US 版 Think with Google が 2022 年11月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
クリエイティブ領域の変革がもたらす影響を探るため、Google の Creative Works チームは「Open Creative Project」の名の下、Contagious や Benedict Evans、Bain & Company といった企業、および 25 人のさまざまな業界のリーダーたちと協力してプロジェクトを進めています。各界のリーダーたちとの一連のインタビューから、市場分析とインサイトを結びつけて、マーケティング業界の将来についての対話を促す取り組みです。この記事では、Google のアビゲイル・ポズナー(Director, U.S. Creative Works)が、このプロジェクトで得られた初期の知見を紹介します。
広告の世界ではこれまで、「クリエイティブ」という言葉は特別な意味を持っていました。物理的にも比喩的にも、組織の他のチームから離れた、特別なスキルを持つチームという位置づけでした。しかし新型コロナウイルス感染症の拡大によって、組織の全員が、仕事でもプライベートでも、安全な場所としてデジタル空間に身を置くようになり、「クリエイティブ」はより大きな意味を持つようになりました。
デザイン学校に通っていなくても、クリエイティブブリーフを作った経験がなくても、人々はためらうことなくオンライン上で自分自身を表現できるようになりました。無名のシェフは YouTube で料理への情熱を共有して世界中の視聴者を引きつけ、ゲーマーたちは何千、何万もの熱狂的なファンに向けてゲーム実況をしはじめました。人々が、さまざまな場所と方法で自分のストーリーを共有し始め、なかにはブランドと提携(英語)して強力な語り手になるインフルエンサーもでてきました。
マーケティング担当者や広告代理店も、クライアントの課題を解決し、生活者と有意義な関係を築きその成功を測るために、よりクリエイティブであることが求められます。そして、クリエイティブの自動化、実験、支援、そして測定のための新たなツールを使いこなすようになり、ブランドアイデンティティの醸成過程にこれまで以上にオンラインコミュニティをスムーズに巻き込めるようになってきました。コミュニティとともに、マーケティングのあり方を再構築しながら、新たな可能性を発見しているのです。
こうした事象のすべてが相まって、現在は「以前と状況が違う」以上のある種の節目になっています。
生活者行動の変化、機械学習の台頭、筋書きのないユーザー表現の隆盛、マクロ経済の圧力が組み合わさった今、クリエイティブはデジタルマーケティング業界における競争優位性を決める大切な要素の一つとなっていると言えます。
アメリカではメディア主導の自動化だけではなかなか大きな成長が見込めないと言われている中で、クリエイティブは差別化を促し、投資対効果を高めるための非常に効果的な手段になりつつあります。またクリエイティブにかかる費用は、メディア費用よりも急速に増加(2018 年から 2021 年にかけての年間増加率は、前者が 6%、後者は 5% でした(*1))。Google は、これらのトレンドを深く掘り下げる価値があると考え、Contagious 、Benedict Evans 、Bain & Company を含む業界大手企業、および 25 人のクリエイティブ業界のリーダーと協力して「Open Creative Project」に取り組みました。
徹底した市場分析と何十人もの各界のリーダーへのインタビューを通じて、クリエイティブ分野ですでに進んでいる変革の理由や状況、将来への影響について深く調査を開始しました。調査の過程で、かつては対立する概念とみなされていた、芸術と科学、筋書きのない表現とブランドに応じて決まった表現方法、生活者と広告クリエイター、ブランディングとパフォーマンス、創造性と自動化が、相互に依存するようになってきているのを何度も確認できました。
このプロジェクトの目標は、今後 3 年から 5 年で、クリエイティブが広告業界において果たすより広い役割について、新たな議論を生みだすことです。この議論は、広告業界全体からの貢献とフィードバックによって構築される予定ですが、マーケティング担当者やブランドにとって最大のチャンスをもたらすいくつかの分野について、これまでに得た知見を紹介します。
「クリエイティブ」と呼ばれる人々について再考する
まずは、クリエイターエコノミーの台頭から話を始めるのが自然でしょう。これは、クリエイティブの未来と、すべてのマーケティングの未来がどこに向かっているのかを示す最も強力な証の 1 つです。
広告業界において、過去 3 年間に独創的で革新的なコンテンツ(英語)が急増しました。たとえば、広告サービス領域におけるクリエイターの支払いの中でも、インフルエンサーマーケティングへの支払い額は、2018 年から 2021 年にかけて年間 50% 増加(*2)。世界的に、多様性を求める声が後押しとなり、新旧プラットフォームにおける従来のマーケティングミックスに新規性あふれる視点と影響をもたらしたのです。
「オウンドメディア」という言葉は、いまや相対的なものです。一般の生活者だけでなく、独自の視点と多数のファンを持つ何千人もの影響力のあるクリエイターが、自分のチャンネルや筋書きのない空間を通じて、ブランドのメッセージに賛同したり、反対したり、反復したりするツールを持っています。
何か新しいことや独自性のあることに挑戦する意欲は創造性のカギとなり、それは「実験」で形になります。特に実験を可能にするツールの急増により、急速にコアコンピテンシーになりつつあります。
クリエイティビティを発揮しようとする組織やブランドは、クリエイターと共通の視点を持ち、より積極的に協力していくことで、人々とのより活発で真摯なコミュニケーションが可能になるでしょう。CEO から財務担当まで、組織の全員を「クリエイティブチーム」と捉えることも重要です。
新たな価値交換
デジタルプラットフォームとその利用者との関係が新しい形へと変化していることは明らかです。
しかし、常に情報があふれているインターネットの世界で、どうすればブランドは自分たちがタッチポイントを持ちたい人々とつながり続けられるのでしょうか? そのためには、ブランドがいつ、なぜ、どのように、人々の注目や満足、信頼を獲得するかを再定義する必要があります。ブランドからの一方的な働きかけではなく、生活者との双方向の価値交換が重要です。
つまり、人々はすでに広告主であるブランドにとって、データがいかに重要かを理解しているのです。ブランドが取得するデータの価値と、それによって自分たち生活者が得られる利益を理解する(英語)と、人々はそのデータを責任を持って扱うブランドを信頼し、より安心してつながるようになります。
生活者からの「私の役に立つものはある?」という問いかけに対して、説得力のある答えを提供するために、ブランドは、潜在顧客を含めたすべての顧客のニーズを理解し、そのニーズに応えられることを示し、生活者から大きな共感を得なければなりません。そしてできる限り幅広い人々に向けて、かつブランド自身の言葉で真摯に訴えかける必要があります。その方法として最も効果的なのが、優れたクリエイティビティなのです。
思考力とテクノロジーの処理能力との出会い
すでに多忙なマーケティング担当者の皆さんは、「これ以上何をすればいいのか?」と疑問に思うかもしれません。
しかし、AI を競争相手として捉えるのではなく、協力者として受け入れる(英語)だけで、マーケティング担当者や広告代理店の仕事の多くはよりシンプルになります。バラバラの点と点を結び、新たなインサイトを発見することで、組織全体の時間を解放し、さらなる創造性をもたらします。
効果測定を例に考えてみましょう。新たなコンテンツ形式が増加したことで、マーケティング担当者は効果測定のためのデータを、これまで以上に多く扱っています。しかしデータは、それを解釈して現実に適用する能力があってはじめて有用なものとなります。そしてさらにモデリングによって、パフォーマンスを向上させることができるのです。
これに気づき始めているマーケターもいます。デジタル広告のクリエイティブ素材の管理や、クリエイティブのダイナミックな最適化、アトリビューション分析、クリエイティブの応用、インフルエンサーマーケティングプラットフォームなど、クリエイティビティを支える技術は、2020 年から 2021 年にかけて、年間 10 ~ 30% 成長しました(*3)。
このシフトは今まさに進行中です。もちろん、広告クリエイティブの改善に役立つだけではありません。クリエイティビティを発揮すれば、効果測定の方法そのものをより良いものへと変えることができます。
在庫から体験まで、“ どこでもコマース ” の時代に
現代の買い物体験(英語)は、実店舗の枠からはみ出し、ライブストリーミングやソーシャルサービスにまで広がっています。
クリエイターエコノミーが AR、VR、ゲームなどの領域で開花(英語)している影響で、ブランドは新たな展開を見せています。カスタマージャーニー全体にわたる顧客とのやり取りすべてがコンバージョンの機会(英語)であり、それによってブランドを構築できる “ どこでもコマース ” 時代なのです。
ホリデーシーズンにおけるマーケティングが長期化してきている(英語)ように、ブランドは、顧客とのコミュニケーションを見つめ直すタイミングに来ています。
これらのアイデアを思考の出発点として、より多くの人々に議論が広がることを、Open Creative Project の参加者を代表して楽しみにしています。今後ここで紹介した調査レポートの完全版を公開し、クリエイティブ広告のリーダーたちからの寄稿を紹介していきます。クリエイティブの未来を共に探究し、規定し、発明することに取り組んでいる業界リーダーたちの洞察をお楽しみください。