ここ数年、行動制限によって大きな影響を受けた「旅行」。Google では、人々の旅行に対する意識を探るため、日本全国の 18 歳 〜 75 歳の男女 3 万人を対象に、2022 年 9 月 30 日 ~ 10 月 2 日にかけて調査を実施。その調査をもとに本記事では、生活者の旅行への意識や動向を把握、分析するとともに、旅行を切り口として、生活者の意識の変化や定着した行動などを探ります。
国内旅行の消費額は 2019 年まで微増傾向にあったものの、感染拡大によって 2020 年には前年比 50% 以下まで落ち込みました(*1)。
しかし 2022 年に入り、政府がウィズコロナに向けた移行策を掲げるなど、過去 2 年間と比べて、人々も生活に落ち着きを取り戻しつつあります。博報堂生活総合研究所のデータ(*2)によると、今回 Google が調査を行った 2022 年 9 月時点での人々の暮らしの自由度は、100 点満点中 60.2 点と前年同月比で 8 点以上増加しており、人々の気持ちが前向きになっている時期だったことがわかります。
こうした人々の意識を背景に、2022 年の春先には各自治体が、 10 月には政府が、旅行代金の割引などの支援策を実施。旅行への追い風が吹き始めています。このようなマクロ環境も踏まえて、今回の調査結果を読み解いていきます。
調査対象 3 万人のうち 77% が「1 年以内に国内旅行に行きたい」
まず、過去 1 年間に実際に国内または海外旅行に行った人の割合は、国内旅行で 49%、海外旅行では 3%。その一方で、今後 1 年以内に国内旅行に行きたいと回答した人は 77%、同じく海外旅行は 32% でした。
もちろん、これらの人すべてが旅行に行くとは限りませんが、過去 1 年間の実際の行動と現時点における旅行への意向には大きなギャップがあることがわかります。
また今後 1 年以内に旅行に行きたいと回答した人に予算を聞いたところ、国内旅行では 1 人あたり 1 回 5.1 万円、海外旅行では 16.2 万円でした。これに同じく調査で聞いた旅行頻度などを掛け合わせて、今後 1 年間の旅行市場規模を拡大推計すると、国内旅行は 12.6 兆円、海外旅行は 11.0 兆円に上ります。
国内旅行の「1 人旅」「友人・知人との旅行」増加へ、コロナ禍での交流状況に着目
ここからは、特に意向が高まっている国内旅行に絞って、さらに詳しく分析を進めます。
過去 1 年間の旅行経験と、今後 1 年間の旅行意向の差分を旅行形態別に見ると、「1 人旅」と「友人・知人との旅行」が、今後 1 年間で特に大きく増加する可能性があることが見えてきました。
そこで、この 2 つの旅行形態をさらに詳しく探っていきましょう。
今後 1 年間の旅行意向を年代別に見ると、「1 人旅」は年代ごとの偏りがあまりなく、ライフステージに影響を受けない形態であることがわかりました。
また、「1 人旅」「友人・知人との旅行」に行きたいと回答した人たちは、「パートナーとの旅行」や「小さな子どもを含めた旅行」など他の旅行形態を選んだ人ともある程度の重複がありました。つまり、「1 人旅」「友人・知人との旅行」意向者はいずれも、複数の旅行形態を気分やシチュエーションによって使い分けようとしていることが読み取れます。
さて、「1 人旅」「友人・知人との旅行」は、今後 1 年間で大きな増加が見込まれると前述しましたが、その理由を探っていきましょう。
「1 人旅」「友人・知人との旅行」に行きたいと回答した人に着目して、コロナ禍における他人との交流状況を分析しました。
「1 人旅」意向者は、家族や友人、職場の人たちとの交流に関しては平均との大きな差が見られなかった一方で、「1 人きりで過ごす時間が増えた」割合が平均よりも高いのが特徴的です。このデータから読み解くと、外出自粛などにより増加した 1 人時間をきっかけに、1 人で過ごすことに抵抗を感じなくなったり、むしろ前向きに捉えるようになったりした人たちが、「旅行も 1 人で行きたい」と考え始めているのかもしれません。
Google トレンドのデータを見ても、「ひとり 〇〇」という検索は伸びており、感染拡大前の 2019 年の水準を上回っています(*3)。
「友人・知人との旅行」意向者も、同様に「1 人きりで過ごす時間が増えた」割合が高かったのですが、それに加えて「友人・知人と交流する時間が減った」と回答した割合も 56.5% と平均(43.6%)を大きく上回っていました。「1 人旅」意向者とは対照的に、1 人時間の増加で人との交流機会を失ったという負の側面も感じており、それを取り戻すために、親しい人と旅行に行きたいという意識が高まっていると推察できます。
旅行の情報は「すぐ活用」より「いつかのためにストック」
今後 1 年以内に旅行に行きたいと考えている多くの人たちは、どのように情報を得ているのでしょうか?
今後 1 年間の国内旅行と海外旅行の意向者を対象に調査したところ、旅行の情報としては「詳しいテキスト情報」を好む人の割合以上に「直感的に見れる画像」を好む人が多いことがわかりました。
しかし、半数はどちらか一方ではなくどちらも大切と回答しており、さらには画像派とテキスト派の割合は年代別にそこまで大きな差がないことも見てとれます。
また、そうした旅行のアイデアは「すぐに活用する(人に共有する、旅行の予定を立てる)」よりも「(いつか)旅行するときのためにストックしておく」ことがわかりました。
定性調査でも「(SNS で流れてきた情報を)すぐ行く予定がなくても行きたい願望で、夜寝られないときにずっと見てしまう。自分で妄想していいなと思ったものを保存する」(30 代 女性)、「旅行の予定が決まっていない状態で、インスタとかでお勧めに出てきてめちゃくちゃいいキレイな景色だったり面白い建造物があったらどこだろうって調べたり、ブックマークする」(20 代 女性)といったコメントがありました。
SNS などで魅力的な旅先や宿などの画像を見つけると、いつか旅行に行くことを思いながら、とりあえず保存しておくといった行動が多いようです。
また、「旅行のアイデアを得るために参考にする情報源」としては、「ネット検索」「地上波のテレビ番組」「旅行予約サイト」が上位に挙がりました。
これを年代別に見ると「18 歳 〜 24 歳」「25 歳 〜 34 歳」では、「SNS」や「YouTube の動画」「オンラインマップ」が全体平均を上回っており、とくに若年層において、直感的にわかりやすいビジュアル情報を求めてこれらのツールを活用していることがわかります。
さらに、今後増加が見込まれる「1 人旅」「友人・知人との旅行」の意向者に着目して、参考にする情報源を分析しました。
「1人旅」意向者は、「ネット検索」に加えて「YouTube の動画」や「オンラインマップ」が平均よりも多い傾向にありました。1 人旅だから意思決定がシンプルで、軽い気持ちで調べ始めたとしてもついつい深堀りしてしまう、といった姿が想像できます。
定性調査でも、「旅行の行き先が決まってから YouTube で旅先にまつわる Vlog を見ている」(20 代 女性)、「ある程度目的地が決まった後は Google マップで導線を確認する。どう行ったら効率的か、どういう順で店を回るとかを決める」(20 代 男性)などのコメントがあがっていました。
一方で「友人・知人との旅行」意向者は、「家族・友人・知人からのクチコミ」と「SNS」が、全体を上回っていました。
定性調査でも「一緒に旅行に行く仲間から LINE で SNS の情報を共有される。『最近 SNS で見たここがすごくて、客室に風呂もついていて見晴らしがすごいところがあるんだよね』とか」(20 代 男性)といったコメントがあり、人に共有しやすい SNS 情報を活用しながら、一緒に旅行をする友人や知人とアイデアを膨らませているのかもしれません。
さて、今回は旅行行動に関する調査を通じて、現在の人々の意識や行動の変化を探ってきました。行動制限が強かった時期の生活様式や時間の過ごし方が、今の行動にも少なからず影響を与えていることも見て取れました。
旅行に限らず、企業はこうした変化の大きい今の生活者の意識を捉えなければなりません。Google では引き続き、各種調査や分析を通じて、人々のインサイトを探っていきたいと考えています。
Contributor:斎藤 圭右 アナリティカルリード
2022/12/05 15:02 記事を更新。初出時、 本文に誤字があったため、修正しました。