通常、電子書籍サービスでは、さまざまな出版社の漫画を読むことができますが、それらは他社のサービスでも同様に読める場合が多いです。したがって、読者を獲得し、自社サービスを継続的に利用し続けてもらうためには、そのサイトで「しか」読めないオリジナルのコンテンツがとても重要になります。
「めちゃコミック(めちゃコミ)」を運営する当社、株式会社アムタスの問題意識もまさにそこにありました。
アムタスではこれまでもオリジナル作品を制作しています。ですが、それらはこれまで、担当者の勘や経験、過去の売れ筋情報に基づくものでした。
この方法でできあがったコンテンツは、真に読者が求める作品なのか、裏付けとなる根拠が乏しかったのも事実。そこで当社では本当に読者が求める内容を可視化し自社で制作するために、調査や広告データのインサイトに基づいた方法を検討し始めたのです。
蓄積した自社データを機械学習、読者ニーズを探る
読者が求める作品像を探るために、アムタスでは各漫画にそれぞれタグ(メタデータ)を付与しました。
「ミステリー」や「サスペンス」といった一般的なカテゴリ分類だけでなく、「スカッとする」「ドロ沼」「続きが気になる」といった読者の読後感を表現するようなユニークなタグを用意しました。さらに、アプリ利用者の属性や、読まれた作品、そのジャンルやストーリー、アプリ内行動、ポイントの消費状況など、当社が蓄積していた自社データを Google Cloud Platform の機械学習を利用して分析。こうして、どのような人がどのような内容のコミックを好むのか、その傾向を明らかにしようとしたのです。
現在も、読者の求めるものを理解するために工夫を続けているところですが、こうした取り組みによって、毎月数千タイトル出る新作コミックの中で、売れる可能性が高い作品を事前に把握できれば、広告費を集中的に投下できるようになります。また広告を配信すべき読者層もより鮮明になり、広告クリエイティブに磨きをかけたり、既存読者へのレコメンドもより有効に機能させたりといったことが可能になるのです。
調査や広告分析から潜在読者層を選定
併せて、オリジナルコミックを制作する上で、どの読者層を対象とすべきかも検討を進めました。めちゃコミの主な読者層は、20 代から 30 代の女性です。しかし今回は「今まで獲得できていなかった潜在読者層」を割り出すために、調査会社のインテージと協業してオンラインアンケートを実施。「過去半年間に有料無料問わず電子コミックの利用経験がない」人の中で「漫画自体にネガティブな意識を持っているわけではない」人を潜在読者層と仮定し、調査結果から新たな読者像を具体的に選定しました。
潜在読者層をより具体的に探るため、まず考えられる読者層を性年代で 10 に分け、いくつかの項目でマッピング。例えば「漫画関与度」という項目では、日頃どのくらいの頻度で単行本や雑誌の漫画を読んでいるかやお気に入りのキャラクターや作者がいるかなどの調査結果から点数づけしました。そのほか「紙媒体へのこだわり度」や、「オンラインコンテンツの課金許容度」などいくつかの項目で今回漫画を届けるべき読者層を絞り込んでいきました。
読者層を具体的に定義した後、その興味関心を分析します。今回は動画広告を使った方法を採用し、広告の出稿結果からオーディエンスデータを分析しました。まずは Google とワークショップを実施し、どのような広告クリエイティブが刺さるのかを検討。読者により自分ごととして捉えてもらえるような動画広告を 2 パターン(6 秒のバンパー広告と TrueView 広告 )制作します。この 2 つを「動画広告シーケンス」を活用して順にストーリー配信しました。2 つの動画をスキップせずに視聴した人は、電子コミックへのモチベーションが高いと考えられるため、そのオーディエンスの属性や興味を分析することで、今後読者になりやすい層の特徴を明らかにすることができると考えたのです。
ジャンルやストーリー、画風まで——分析を活かした実際の 3 タイトル
ここから得られたインサイトを設問に取り入れて、再度インテージとマーケット調査を実施。潜在読者層と定義した調査対象者に対して、「漫画への接触度」「漫画への課金度」「電子コミックサービスへの接触度」「これまでに読んだことがある漫画作品」などを聞き、好みを深堀りました。
前述の自社データ、YouTube 広告経由でサービスを登録した人の属性も掛け合わせ、「今後電子コミックに新しく接触する/接触する頻度が増える」可能性が高いのはどのような層なのか、そしてその層の人たちは何をきっかけに作品を読み、どのような読後感を得たいのか、調査結果からさらに深い分析を進めました。
その結果、潜在読者層は「日常では出来ない経験、没入体験をしたい」「爽快な読後感を得たい」「キャラクターに共感し、感情移入したい」といったニーズを持っていることが分かりました。具体的には、「異世界・ファンタジー」「主人公の成長ストーリー」「アクション・バトル」「恋愛コメディ」「ホラー・サスペンス」「スポーツ」などのジャンル、ストーリーが特に求められていると結論づけました。
今回は長編作品ではなく、短編作品を数本制作することにしました。まずは分析に基づき、制作作品の候補として「異世界 × 主人公の成長ストーリー」「異世界 × コメディ」「青春学園ストーリー」「アクション・バトル」「サスペンス」の 5 ジャンルを選定。 それぞれのあらすじを制作しました。あらすじが完成したら、それを上の分析で定義していた潜在読者層にあたる調査対象者に読んでもらい、感想をヒアリングしました。
ヒアリングの結果、「異世界 × コメディ」の作品については、ストーリーが分かりづらく、あらすじに記載されているキャラクターにも魅力を感じない、「青春学園ストーリー」に対しては、よくある作品に見受けられ、興味をそそられないなどの声が多く集まりました。これを踏まえて、残りの 3 タイトルに絞り、実際に漫画の制作をスタートしました。
実際にできあがったのが、「異世界 x 主人公の成長」のジャンルで「痛快な読後感」を得たい読者層のニーズを汲んだ『追放された元勇者、改竄能力を手に入れたので無双します』、「個性的なキャラクター」が登場し「アクション・バトルの擬似体験による爽快感」が得られる『GUARD+』、「リアルな心理・表情描写」から「独自の世界観」に引き込まれるサスペンス作品『危険ないたずら』の 3 作品です。
分析を活かしたのはジャンルやストーリーの選定だけではありません。漫画を読むきっかけとして挙げられていたのが「画風」です。今回の取り組みにおける想定読者に読んでみたいというきっかけになりやすい画風で制作を進めました。
マーケティングを制作後ではなく、制作に活用
今回のオリジナルコミックの制作に際しては、社内の組織体制やコミュニケーションの流れが変化したことも重要なポイントです。
これまではまずコミックの制作部門が出版社と共に作品を作り、その後マーケティング部門ができあがった作品の広告プロモーションを担う分業制でした。
それに対して今回は真逆のアプローチを実施しました。最初にマーケティング側でインテージと調査を実施するなど、データから潜在読者層につながるインサイトを入手。それをコミックの制作担当に渡して制作に活かしたのです。このように、制作側とマーケティング側がスキームを大きく変えながら連携できたことが、今回の取り組みにつながりました。
アムタスでは今後も、真に読者が求めるコンテンツを提供できるように制作を進めていきたいと考えています。