私の障害だけではなく、私という存在のすべてだと初めて感じたのです。この感覚は人生観を変えるほどのものでした。
残念ながら、社会や広告で自分の存在が疎外され、十分に表現されていないという感覚は、多数の人々が共有しているものです。優れた広告は、障害者のみならずあらゆる人々を反映するものであるべきです。障害者とみなされる人は世界で 10 億人おり(英語)、障害者とその関係者を合わせた購買力は 8 兆ドル(英語)です。優れた広告はまた、インターセクショナリティ(複数の社会的規範などに属する個人や組織がお互いに相互理解を進めるための概念)を認める必要があります。すべての障害者のアイデンティティには、私がそうだったように多数の側面があり、それらすべてがその人自身を表しているのです。
私は幸運にも、数十億人もの人々に向けた Google のマーケティングに関して、アクセシビリティ改善に取り組む仕事に就いています。アクセシビリティは常に Google のミッション(世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする)の中核にありますが、本当にアクセスできる状態であり続けることは長期的な取り組みであり、私たちは常に正しく実行できてきたわけではありません。私たちは改善する方法を常に模索しており、他の企業とともに進めていけることを願っています。
1 年前に、広告会社などに向けてインクルーシブツールキット「Google.com/All-In」の提供を始めました(英語)。そしてこのたび、新たなアクセシブルマーケティングのためのプレイブック(英語)を All-In に追加しました。これは米国の LaVant Consulting や Disability:IN との協力で開発し、American Association of Ad Agencies、Ad Council のほか、国際的な広告賞である Cannes Lions をはじめとする主要な関連組織が支持するツールです。
これは、障害者の Web 体験からありのまま表現することまで、多様なアクセシビリティに関するトピックにわたる長年の共同研究の成果です。Google のマーケティングチームはこの 1 年、効果的に活用してきました。これがメディアにおける障害者の表現の改善や、万人にアクセシブルなコンテンツの制作に役立つことを願って一般に公開します。ここでは、コアな原則を 3 つ紹介しましょう。興味をお持ちの方は All-In で詳細をご確認ください。
当事者の意見を取り入れよう
障害者たちはそれぞれの障害の専門家なので、最初からその意見を取り入れることが非常に重要です。そのためには、社内チームのトレーニングやサポートなど、アクセシブルマーケティングを正しく実施するために必要なリソースを投入する必要があります。
アクセシビリティを専門とするサードパーティに指導を求める企業も多数あります。Google の場合は、LaVant Consulting や Disability:IN などの障害者雇用の専門家と提携しました。こうした提携により、障害者コミュニティにアライシップ(自分が属していない、社会的に虐げられている集団を理解、支援すること)を示し、直接関わることができるので、アクセシブルマーケティングのアイデアを広げるのに役立ちます。
インターセクショナリティをメッセージに取り入れよう
マーケティングが真にインクルーシブかつアクセシブルだと感じるためには、企業は障害者について総合的に考え、アイデンティティを構成するあらゆる指標を考慮する必要があります。障害だけでなく、性別、人種、民族、性的指向、年齢、教育レベルなど、人はさまざまな指標で自分自身を認識しているからです。
インターセクショナリティを十分に認識できないと、障害者の多面的なアイデンティティを単純化しすぎてしまい、結果的に尊重するどころか、ステレオタイプを永続させることになりかねません。常にできるだけ偏りのない物語を、できれば当事者から直接もたらされる物語を選ぶのが得策です。
そうした物語の一例が、Google のマーケティングチームによるキャンペーン「A CODA Story」です。これは、アジア系アメリカ人であり、聴覚障害者の子供(CODA)でもある Google の従業員、トニー・リー氏とその 3 世代の家族の経験を共有する物語です。動画では、リー氏の家族と、離れて暮らす聴覚障害者のリー氏の両親が、Google の支援技術を使ってパンデミックがもたらした距離と、コミュニケーションのギャップを埋める様子を描いています。
アクセシビリティは単なるチェック項目ではなく、マインドセット
障害者のインクルージョンとアクセシビリティマーケティングのベストプラクティスは、技術の進歩と文化的変化に伴って変わっていくものです。これは、障害者のニーズに大きく影響を受けながら、進化し続ける旅(ジャーニー)です。アクセシビリティは、他の形態のインクルージョンと同様に、ブランドキャンペーンのあらゆる側面(構想から実行、さらにその先まで)に組み込む、継続した取り組みであるべきです。
私たちは、アクセシブルマーケティングで試行錯誤を続け、多くのことを改善してきましたが、解決すべき課題はまだ多数あると認識しています。アクセシビリティの目標を達成することは継続的なプロセスであり、私たちはそこから絶えず学び続けます。
また、アクセシビリティと障害者インクルーシブマーケティングは万人にとって有益であり、メリットはそれだけにとどまらないことを私たちは何度も証明してきました。誰もが製品やコンテンツ、体験にアクセスして関与できるようになるのは、ビジネスにとってのメリットです。このコンセプトをビジネスでもビジネス以外でも優先事項として位置づけるブランドは、より多様な人々にリーチできることに気付くでしょう。マーケティングでアクセシビリティにコミットすれば、障壁が排除され、企業やブランドはより良い役割を果たせます。これは、すべての生活者のためになることです。
皆で協力することで、障害者をありのままの姿で表現し、祝福する文化に変化することを促進できます。誰もが自分自身をありのまま見つめて、それを受け入れられていると感じられる世界はつまり、誰もが成功するために必要なものを手に入れられる世界であると私は考えています。