日本の企業のうち、中小企業・小規模事業者は 99.7%(*1)と、大部分を占めています。2019 年版 中小企業白書・小規模企業白書によると、中小企業の 2018 年度の経常利益は過去最高水準で、景況感も改善傾向にあります。一方、人手不足の深刻化、労働生産性の伸び悩みなどの問題も報告されています。日本政府は、中小企業の成長や生産性向上に向け、デジタル化を含めた各種支援を進めています。その施策の 1 つが、経済産業省による IT 導入補助金制度です。
中小企業向け「IT補助金」、申込拡大に貢献したデジタル広告戦略
経済産業省では約 500 億円の予算(2018 年度)を措置し、中小企業が IT ツールを導入する際の費用を補助する「 IT 導入補助金制度」を整備しました。たとえば、クラウド会計サービスや Web ページ制作ツールなどの IT サービスを中小企業が導入するとき、その費用の最大 50% までを補助しています。(*2)
この新制度を中小企業に知ってもらうため、経産省はイベントや新聞広告を通じて周知を図りましたが、申込数は限定的なものとなっていました。省内で改善策を話し合う中で、そもそも「IT」導入補助金なのだから、デジタルを使った本格的なプロモーションをしようという方針を決定。Google とのデジタルプロジェクトが発足しました。
補助金の申込数を増やすという目標を達成するためには、誰に、何を、どのように伝えればいいか? そのヒントを見つけるためにデータを集め、分析することからプロジェクトは始まりました。
まずは Google が、中小企業の経営者が何に興味関心があるのかを検索データから分析。結果、「Web 制作」「会計サービス」関連の検索需要が高いということがわかり、広告クリエイティブに反映させることにしました。
その上で、ディスプレイ広告(vCPM 配信)で認知を高め、検索連動型広告とディスプレイ広告(CPC 配信)で興味関心を促進して申し込みにつなげる、という戦略を立案。「HP 制作」「会計サービス」もしくは、経営効率化などに興味関心がありそうな中小企業経営者に配信しました。
広告配信の結果、サーチリフト調査 (広告配信前後の関連ワード検索数の調査)で「補助金」の検索数が 5.1% 増加、「助成金」の検索数が 5.4% 増加しました。
施策を通じて申込傾向(利用デバイス・地域・興味関心など)やクリエイティブごとのパフォーマンスデータを計測。このデータを分析したところ、申込拡大につながるヒントも見つかりました。このように、認知から獲得へ、継続的成果への道筋が見えたことで、次年度もデジタル広告を活用することが決定しています。
中小機構、「バンパー広告」で認知拡大 最適な 6 秒を1 分間の動画から選び抜く
Google 広告によって中小企業への認知拡大に成功した事例をもう 1 つ紹介します。 YouTube の バンパー広告を活用した中小機構の事例です。
経産省が所管する独立行政法人の中小機構は、中小企業政策の総合的実施機関として、多様な支援メニューを用意し、中小企業の成長を包括的にサポートしています。しかし中小企業・小規模事業者数は 357.8 万(2016 年 6 月時点)もあり、新規設立や廃業など入れ替わりも激しい中、すべての中小企業に機構の存在や役割を知ってもらうことは難しく、認知の向上が課題となっていました。そこで中小機構は 2019 年 1 月にロゴマークをリニューアル。これを機にデジタルを活用した認知度拡大キャンペーンを実施することにしました。
中小機構は当初、すでに制作していた YouTube の TrueView 動画広告を使ったキャンペーンを検討していました。しかし、新ロゴの認知拡大という目的達成に最適な広告について協議を重ねた結果、バンパー広告(動画再生前に挿入される、6 秒以下のスキップできない広告)への変更を決定しました。バンパー広告は 6 秒という短い尺だからこそ、1 つのメッセージに絞り込み、視聴者に強い印象を残せると考えたためです。
そこで、1 分間の TrueView 動画広告を 6 秒のバンパー広告に編集し直しましたが、多くの情報から 1 つのメッセージに絞り込む作業には工夫が必要でした。
まず、広告で伝えたい中小機構の強み、配信先の設定などを改めて精査し、国内外のデータに基づいた戦略的な動画編集案を Google が提示。これらの情報を基に、新ロゴの認知に最適な、インパクトのある 6 秒のバンパー広告を制作していきました。加えて、広告の最後に「検索: 中小機構」という Call to Action を追加。中小機構を認知し、興味を持った視聴者の検索行動を促すよう工夫しました。
オリジナル 1 分動画
バンパー広告
視聴数 900 万回を突破、認知度は 18% 向上
作成したバンパー広告を、2019 年 2 月 21 日 から約 3 週間にわたって配信したところ、900 万再生を突破。配信後に実施したブランド効果測定(*3)では、広告接触者の中小機構の認知度が 18% 向上しました。さらに広告実施期間中は「中小機構」関連ワードの検索数が約 25% 増加しており、認知拡大のみならず興味促進という観点でも大きな成果が確認できました。
中小機構のデジタル活用、今後の展望とは
中小機構 広報課 越智 稔之氏は「2018 年度のデジタル施策では、新ロゴマークとともに中小機構の認知度の向上を目指しました。今回の取り組みで得られた知見を活用し、これまでの活動からさらに深く当機構のサービスの認知を深め、活用していただけるよう、今後も取り組んでいきたいと考えています」とコメントしました。
中小機構と経済産業省の両事業を担当した筆者としては、従来効率的な訴求が難しかった中小企業経営者に、デジタルで的確に情報を届けられると確信しました。国が情報を届けるべき国民は多岐に渡り、かつ情報を伝えるのが難しいとされるセグメントも多いですが、省庁横断で効率的な情報発信が実行される状況を作っていきたいと考えています。