テクノロジーの発展とともに、デジタル広告の精度は高まり、より価値ある形で生活者との接点を作れるようになりつつあります。
その技術を特に凝縮したのが検索広告のマッチタイプの 1 つである「部分一致」です。Google AI や言語モデルの進化に伴い、近年その精度は飛躍的に向上してきました。
これまで部分一致については、精度の低さや広告効率が悪化してしまうことへの懸念を指摘する声があったのも事実です。しかし近年、Google AI や言語モデルの進化に伴い、その精度は飛躍的に向上してきました。機能の開発から 20 年以上が経った現在、部分一致という名称は、もはや実態を正確に表すものではなくなっています。
そこで Google Japan では、2024 年 7 月から、生活者や企業のインテント(意図)を捉えるという機能の本質に合わせてマッチタイプの名称を「部分一致」から「インテント マッチ」へと変更することを決めました。
名前が変わるこのタイミングで改めて、インテント マッチ(旧:部分一致)が AI の発達を背景にこの数年でどのように進化してきたのかを紹介します。
複雑になる生活者の検索行動
スマホの普及とともに情報探索の手段は、多様化してきました。
なかでもテキストでの検索は、人々が何かを「知りたい」「調べたい」と思った時に、能動的に情報を探す手段として定着しています。
そして生活者による検索行動は時代とともに変化し続けています。検索クエリはどんどん具体的になり、単語ではなく文章による検索も増えてきました。さらには画像検索のようなテキスト以外での検索や、最近では生成 AI の進化に伴うチャットボットでの検索も盛り上がっています。
こうした変化を背景に、検索クエリはますます複雑に、多様になっていくと考えられます。同時に、検索によって得られる情報の精度に対する人々の期待値も高まっていくでしょう。
生活者のニーズに応えているのは、オーガニックの検索結果だけではありません。検索広告も同じです。Google では 2000 年に検索広告を開始。以来、生活者の検索クエリに合った商品やサービスの広告を表示することで、人々と企業とをつなぐ役割を担ってきました。
企業は、デジタルマーケティングを通してこれまで以上に的確に生活者の情報に対する期待を理解し、適切にアプローチしていくことが求められているのです。
検索の「インテント」(意図)が重要に
検索広告は企業が特定のキーワードを設定し、それに合った検索クエリに対して広告を表示することで、生活者が知りたい情報と企業が伝えたい情報とをマッチングさせてきました。
しかし検索クエリが同じだからといって、その背景にある意図がまったく同じとは限りません。同じ検索をしていても、その人が置かれた状況や関心によって、「知りたい」「知ろうと考えている」ことは異なります。逆に、異なるクエリであっても背景にある意図は同じという場合もあるでしょう。こうした検索クエリに込められた生活者が求めているものを「インテント」(意図)と呼びます。
つまり、検索クエリから生活者のインテントを理解できれば、人々が真に求める情報を的確に提示でき、それが結果的には広告効果の向上にもつながるのです。
とはいえ、24 時間 365 日、変化し続ける生活者のインテントを把握し、リアルタイムにキーワードを調整するといった従来の広告運用は現実的ではありません。実際、生活者の変化に付いていくために運用が複雑化したことで人的リソースがひっ迫したり、機会損失が生じていたりしているケースもあるでしょう。
完全一致での運用は万能なのか
こうした課題に応えて使われてきたのが、検索広告のマッチタイプの 1 つである「部分一致」でした。
部分一致は、指定したキーワードに加え、共通するインテントを持つ検索クエリにまで幅広く広告を表示できるマッチタイプです。完全一致やフレーズ一致よりも、幅広い検索クエリに対して広告を表示できます。
しかし過去には、部分一致に対しては一部ネガティブな声も挙がっていました。それは、検索広告における成果獲得の「効率性」の問題と関係しています。
キーワードを指定することで生活者の顕在化した情報探索に直接アプローチできる検索広告は、よく “ 刈り取り ” 型の広告だと言われます。そこで重視されてきたのは、獲得効率をいかに高めるかです。
そのため、自社で厳密にキーワードを指定することで結果を予想しやすい「完全一致」をメインにした運用が、“ 効率よく” 費用対効果を最大化できると考えられてきました。
一方で、完全一致での運用では特定のキーワードにしか広告を出稿できないため、リーチできるユーザーの裾野が広がらず、その結果、縮小均衡に陥り獲得数も頭打ちになることが懸念されます。また、検索ボリュームの多いキーワードは競争率も上がり、クリック単価(CPC)が高騰するといった弊害もあるでしょう。
そこで、今こそ改めてその価値を見直したいのがインテント マッチという考え方での運用です。これまで想定していなかった検索クエリの中で、実は自社の広告に合ったインテントを持った生活者に対しても、幅を広げてアプローチできます。
Google AI の進化で、生活者の「インテント」を捉える
AI 言語モデルの性能は、2017 年から 2020 年にかけて約 5,000 倍に向上し、人間の自然言語を理解する能力も 50% 向上したと言われています(*1)。
インテント マッチは、大規模言語モデル(LLM)によって何十億ものテキストを学習するほか、他のマッチタイプでは使用していない複数のシグナルを用いています。ユーザー側のインテントだけではなく、広告のテーマやランディングページの内容、自動入札で使用している独自のシグナルに基づいた学習データなど、企業側のインテントも加味しており、より興味関心や購買意向の高いであろう検索クエリを捉えられるようになりました。
今回「インテント マッチ」へと名称を変えたのは、こうした変化に対応してきたためです。
生活者の検索意図に合ったクエリに自動出稿
インテント マッチが、どのようにして生活者が検索したクエリのインテントを捉えるのか、具体的な例を基に確認してみましょう。
たとえば Google 広告上で「一人旅 温泉」というキーワードを設定した場合を考えます。完全一致では同じ意味のクエリに対して、フレーズ一致ではそれに加えて「ひとり旅 温泉 おすすめ」など指定したキーワードに単語を追加したり文字面を変えたりしたクエリに対して広告を配信します。
一方のインテント マッチでは、「湯治の旅」「大宮から電車で行ける温泉」など、キーワードとは一致していないクエリに対しても配信できます。指定したキーワードと共通する意図で検索されるであろうクエリも自動で認識し、運用に反映できるのです。
同じく「格安 スマホ」というキーワードを指定した場合を見てみましょう。安価なスマホを探している人は、子供用のスマホや初めてのスマホを選んでいる人のインテントと共通すると判断して「キッズスマホ おすすめ」や「スマホ デビュープラン」などの検索クエリに対しても広告を配信します。
インテント マッチで運用負荷を軽減し、マーケターの力をより付加価値の高い業務へ
このようにインテント マッチでは、「潜在的な顧客層」と「獲得につながるテールワード(検索結果を絞り込むために使う単語)」を見つけ出せるのが強みです。
手動でキーワードを選定する際には思いつかなかったものの、実は生活者のインテントを反映しているキーワードに、精度高く出稿できます。
ただし、インテント マッチを使いこなすためには、運用の目的に合わせて最適化できるように Google AI に学習させるためのデータ収集や計測が欠かせません。また入札戦略の検討も重要で、自動入札と組み合わせれば、目的に合わせて検索広告のコスト効率を維持しながら、獲得数も伸ばしてビジネス成長へとつなげられます。
さらにインテント マッチでは、Google AI によってキーワードを自動で拡張できるため、運用担当者の負担は軽減できます。その分、ネクストアクションの検討やクライアントサービス業務など、より付加価値の高い業務にリソースを割けるようになるでしょう。
実際、こういった考え方で多くの企業がインテント マッチを活用し、成果につなげています。次の記事では、楽天モバイル株式会社、株式会社KINTO、株式会社JTB の事例を紹介します。
Contributor:大越 明日成(パフォーマンスソリューション担当)