ビジネスを拡大するためにさらなる顧客開拓は重要なテーマですが、近年ではオンラインが潜在顧客や見込顧客との接点としてますます欠かせないものになっています。
知りたい情報を調べる情報探索や、EC サイトを利用した買い物といったオンライン上での行動は、年代や性別に関わらず活発な状況が継続しています。しかし、オンラインでただ接点を持てば、顧客層を広げることに結びつくというわけではありません。
人々のオンラインにおける情報探索行動は複雑
Google のコンシューマーマーケットインサイトチームの分析から、人々のオンラインにおける情報探索行動はとても複雑であることがわかっています。購入に至る過程は直線的ではなく、「さぐる」検索と「かためる」検索を行き来する動きを見せるのです。このような情報探索行動のあり方を「バタフライ・サーキット」と呼んでいます。
このバタフライ・サーキットには、オンラインで商品やサービスを見つけることを楽しみ、インスピレーションに忠実に購入に至る「瞬発型」、オンラインで情報を集めて比較検討を行って購入する「主観型」、口コミやレビューといった他人の意見を参考にして購入の決定に向かう「真面目型」など、5 つのパターンがあります。それぞれ購入を決断するタイミングは異なり、購入するものや置かれた状況によって、どのパターンを取るかも変わります。
このことから、ニーズが顕在化したタイミングで顧客と接点を持つだけでは、新規顧客の発掘に結びつけることが困難であることがわかるでしょう。
オンラインで顧客を発掘するには、接点を持つ間口を広げること、そして接点を持った顧客のエンゲージメントのために、購入意欲をかき立てる適切なコンテンツを準備したり、行動につながるコンバージョンへのプロセスを分かりやすくしたりといったユーザーエクスペリエンス(UX)の改善も重要です。
今回は、従来とは異なる間口を広げたアプローチによってオンラインでの新規顧客の獲得に成功した SBIホールディングス株式会社の「インズウェブ」と、問い合わせのステップの簡素化によってコンバージョン率(CVR)向上を実現したエムスリーキャリア株式会社の「薬キャリ」の事例を取り上げます。
思い込みを捨て、動画広告で潜在顧客にリーチ──「インズウェブ」
「インズウェブ」は、インターネットを通じて金融サービスを提供するSBIホールディングスが運営する保険の見積もり比較サイトです。保険への加入を検討している顧客を、興味を持った保険会社や代理店に送客することで利益を得るビジネスモデルであるため、潜在顧客の中でも契約の確度が特に高い顧客にリーチすることが、ビジネス拡大の鍵とされてきました。
保険には、自分に合ったものを選びたいという気持ちから、リサーチを綿密に行う人が多いという商品特性があります。そこで同社では関連性の高い検索キーワードで集客を見込む検索広告との相性が良いと考え、これまで Google 広告での広告配信の大半を検索広告が占めていました。
検索広告は一定の効果を上げていましたが、その中で 2 つの課題も見えてきました。1 つは、コンバージョンにつながるキーワードが限られており、競合他社もそれらを狙うために競争が激しくなり、結果的に顧客獲得単価(CPA)が高止まりしてしまうこと。2 つ目は、競合他社の検索広告の出稿量の増減によって、広告の運用成果が直接的な影響を受けることです。
このような検索広告の課題を解決するため、顧客のインサイトを深堀りして検索広告のキーワードを拡張したり、キーワードに合ったコンテンツを準備したりなど、さまざまな施策に取り組みました。
同時に、検索広告とは異なるより多くの潜在顧客にリーチする新たな一手として、YouTube 広告の「TrueView アクション広告」にも取り組むことを決めました。
TrueView アクション広告は行動変容を促すことに強みを発揮する動画広告。行動を促すフレーズやわかりやすい広告の見出しをオーバーレイで表示できるなど、潜在顧客の見込顧客化や新規顧客の獲得に効果的です。
インズウェブでは、検索広告と並行して 2020 年 6 月から 8 月の 8 週間をテスト期間として、見積もり請求をコンバージョンポイントに TureView アクション広告を配信しました。
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当初、動画広告は CPA が高くなるのではという懸念を持っていましたが、テスト期間の結果を見ると、検索広告と同程度の CPA で潜在顧客を掘り起こすことができました。なお TrueView アクション広告は、Google の推奨設定で運用を続けることで機械学習が進みます。そのため運用期間の後半の CPA は、前半と比べて 23% 低下、CVR は同 40% 向上するという結果を見せ
さらに検索広告とも並行して配信したことで検索広告のみの時期と比較して、適正な CPA を維持しながらも同時により多くのコンバージョンを獲得できました。
インズウェブの事例からは、人々のオンラインにおける情報探索活動が盛んになる中で、間口を広げて多面的に生活者と接点を持つことが、潜在顧客を発掘し、新規顧客へとつなげる上でいかに重要であるかがわかります。
それまで運用していなかった動画広告を併用することで大きな効果を得たインズウェブのように、既存の施策を見直して、間口を広げた多角的なアプローチがこれからのマーケティングのヒントとなるでしょう。
問い合わせを簡素化した「薬キャリ」──広告から直でフォーム表示、CVR は +14%
続いては、エムスリーグループが運営する薬剤師専門の転職プラットフォーム「薬キャリ」の事例です。
同社ではこれまで、未登録の薬剤師を見込顧客と考え、広告運用に積極的に取り組んでいました。その結果、インプレッションを増やして認知を拡大することを目的とした施策は十分な成果が得られたため、次はサービスへの登録を促して CVR を上げる施策を模索していました。
しかし、「転職はしたいが、具体的なプランはなく行動には移せていない」という検討段階の見込顧客にとって、転職サイトへの一足飛びな問い合わせや登録は難しいものです。そのような人の問い合わせや登録を促すためには、心理的な障壁を下げる必要があります。しかし、薬キャリではランディングページにおける申し込みのステップを簡素化するといった試行錯誤を繰り返したものの、思うような成果は得られませんでした。
そこで新たに取り組んだのが、検索広告の「リードフォーム表示オプション」の使用です。リードフォーム表示オプションとは、検索広告に登録ボタンを表示する広告運用で、広告からワンクリックで登録フォームを立ち上げ、問い合わせが可能になります。Web サイトへの遷移のステップを省くことで問い合わせのハードルを下げられるため、見込顧客へのアプローチに効果的だと考えたのです。
リードフォーム表示オプション
薬キャリは、見込顧客が感じている問い合わせへの心理的な障壁に対して、問い合わせのステップを簡素化というアプローチを見いだし、UX を改善する広告運用を実施。それにより、リーチの拡大とコンバージョンの獲得を効率化し、従来の広告運用と比較して CPA は 17% 低下、CVR は 14% 向上させました。
エムスリーキャリアの丸山裕史氏(薬剤師キャリア事業部)は「エントリーフォームの改善は継続的に実施しており、常に課題として大きいものでした。リードフォームの追加により、LP 以前の段階での導線を最適化することで、まだ転職意向が固まりきっていない見込顧客を獲得できた点は非常に有用だったと思います。検索広告のクリエイティブ上で Call to Action を強く明示することで、エントリーフォームに到着せずとも顧客の意識を“申し込み“に向けられたことが成功要因だと考えています」と話します。
オンライン上では、他のサイトへ離脱したり、異なる興味関心へ移行したりといったことがワンクリックで簡単にできます。そのため、見込顧客と接点を持つだけでなく、そのタイミングを逃さずに次の行動に進んでもらうことが重要です。
改めて顧客を分析し、人々の課題を導き出すことで、顧客接点をコンバージョンにつなげる方法を模索することが今の広告運用には求められています。