日常生活のデジタル化によって人々の購買行動は変わり、インターネット上で購買を完結することは一般的になりました。
こうした流れの中、メーカーや小売業者の模索も続いています。たとえばメーカー側では、販売業者を介さずに自社の EC サイトなどで消費者に直接商品を販売する D2C(Direct to Consumer)に取り組むことが検討すべき選択肢の 1 つになりました。商品開発のリードタイムも短くなり、顧客の要望に応えるためスピーディに市場に商品をリリースすることも潮流となっています。一方で小売業者も、EC 領域の強化とともに、実店舗の運営だけでなく店舗ならではの顧客体験や、メーカーの商品開発を購買データなどからサポートする役割が求められています。
その意味で、メーカーと小売業者の境界を超え、両者ともにデジタルを活用して消費者に商品の情報を届ける能力が求められてくるでしょう。
こうした流れの中で広告施策に目を向ければ、これまでメーカーと小売店における広告施策は、一般的に住み分けがありました。たとえば、自社店舗を持たないメーカーは商品の認知やブランディングを担い、小売店はより直接的に購入につなげるための広告を配信するというものです。
しかし、そうした住み分けを取り払った O2O(Online to Offline)施策も増えています。メーカーが小売店への送客や売上への貢献度を数値で可視化することで、メーカー側のマーケティングのあり方や小売店との協業関係も変わりつつあります。
Google 広告の「ローカルキャンペーン」も、こうした取り組みを支えるプロダクトの 1 つと言えます。ローカルキャンペーンは従来、主に自社店舗を持つ小売店が、その集客を目的に使うことが多いプロダクトでした。最新の自動化技術と機械学習を活用し、Google マップや YouTube など複数の Google プラットフォーム上に自動で最適なクリエイティブを組み合わせて表示し、広告接触者に対して実店舗への来店を促すことができます。
一方、欧米を中心に昨今、自社店舗を持たない大手消費財メーカーが小売店向けの販促施策として、これを積極的に活用し始めています。そして、国内でも自社店舗を持たない企業としてローカルキャンペーンの活用に挑戦したのが、株式会社KADOKAWA です。
自前の店舗を持たない出版社「KADOKAWA」のローカルキャンペーン、書店への送客で売上増 —— 販促費も最適化
一般的に出版社では、自社の書籍を取り扱う書店に対して販促物を作ったり、担当者が書店へ営業をかけたりすることで、書籍の販売促進を働きかけています。具体的には、目立ちやすい棚に設置してもらう、ポップなどで目を引かせる、あるいは会員化したユーザーのいる書店では、書店と共に会員に対する販促施策を実施することもあります。
しかしその販促費の割り振りは、各店舗における同社書籍全体の売上額や店舗との関係性などに応じて決められているのが実情で、販促が送客に直接的に貢献した数値を可視化することは難しいことでした。
今回紹介する KADOKAWA は、自社店舗を持たない出版社という立場で、書店への O2O 施策としてローカルキャンペーンを自ら活用しました。毎年恒例の「ニコニコカドカワ祭り」というイベントの中で展開した「書店で本を買うとアプリで最大 50% 還元する」というプロモーションに合わせて、ローカルキャンペーンで広告を配信。効率的に自社書籍の書店売上を最大化することを目標に取り組みました。
230 万人の送客と有意な売上増を実証
KADOKAWA では、パートナーである書店チェーンに対してローカルキャンペーンを配信するため、「アフィリエイト住所表示オプション」も活用しました。送客先の店舗を、Google 広告上で選択できる機能です。配信地域や書店チェーンを選択できるため、粒度の高い効果検証や、きめ細やかなエリアマーケティング施策にも適しています。
検証には、地域を分けて実施する「エリア別配信テスト」を採用。18 の都道府県をそれぞれテスト地域とコントロール地域として選択し、合計 530 店舗、18 の書店チェーンからなるテスト地域に向け、約 6 週間にわたって配信しました。
事前調査を実施したところ、属性ごとに書籍ジャンルの嗜好が異なるため、ビジネス書、児童書などジャンルごとに書影を作った訴求が効果的だとわかりました。そこで各ジャンルの人気書影を使った 6 パターンのクリエイティブを制作し、「訴求軸」「ジャンル」で広告グループを分けて配信したのです。
広告を配信した地域での効果を分析したところ、広告接触者のうち 230 万人の送客が確認できました。また書籍の売上としても、送客した店舗、都道府県において、指定した書籍で 6 〜 7% の有意なアップリフトがありました。
今回、KADOKAWA のように自社店舗を持たない広告主がローカルキャンペーンで小売店へ送客を促し、今後のマーケティング活動につながるデータを取得したことは、国内では先進的な取り組みでした。自社店舗を持たない場合、送客してもそれが自社の売上につながるかが見えにくかったため、導入が進んでいなかったのです。しかし今回の取り組みでは、送客はもちろん、それが自社の売上にどれくらい貢献したかを可視化できました。これにより、たとえば営業が書店と棚取りについて相談する際にも、広告に対する来店コンバージョンなどのデータをもとにした交渉が可能になるのです。
スーパーではなく食品メーカーが店舗へ送客、製品の売上増につなげる
続いて、自社店舗を持たない企業によるローカルキャンペーンの活用が進んでいる欧米での事例を見てみましょう。欧米では特に、大手消費財メーカーによる小売店向けの販促施策として活用が進んでいます。その 1 つが Mondelz International(モンデリーズ)です。
モンデリーズは米国に本社を置く世界最大級の食品・飲料メーカーで、150 カ国以上でビジネスを展開しています。
同社のスペイン法人では、主力ブランドの 1 つである「ミルカチョコレート」を、スーパーマーケットの買い物客に訴求する方法を模索していました。同時に、そうしたデジタル広告が実店舗での購買にどれくらい貢献できるのか、その効果を測定したいと考えていました。
そこでローカルキャンペーンを通じて店舗へ送客するとともに、それが実際にどの程度ミルカチョコレートの売上に寄与したかを測定しようと試みたのです。ローカルキャンペーンで来店数を測定するのに加え、ニールセンと協力して「Matched Panel Analysis(MPA)」を活用。ローカルキャンペーンで広告を配信したテスト地域と、配信しなかったコントロール地域での売上を比較し、今回のマーケティング施策の影響を評価しました。
その結果、6 週間のキャンペーンでは、単価 0.02 ユーロ未満でテスト地域の買い物客 150 万人以上の来店を促すことができ、ローカルキャンペーンが KPI の観点から、非常に効率的であることが証明できました。さらにニールセンの MPA 調査では、テスト地域のスーパーマーケットで、ミルカチョコレートの売上が 2.6% 増加したことも実証されたのです。
モンデリーズでは、この戦略をスペイン全土へ拡大していくことを視野に施策を継続しています。
ディーラーへの送客に最適化した日産オーストラリア
消費財メーカー以外でも活用が進んでいます。Nissan Australia(日産オーストラリア)もその一例です。
オーストラリアでは、コロナ禍にあった 2020 年にロックダウンの影響によりディーラーへの来店客が減少。来店需要に波がある環境下でも、コストを最適化しながら、感染対策をしている店舗や、ロックダウンの対象外の店舗への来店を促す施策を求めていました。
従来の検索広告やオンラインの広告施策では来店に最適化できません。そこで、来店意向のシグナルを活用し最適化できるローカルキャンペーンの利用を推進したのです。ローカルキャンペーンがその時々の来店需要を正確に反映していることに気づいたことも、これを日産が採用する決め手になりました。
同社の社内データでは、顧客が Web サイトにアクセスしてから 3 〜 5 週間で購入を決定していることがわかっていました。そこで、市場の購入意欲のある顧客に大規模に、より頻繁に、より早く情報を届け、その結果、各地域のディーラーへの訪問につなげるという目的に合致したソリューションを必要としていたのです。
同社は 2 つの地域を対象に、一方はすでに配信していた検索広告のみ、もう一方ではそれに加えてローカルキャンペーンを実施。それぞれの地域におけるディーラーへの訪問数を比較しました。
その結果、ローカルキャンペーンを活用した地域では、ディーラー訪問客が 3.4 倍に増加。またオフラインでの問い合わせが 7% 増加しました。この結果を受け、日産はオーストラリアにおける 189 のディーラーすべてにローカルキャンペーンを展開。2020 年 9 月から 10 月にかけて広告を配信したところ、同年 11 月から 12 月のディーラーへの来店数は、検索広告のみの地域に比べて 26% 純増しました。
今回は国内外の事例を見てきました。ローカルキャンペーンの効果が確認できたことで、その実績値をもとに、小売店にかけていた販促費を売上に対して効率化できるようになります。オンラインでのプロモーションが、いかにオンライン、オフラインの各販売チャネルに影響を与えているのかが明確になることで、メーカーにとっても小売店の関係強化に役立つと考えています。
Contributor:
Business Science & Analytics : アナリティカルコンサルタント 吉澤のぞみ/広告営業 エンタメ・出版業界担当マネージャー 山岸恭輔/広告営業 エンタメ業界担当 アカウントマネージャー 小山由真