2008 年度から始まった「ふるさと納税」は昨年でちょうど 10 年を迎えました。最初の数年は利用額、利用者数ともに低迷を続けましたが、2014 年から急成長が始まります。利用者は年々増加し、初年度には約 81 億万円だったふるさと納税受入額は、2017 年度には約 3,653 億円。全国の自治体が課題としている税外収入創出策の 1 つとし(*1)て、その存在感は増しています。(*2)
総務省発表:ふるさと納税の受入額及び受入件数(平成 29 年度実績)より
この記事でご紹介する福島県田村市も、ふるさと納税に地域活性化の活路を見出す自治体の 1 つ。田村市の総人口は 36,716 人(推計人口、2018 年 10 月 1 日)で、少子高齢化による人口減少により、税収の減少が市の課題となっていました。将来的にも、2040 年には人口 2.2 万人、高齢化率 51.5% という予測もあり、税外収入の確保が急務でした。その対策の 1 つとしてふるさと納税へのテコ入れを本格的に行うことになり、初のデジタル広告導入を決断。結果、ふるさと納税額前年比 4.7 倍という大成功を収めました。成功要因は何だったのか。その施策と成功のポイントをご紹介していきます。
デジタル広告の初導入における、苦労や工夫は?
田村市が行った初のデジタル広告は、Google 検索連動型広告とディスプレイ広告の 2 つでした。事前準備として最初に、組織としての体制づくりと考え方の転換をおこないました。なぜなら、成功するデジタル広告には広告担当者による戦略的思考と運用知識、そして関係者の協力が非常に大切となるからです。
組織が、新しいチャレンジに一丸となって取り組むには大変なパワーが必要です。田村市のケースでは、副市長がデジタル化の牽引役として幹部職員、財政担当職員を説得して回り、Google も協力し、職員向けデジタルマーケティングセミナーも複数回開催。関係者全員を巻き込むことで、まずはデジタル広告への理解とやる気を促進していきました。さらに役所内でふるさと納税プロジェクトチームを立上げ、Google 社員も田村市経営戦略アドバイザーとして参画、戦略的、主体的に実行できる体制を整えていきました。
施策における工夫と、おさえるべきポイントとは?
具体的施策は、検索連動型広告とディスプレイ広告をつかい、田村市の特産品(桃太郎トマト・地酒など)や、ふるさと納税に興味関心を持っていそうなユーザーに広告を配信し、特設のランディングページへ誘導。ランディングページでは、田村市の特徴や市政への取り組み、特産品の魅力をしっかりと伝え、ふるさと納税への関心を高めてから、ふるさと納税ポータルサイトへ、という流れをつくりました。
そうはいっても田村市にとっては初のデジタル広告です。施策の考案にはふるさと納税額トップ 10 に入る他自治体を訪問して彼らの成功体験をしっかりヒアリングし、参考にしていきました。たとえば市の特徴や市政への取り組み、特産品の魅力をどうわかりやすく納税者に伝えるか、見せ方やコピー文など他自治体の成功例を積極的に学習し吸収したことも初挑戦で成功につながった要因です。そして、市の重要ミッションとして、チームを組織化し真剣に取り組んだことも大きな成功要因といえるでしょう。
目に見える成果が、さらなる好循環に
広告の配信は 2018 年 11 月から 2 か月間。結果は 12 月のふるさと納税締め後、すぐに確認できました。田村市のふるさと納税額は前年比 4.7 倍という大きな伸びを計測しました。
今回の成果は、数値だけに留まらなかったそうです。税収が大幅に増えたことで市職員の自信とやる気につながり、新しいことにチャレンジする文化が醸成されたのです。たとえば、デジタル広告をふるさと納税だけでなく、観光や県産品の国内外プロモーションに使ってはどうか、市を盛り上げる新たなアイデアを募るビジネスコンテストを企画するのはどうかなど、さらなるデジタルの使い方を、職員が自主的に発想し、行動に繋がっています。
田村市 副市長 皮籠石直征氏は、下記のように語っています
「市民へのサービス向上と安定した行政運営のためにはさまざまな挑戦が必要、と頭では理解しています。しかし、まずは前例を集めて検証・シミュレーションなど、実行に時間がかかってしまうことが多くの行政組織の悩みだと思います。
しかし自治体間競争に生き残るには、さまざまな挑戦をスピーディーに実行しなければ、との危機感がありました。そのために市の経営戦略アドバイザーを委嘱し、幹部職員から若手職員まで幅広い層を集めて、デジタルマーケティングの潮流や、先進国、先進地域の取り組みを何度もレクチャーし、徐々に意識改革を図っていきました。
実際に挑戦し、結果が出たことで、次なる挑戦への意識が高くなったと感じています。今後さらなる挑戦として、紙媒体が常識の市政だよりのデジタル化や、移住・定住、子育て支援促進のためのデジタル広告など、前例にとらわれない挑戦を続ける組織でありたいです。」