経済産業省の調査(*1)によると、2020 年における BtoC 向けの物販 EC 市場規模は、前年比で 20% 以上伸びており、人々の EC 利用はますます増えています。大手ショッピングサイトが、もはや人々の生活インフラの一部になりつつある現在、実店舗をもつ小売り店にも、デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流が迫ってきています。
私たちイオングループの総合スーパー(GMS)事業を担う当社イオンリテールでも、DX に取り組んでいます。保有していた膨大な購買行動データを顧客接点のデジタル化に活用すべく、以前から構想を掲げていたものの、導入するテクノロジーやパートナーの選定は難航していました。
まず着手できることとして、2020 年からクラウドの活用などをスタート。ウォルマートなど海外の事例も研究しました。さらに広告ビジネスへのビジネスモデルの拡張を見据えていたため、そこに貢献できる発想とテクノロジーを持つ Google と共に取り組みを進めることになりました。
広告ビジネスへの最初の一歩、「イオンお買物アプリ」のデータを顧客接点に活用
オンライン、オフラインを問わず、顧客接点を広げることができれば、イオンリテールとしてさらにお客さまの生活に寄り添い、より有益な情報をより適切なタイミングで届けることができます。その結果、お客さまの購買行動データを活用した広告ビジネスへとビジネスモデルを広げることもできるのです。
そのためにも、デジタル上での接点をつくり、お客さまのニーズを把握することが重要でした。すでに店舗でどんな商品を購入しているかはデータで明らかでしたが、実店舗での購買履歴だけではなく、デジタル上での行動を含め、顧客の興味関心までを線で理解することが重要だと考えたのです。
イオンリテールがまず始めたのは、670 万人(*2)の利用者がいる「イオンお買物アプリ」の活用です。イオンお買物アプリは、チラシやクーポンを配信したり、スタンプを貯めたりといった機能をもつ、お客さまとの重要な接点の 1 つです。イオンでよく買い物をするロイヤルカスタマーに、特に利用されています。
まずはこのアプリのデータを活用し、お客さまとのコミュニケーションをさらに深めることで、ニーズを把握し、オンライン、オフラインともに活かす循環を作ろうと考えました。
埋もれたデータを “ 生きた資産 ” に
データを有効に活用し、お客さまのニーズに応えながら、同時にビジネスモデルを拡張するには、まずアプリ自体の活用を促進する必要があります。より魅力的なクーポンの配信量を増やしたり、店頭でダウンロードを促したりといった施策を通じて、アクティブユーザー数を伸ばしました。こうして、データを生きた資産として、お客さまのプライバシーを遵守する形でより活用できるサイクルの基盤を整えたのです。その結果、より多くのお客さまに支持が集まる循環が生まれました。
アプリを通じて取得した膨大な購買行動データは、以前から他社のクラウドサービスに蓄積していましたが、うまく活用できているとは言えませんでした。データ分析もしてはいましたが、データ量が膨大なため、数秒単位でのタイムリーな分析や抽出ができず、活用がきわめて限定的な状態でした。いわば “ 宝の山 ” とも言えるものが、埋もれてしまっていたのです。
そこで分析やアプリの開発とも連動させるため、従来当社で使っていた Google アナリティクスや Firebase と連動させやすい Google Cloud Platform(GCP)に蓄積することに決定。データ業務やそれに伴う意思決定を高速化、効率化できるようになり、これまで 30 〜 40 秒ほどかかっていた処理が 5 秒程度になりました。また部門ごとに散らばっていた社内のデータを、一元管理できるようになったのです。
もちろんデータをこれまで以上に活用しようとすると、担当者の負荷は増えます。現在は、クエリのデータを抽出し、それを Google 広告への配信にも活かすといった作業をその都度手動で実施していますが、自動化、ダッシュボード化し、いつでも可視化できる状態が理想です。 2021 年内に最低限の体制作りを目指して準備を進めています。
顧客単価が向上、新たなビジネス機会としてメーカーとの共同販促「イオンAD」も構築
プライバシー規定を遵守しつつ、このようなデータ管理、分析を取り入れることで、アプリの改善やクーポンの収益アップといった成果にも結びつきました。
たとえば Google のプラットフォーム上でアプリケーションを構築することで、アプリのトラフィックが急激に上昇した場合でも、安定してアプリを運営できるようになり、アプリ会員の離脱を抑えました。またこれまで実施していた、レシートをハガキに貼って応募するようなマストバイ企画も、アプリ会員なら誰でも参加できるようになりました。お客さまにとっても気軽に応募できるようになったことで、購買機会を増やすことにも成功。結果的に、お客さまの購買金額の増加にもつながったのです。
今回の分析を通じて、いわゆる RFM(Recency:最後の購入からの間隔、Frequency:購入頻度、Monetary:購入金額)がわかるようになりました。それにより、毎週来店する人や 3 カ月来店していない人、何円以上購買する人など、特定セグメントごとに施策をプランニング。来店促進や、バスケット単価(1 人 1 来店当たりの購入総額)が向上したのです。
さらにアプリをキーとして、当社とメーカーさまとの共同販促の基盤である「イオンAD」を構築しました。Google のシステム上で購買行動データをマッチングし、購買者層に向けて効率的に広告を届けられます。すでにメーカーさまからの出稿をいただき、スタートさせています。
Google Cloud Platform を活用してお客さまが必要とする情報発信が可能に
イオンAD では、たとえば「過去 3 年以内に商品を購入したことがあるが、直近 3 カ月で購入していない層」などにリーチできるのが特徴。結果として、休眠層の掘り起こしにつながる可能性が見えてくるなど、短期的な成果が表れはじめています。
限られた予算の中でも広告を展開でき、イオン店舗のロイヤルカスタマーに Google の広告プラットフォーム上でアプローチできます。購買に寄与したかの計測によるインサイトも得られます。
なお当社が取得している購買行動データについては、プライバシーポリシーに厳格に準拠しており、協働するメーカーさまにもそれが適用されます。
デジタルとの融合、「レジゴー」などエンタメ性のある新たなお買い物体験を
当社は今回、データを活かす仕組みの構築からマーケティングへの活用まで、一気通貫で実施しました。
今後も アプリを通じて顧客接点をいっそう拡大し、670 万人のアプリユーザーを 2,000 万人にまで増やすことを目標にしています。そのために自社のファーストパーティデータを活用し、自社販促をより適切な形に変えるとともに、お客さまにとってより便利なお買い物体験を提供したいと考えています。
また最近では、イオンリテールの店舗で、お客さま自身がスマートフォンで商品のバーコードをスキャンし、専用レジで会計する「レジゴー」が、エンターテイメント性のある新たなお買い物体験として好評です。こうした、リアルとデジタルの融合をいっそう加速させることを目指していきます。それによって顧客体験としては、お得な情報やクーポンは、購入、利用される可能性の高い順で表示したり、アプリからでも注文でき、家でも店舗でも商品をピックアップできるといった、利便性の提供にも取り組んでいます。また、企業としては商品の需要予測にデータを生かし、食品ロスなどの課題を解決するといったことも検討しています。
今後も、お買い物のエンターテイメント性を重視しながら、Google と共に、お客さまの購買体験をより良いものにしていくためのデジタルの活用と広告ビジネスの強化を進めていきます。