US 版 Think with Google が 2022 年10 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
マーケティング担当者は、常に予期せぬ事態に備えなければなりません。変化をいとわず、素早く市場に合わせて方向転換しなければ、どんなに練り上げた戦略計画も無駄になる可能性があります。それに加えて今日では、不確実な経済環境にも対応する必要があります。洞察に裏打ちされた適応力が、これまで以上に明確に、かつ緊急に求められているのです。
それを念頭に置いて、私たちは業界のビジネスリーダーたちに、次の 10 年間のマーケティング予測について聞きました。「2032 年における顧客ロイヤルティはどう考えるべきか?」「2032 年に求められるビジネスとは?」「これからの 10 年でブランドの信頼を構築するには?」「今、10 年後の広告について私たちが語る意義とは?」 ーー 6 人による 10 年後の予測を紹介します。
第 1 の提言「新たな顧客体験を」ーー カーク・マクドナルド
デジタルとリアルの体験はタッチポイント全体で融合する
未来における広告の成功は、信頼と支持、そして顧客価値に基づいて、顧客との誠実な関係を構築することにかかっています。購買体験におけるデジタルとリアルの融合が強まるにつれて、人々は企業側が想像するよりも多くのタッチポイントでブランドと接しています。そしてそのすべてのタッチポイントで統一されたブランド価値を期待するようになるでしょう。その期待に応えるためにも、これらのタッチポイントは、プライバシー、テクノロジー、企業のパーパス、サステナビリティという重要な柱の上に構築する必要があります。
生活者がコントロールできる環境を提供し、より有意義な交流を
マーケティング担当者は、ユーザーを煩わしさから解放する必要があるでしょう。一方で、プライバシーに関する懸念もなくなることはありません。今後は、プライバシーに関する細やかで実効性を伴ったコミュニケーションを実現するために、指紋認証や顔認証で利用する個人の生体情報へ配慮しながらも快適なアクセス許可の管理、将来を見据えたデータ戦略が不可欠になります。AI や機械学習を活用し、生活者 1 人 1 人に適した体験を、必要とされる時に提供することでこれを実現できます。すべてのブランドは、サービスはもちろん、持続可能性に最適化した流通の改善に至るまで、自社のあらゆる決定にブランドの存在意義を浸透させることを求められるようになるでしょう。
第 2 の提言「適切なパーソナライズとプライバシー保護」ーー ヨンカ・デルヴィショール
広告は役立つコンテンツになる
振り返れば、Unilever でマーケティングに従事していたころ、同社の主力製品はジェルボール型洗剤でしたが、私はシャツのシミ抜きペンの開発にもっと興味を引かれていました。 私はずっとテクノロジーが生活を改善し、人間の可能性を解き放つと信じてきました。それが、20 年前にテクノロジー業界に転職した理由の 1 つです。
現在は Google で働きながら、AI の可能性に同じような興奮を覚えています。AI ツールを使うことで、ユーザーの選択とプライバシーを尊重しつつも、的確なメッセージを適切なタイミングで適切な人に届けられるようになってきています。Google の P-MAX キャンペーンはその一例です。クリエイティブの選択や入札、予算の最適化などを自動化できます。2032 年には、広告は私が思い描いている理想のかたちにかなり近づくでしょう。広告は、厳格なプライバシー基準を満たしつつ、多くの人の関心に沿った情報源となるはずです。AI ツールはすでに高い価値をもたらしており、マーケティングにおけるその存在感は、今後も増していくでしょう。
第 3 の提言「エシカルなブランド構築」ーーアレックス・シュミーダー
Z 世代は、ブランドにより強く価値観反映を求める
人種的、民族的、文化的に最も多様な世代が、2032 年には大人になります。彼らはこれまでで最もクィアでもあり、Z 世代と同様に、この世代は自分のお金をどこでどう使うかについて高い関心を持っています。またミレニアル世代や Z 世代は、ジェンダーやその公正さをめぐる議論も塗り替えようとしています。一方で、祖父母や親の世代よりも批判的なこの世代の生活者たちは、企業や製品がその社内の慣習や広告において、自分たちの価値観やコミュニティの考えを強く反映することを望みます。企業にとってのハードルはすでに高いものですが、今後も高くなる一方でしょう。自社製品やマーケティング、オーディエンスに対する内部ポリシー、政治的連携、企業理念のあり方を見直し始めなければ、今後その道のりはさらに厳しくなっていきます。キャッチーな広告だけでは、人々にアプローチすることはできなくなるでしょう。
ブランドのストーリーは、広告だけではなく行動すべてで語られる
最終的に選ばれるのは、あらゆるステークホルダーに配慮した製品開発や広告キャンペーン、企業文化を通じて、社会の一員であると認識されるような行動をするブランドでしょう。この数年で、オーセンティシティ(Authenticity:真正性)という言葉は、バズワードのように使い倒され、表面的なものになってしまいました。2032 年には、自社が何者であるか、何を支持しているのか、多様性をどのように尊重しているのかを示すことで、実質的なオーセンティシティの実現にコミットするブランドが成功するでしょう。中身を伴わない広告は、もはや製品だけでなく、ブランドアイデンティティそのものとみなされてしまいます。
第 4 の提言「斬新なパラダイムシフト」ーー チャウサー・バーンズ
オンデマンドコンテンツからノーデマンドコンテンツへ
地球規模に広がった情報伝達のネットワークと、AI によるレコメンドサービスは、人々の注目を長時間維持するという点において、従来のメディアより秀でていることが証明されています。そして AI によるコンテンツ生成と、より没入型のフォーマットが合わさるにつれて、メディアダイエットのためには、どんな情報を取り入れるか(オプトイン)だけでなく、どれを取り入れないか(オプトアウト)の決定もますます重要になります。それによって私たちは、新しいコンテンツ体験を通じてブランドとの関わり方をより詳細にコントロールできるようになるでしょう。
アテンションエコノミーから “ エンスージアズム(Enthusiasm:熱意)エコノミー ” へ
人々のアテンション(注目)を収益化している今日のプラットフォームは、今後、直販やマーケットプレイスの運営、サブスクリプションなどを通じたエンスージアズム(熱意)を収益化するプラットフォームへと移り変わっていくでしょう。そうでなければ、別のプラットフォームに取って代わられ、それまでのブランド広告への経済的依存は減少することになります。こうした状況を背景に、未来の広告は次のように大きく変わると思います。
- クリエイティブチームにより、ブランドのソニックアイデンティティ(音もしくは触覚アイデンティティ)が、現在のビジュアルアイデンティティよりも深く検討されるようになるでしょう。
- クリエイティブな分野における人材の価値は、創造的な解決策(コンテンツ、体験、キャンペーンなど)を提案することから、課題(ブランドの製品やサービスのユースケースなど)を創造的に提案することへと移行するでしょう。
- ブランドコンテンツの重要性が低下することでしょう。それに伴い、自社の製品、サービス、価値を示すことを渇望するブランドでは、ブランドスペース(物理的なものであれ、バーチャルであれ、ライセンスされたものであれ、注文制作のものであれ)の重要性を問うことが復活し、議論されるようになるでしょう
第 5 の提言『ブランドの信頼構築』ーーサイモン・カーン
未来の購買者にとってすべてのタッチポイントが重要になる
ブランドがメッセージを管理し、一方的に発信する時代は終わりました。現在の生活者は、ブランドとの会話と共創を求めています。ソーシャルメディアでの直接的な交流から、プログラムや体験を通じて提供される支援まで、未来のブランドと顧客との関係は、ブランドの発信と行動を通じて、あらゆるタッチポイントで築かれていくのです。
ブランドの信頼構築は責任あるデータ使用から
企業が常に一貫したストーリーを伝えるために、マーケティング担当者は、より大きな使命を担うことになります。それを正しく実行するための基盤は、信頼と責任あるデータの活用です。人々がオンラインで過ごす時間が増えるにつれ、ブランドがユーザーのニーズを定義し、より良い体験を設計し、適切なメッセージを適切なタイミングで適切な人に届けるためのデータは十分に集まりつつあります。データに基づいた責任ある分析は、複雑で雑音の多いメディア環境を切り抜けるための鍵になります。マーケティング担当者は、データを管理するチームと協力し、ユーザーをよく理解して信頼関係を築く必要があります。
第 6 の提言『つながりへの回帰』ーー マリー・グリン・マール
プライバシーコントロールと高いコンテンツ体験の両立
人気 SF 映画の中には、未来のマーケティング体験を、プライバシーを侵害するディストピア的な脅威として提示するものがあります(『マイノリティ・リポート』のシーンを思い浮かべています)。しかし実際には、人々がクリエイティブをサポートするような、異なる世界が形作られつつあります。私たちは、許可を得た上で人々が自身に関連性の高いコンテンツやサービスを体験できる未来を準備しています。そこでは当然に決定権は人々にあり、ブランドからの接触を受け入れることも、拒否することも、接触する権利を無効にすることもできます。
マーケティングはその本質である「つながり」に立ち返る
魅力的で影響力のあるキャンペーンとユーザープライバシーが、両立する世界を楽しみにしています。すでに「マイ アド センター」のようなサービスに、そうした世界の兆しが見えており、これによってユーザーはどのブランドからのメッセージを受け取るかをコントロールできるのです。そして最終的には、ブランドや製品と生活者がつながるという「マーケティングの本質」に回帰すると信じています。ただし、そうした世界の実現には、ブランドと人々の間での信頼関係が欠かせないでしょう。