新型コロナウイルス感染症の拡大によって生活者の行動や気持ちは急速に変化し、ますます多様化しました。企業は、新たに生まれる人々の期待やニーズを捉え、ビジネスの幅を広げるなど、さらなる成長につなげていくことが求められています。
これはマーケティング業界においても同様です。たとえばテクノロジーを活用したデジタル広告の「自動化」は、こうした人々のニーズの変化に応えるための有効な手段の 1 つです。デジタル広告の「自動化」とは、これまで手動で運用してきた広告を、機械学習などをベースにシステム化した運用にすることを指します。
これからの時代に、なぜ「自動化」が企業のビジネス成長に有効だと言えるのかを考えていきましょう。
「自動化=効率化」だけではない
広告テクノロジーと機械学習の発展に伴う自動化は、多様化するデジタル広告を支える重要な機能の 1 つでした。
Google でも以前から、自動化を進める製品や機能を提供し、その効果を最大化できる設定を推奨してきました。
日本においてはそれまで、デジタル広告がマーケターの職人技で運用されてきた側面がありました。ですが、自動化による運用効率の改善を可視化できたことで、次第に自動化プロダクトの導入が促進。運用者個人ではなく、マーケティング部門全体のレベルアップにつながりました。さらに自動化によって生まれた時間で、マーケターは、人にしかできない業務により時間を割けるようにもなりました
一方で、自動化が当たり前になると、デジタル広告の強みでもある効率的な広告投資とも相まって、「自動化=効率化」といった考え方も強くなってきました。つまり、顧客獲得単価(CPA)や 費用対効果(ROAS)の改善を目指した設定を最良と位置付け、いかに効率的に広告効果を獲得できるか「のみ」を重要視するようになっていったのです。
もちろん、効率化を進めることはビジネス成長にとっても非常に重要な視点です。しかし、自動化が進むことにより、CPA や ROAS に合わせ効率良く獲得しているように見えるものだけに広告予算が集中するという現象も見られます。これは、意図せず、広告効果の縮小均衡につながり、本来広告によってもたらされる量的インパクトが小さくなってしまう結果へと至ります。
また、デジタル人材の不足を自動化だけでカバーしようとすることで、組織としても縮小均衡に陥ってしまい、本来人の手で担うような発見や気付きなどのインサイトを失って新しい施策が取りにくくなる恐れもあります。
では、デジタル広告運用の自動化は、当初からこのようなことを意図したものだったのでしょうか? 自動化の概念が生まれた背景には、次の 3 つの目的がありました。
- 見えないニーズの発見
- 発見したニーズの効果的な取り込み
- 人材 + 自動化の相乗効果による、ビジネス成長や組織力の最大化
まず、自動化を活用して、広告に触れる人を最大限に広げることで、これまで見えていなかった顧客のニーズを発見することができます(1:見えないニーズの発見)。
こうして見つけた新しい顕在顧客や見込み顧客に対しては、自動化を活用して適切なメッセージを配信することで効果的に獲得にもつなげることができます(2:発見したニーズの効果的な取り込み)。たとえば Google の動的検索広告(DSA)では、Web サイトのコンテンツに基づいて広告の配信対象を決めるため、キーワードを使用した配信では入札していなかったクエリから、新しい顧客層へリーチすることが可能です。
さらには「機械に任せるところ」と「人が知恵を絞るところ」をそれぞれ役割分担し、広げていくこと(3:人材+自動化の相乗効果による、ビジネスや組織力の最大化)へと繋がっていきます。
デジタル広告の自動化は、「デジタル広告の運用成果の効率化」だけではなく、「ビジネスの成長に必要なプロセスの最適化に貢献すること」も期待されていたのです
自動化をビジネス成長につなげるために必要な 3 つのアクション
2020 年以降、人々の日常が大きく変わるに従い、新たなニーズが生まれました。このニーズにうまく応えることがビジネス成長に重要な視点になっています。
そのために、前述のデジタル広告の自動化を、新たなニーズに答え、ビジネスの成長につなげるという目的も持って推進していくことが有効なアクションになり得ます。デジタル広告の自動化を進めてきた Google としての学びから、必要な視点を 3 つの観点でまとめました。
1:顧客分析
最も優先すべきは、顧客の分析です。分析と言っても、消費者調査など、いわゆる商品や広告開発のための事前インタビューやアンケート調査とは異なります。
ここで言う顧客分析では、「想定していなかった顧客ニーズから購入されたとき」に気づいたり、「想定していなかった顧客層が購入したとき」にその意味を分析したりする視点が重要です。たとえば、小型食器乾燥機という製品は最近、プラモデルの塗装を乾かすことにも使われるようになりました。こうしたニーズは正に当初は想定していなかったものです。また、プラモデルの愛好家を含むような顧客層が購入することもあまり想定していなかったはずです。
極端な例にも聞こえるかもしれませんが、「想定していなかった顧客ニーズ」「想定していなかった顧客層」という 2 点に注目して分析をすることで、自社製品のラインアップはそのままに、製品を魅力的だと思ってくれる顧客層を拡大できる可能性が見えてきます。企業としての「見せ方」と顧客からの「見られ方」の違いに気づくきっかけとなるのです。
具体的には、広告による高い効果が見込めなさそうだという判断から優先度を下げていた運用指針や、コンバージョン(CV)に至るまでの一連の広告の貢献度を可視化するアトリビューション分析の始点に近いところを分析してみることで、新しいニーズや顧客層を発見できるかもしれません。
2:デジタル広告の KPI 設定の柔軟性
顧客の分析を通して見えてきた新たなビジネス成長の可能性を積極的に取り込んでいくために大切なのが、KPI 設定の柔軟性です。
もちろん、KPI のすべてをガラリと変える必要はありません。特定の部分について、KPI の指標を緩めたり、異なる KPI を立てるといった工夫がチームや組織の手応えにつながっていきます。
たとえば、複数の CV ポイントを設定し、それぞれの CV 数と CVR(コンバージョン率)を追いかけて、どのポイントで顧客が離れてしまうのかを分析することは、新たな顧客層へのアプローチに効果的かもしれません。また商品単価だけではなく、顧客セグメントなどによって異なる CV 値を与えて自動化による広告配信を進めるなども有効でしょう。実際には、見積もりや相談の問い合わせを入り口にしたサービスや、BtoB のビジネスなど、サイト流入から成約までの導線が長い場合。資料請求や体験利用、有料プラン登録など複数の CVポイントを設定し、さらにそれぞれの CV に適切な目標 CPA を設定して運用を自動化することで、新規顧客の拡大につなげることができます。
さらには、「海外での広告活動」を新たに KPI として設定することもあり得ます。それまではビジネス上の優先順位が高くなかったものでも、KPI の設定後に幅広く自動で広告を配信したところ、海外からの CV がそれなりにあることに気づき、その結果、本格的に海外配信に取り組むことになった、といったったケースも考えられます。
たとえばグローバルにゲームアプリを展開する企業の事例です。国内ではインストールを KPI に定めるケースが多いのですが、その先のアプリ内イベントやサービスへの課金を KPI とし、アプリキャンペーンの自動化によって全世界を対象に収益を増やすことができました。
こうしたアプリの場合、国単位だと ARPU(ユーザー 1 人あたりの平均売上額)が低い国でも、自動化によって有料サービスを利用する可能性が高い利用者などにアプローチできます。つまり、自動化で国外でも該当アプリをヒットさせる可能性を広げられるのです。
3:UI/UX の更新
KPI とは別にもう1つ、具体的にアクションがとれる領域が、LP やサイトの UI/UX の更新です。
人々の動向が今後も急速に変化するとした場合、どの業界も「これまでとは異なる顧客」を迎え入れる必要があります。実店舗を例にとれば、そうしたときには顧客に合わせて棚の配置や品物の見せ方を変えるといった工夫が重要なのは、想像できると思います。
こうした変化に対応して、広告の自動化することで、企業サイトへの集客は最大化と効率化が可能です。ポイントは集めてきた顧客がサイト内でどういう体験をするかどうかということ。つまり UI/UX が重要になってきます。
だからこそ自動化によってそれまで広告運用にかけていた時間を削減できたら、その時間を自社サイトの UI/UX の見直しに当ててみてはいかがでしょうか。それが CV 価値やライフタイムバリュー(LTV)の向上へもつながっていくのです。
Google では、モバイルの UI/UX に関するガイドライン(英語版)を公開しています。小売、金融、旅行などの分野で訪問者数の多い1,000以上のサイトを対象に、「Findability」「Mobile design」など 5つの観点で UI/UX を評価しました。
正しい自動化で見えてくる世界
こうした 3 つの視点をもって自動化を活用していくことで、デジタルマーケティング部門における広告の KPI の効率化からさらに一歩進んで、ビジネス全体の KPI とデジタル広告の KPI を一致させる方向へと進んでいくと思います。
たとえば、コンバージョンと目標 CPA を絞り込みすぎたことで、広告運用の管理画面上では数字がよく見えていたが、実際には利益の拡大につながっていない、などのケースが挙げられます。
売上を最大化するために何をすべきかという視点を持ち、広告による売上への貢献度を分析できれば、ビジネス全体の利益を確保するために広告を止めるという「経費としての広告」といった考え方から、利益を生み出すために広告を配信する「投資としての広告」というマインドセットにも切り替わるきっかけとなります。
このように、デジタル広告の自動化は、今後のビジネス成長にとって大切な要素の 1 つになると考えられます。
Google でも、直近 2021 年 7 月にディスプレイ広告キャンペーンをスマートディスプレイキャンペーンに統合した動きに代表されるように、さらに広告運用の自動化に磨きをかけていきます。今後も、デジタル広告の自動化をビジネスの発展へとつなげるために、皆さんと一緒に歩みを進めていきたいと考えています。