企業のマーケティング手法の 1 つとして、コンテンツマーケティングは重要な位置を占めています。なかでもオウンドメディア(自社メディア)は届けたい情報を的確に届ける手段として多くの企業が活用し、さまざまな情報を発信しているのではないでしょうか。
一方で、それらのコンテンツが購入や申し込みといった最終的なコンバージョン(CV)に本当に貢献しているのか、その価値を検証できているケースは決して多くはないかもしれません。
日本全国の最新不動産物件情報や住宅メーカーなどの会社情報を掲載する「SUUMO(スーモ)」を提供する当社リクルート住まいカンパニーも、さまざまなオウンドメディアを運営しています。
各オウンドメディアでは、住まい購入のための「ノウハウ、ローン計算、最新の相場情報」などといったお役立ち情報や、住まいや暮らしの最新ニュース、街に関係した情報などを掲載しています。こうしたオウンドメディアでは必ずしも今すぐ住まいに対してアクションしない人でも、役に立ったり、勉強になったり、楽しめるコンテンツを用意しています。SUUMO 本体のサービスでは「買いたい」「借りたい」といった住まいの情報を今すぐ欲しい人向けに提供しているわけですから、これらオウンドメディアは対照的な役割を担っています。
こうしたコンテンツ制作は、いわゆる検索流入からの即 CV を目的としたものとは、ねらいが異なります。社内に専属の記事コンテンツ編集チームを抱え、検索だけでは見つけにくい、読者が今までまったく知らなかった情報や新しい発見がある良質なコンテンツを届けるよう心掛けています。短期的な成果を追い求めるのではなく、長期的なファンの醸成やブランディングに寄与する。それが、私たちが取り組んでいるコンテンツマーケティングです。
オウンドメディアの記事コンテンツはコンバージョンにつながる?
当社がオウンドメディアの記事コンテンツを広告する場合、一般に「刈り取り型」と呼ばれる、ラストクリックに偏重した顧客獲得単価(CPA)の効率化を追い求める方法はとっていません。むしろ 1 記事ごとの コンバージョン率(CVR)は KPI とせず、新たな住まいを探している人やその潜在層に対して幅広くリーチすることを目的に、ラストクリックだけでない、そこまでの検討プロセス自体もサポートしてきました。
とはいえ、事業会社が人と予算をかけている以上、かけたコストに対する相応のリターンが求められます。また従来リクルート社内では、リスティングなどの広告の効果を、ラストクリックからの短時間における CV で評価することが通例でした。しかし SUUMO が扱う不動産のような商材では、検討期間が比較的長く、分譲や注文住宅ではその傾向がより強く見られます。
そのため、記事コンテンツの価値を明らかにするには、ラストクリックの CVR や広告費用対効果(ROAS)だけではなく、初回接点からラストクリックまでの間で、記事コンテンツの接触がどのような影響を与えたのかをアトリビューション分析(*1)する必要がありました。
しかし SUUMO というブランド名では、テレビ CM 、駅やコンビニなどで配布しているフリーペーパーなどのオフラインメディアでの広告訴求や、オンラインでもさまざまなチャネルでの施策に取り組んでいるため、記事コンテンツのラストクリックへの寄与を計測するのは難しかったのです。
またオウンドメディアを運営するにあたって、記事コンテンツの SEO 対策を続けてきましたが、意味があるのか、社内からは懐疑的な声もありました。この点についても、記事の SEO 対策を継続する根拠を確認したいと考えていました。
記事コンテンツのラストクリックへの貢献を可視化、配信エリアでは CV が 35% 増
記事コンテンツの効果検証に悩んでいた時に、Google 広告のスペシャリストチームからの提案を受けて取り入れたのが、「ファインドキャンペーン」と、マーケティングキャンペーンの効果を統計モデルで検証するために開発公開した「CausalImpact分析(統計分析)」を使った効果分析です。
ファインドキャンペーンのクリエイティブ例
ファインドキャンペーンは、2019 年 5 月に発表された新広告フォーマットです。スマートフォン用の Google アプリに表示される「Google Discover」、YouTube のホームフィード、Gmail の広告などに、インフィード広告として出稿できます。コンテンツの一部として、アプリ利用者に最適化したネイティブ広告の形式で表示します。
今回は、広告配信対象を将来的に注文住宅を建てたいと考えていそうな人として、「過去にそうした検索をしたが SUUMO のポータルサイトにアクセスしたことがない新規訪問者」にファインドキャンペーンを利用。オウンドメディアの既存記事コンテンツを初期接点とし、記事を読みたいと考えた人ができるだけ自然に流入するような誘導フィードを掲載しました。こうすることで、記事コンテンツの読者がその後、資料請求などのコンバージョン(*2)に至るのかを確認しようと試みたのです。
広告配信先のオーディエンスの絞り込みには、カスタムインテント(*3)と Google 広告の購買意向の高いセグメントを利用。検索広告出稿に選ばれやすい上位キーワードや住宅展示場、ハウスメーカー関連のキーワードでの検索、居住用不動産、住宅ローンなどに興味のあるセグメントを対象としました。SUUMO の潜在顧客でありながら、過去の検索では SUUMO にたどり着けていない人に対して、使っていたであろう検索キーワードを使って配信。これでラストクリックへの寄与が確認できれば記事コンテンツの SEO 対策を継続する大きな根拠になると考えたのです。
前述の通り、多くの広告施策が動いている中で、記事コンテンツへの接触がどれくらい CV に影響しているかを正確に計測するのは至難の業です。そこで今回は、日本全国を A/B の 2 つのエリアに分けて、A エリアのみに広告を配信し、A エリアと B エリアそれぞれのコンバージョン増加数を比較。また、CausalImpact 分析を用いて、統計的に今回のファインドキャンペーンによるコンバージョンの純増を割り出しました。
CausalImpact 分析の結果、記事コンテンツのフィードを配信した A エリアでは、配信していない B エリアに比べて約 35% 多い CV を獲得したと推計できました。また、配信停止後には CV 数が減ったことからも、記事コンテンツへの接触が CV へ大きく影響していると言えるでしょう。
常日頃の有益な情報発信が新たなビジネスチャンスを生む
これまで社内では、コンテンツマーケティングの事業貢献が不明確だと指摘を受けることもしばしば。しかし、今回のアプローチと結果は、デジタルマーケティング戦略を見直すいいきっかけとなりました。すでに住まいの購入を決めている人だけではなく、検討の初期段階にいる人に対しても情報を発信することの重要性を再確認できたのです。
こうした取り組みの結果を受けて、今後定常的な予算を組み、戦略的に記事コンテンツを適切な人へ発信することで、さらに効果的なコンテンツマーケティングを推進していく予定です。