生活者の購買行動に新たな変化
いま、生活者の買い物行動はデジタル化によって大きく変化しています。かつては買い物をするために店舗に出向いていた生活者が、現在では自宅内はもとより、電車の中、会社や学校、さらには病院にいる時でさえ、その場で商品を購入するという行動を取ることが可能になっています。このことは、かつてコンビニの登場により、買い物をする「時間的制限(=いつでも)」から開放されたことに匹敵する、買い物をする「場所の自由(=どこからでも)」の獲得という画期的な変化です。
一方、特に都会で暮らしている場合、商品を購入できる実店舗がきわめて多いため、あえて消費財をネットで買うという行動は、他国に比べてどの程度必然性があるのかという疑問も生じます。
そこで、消費財をインターネットで購入するという行動が、現在どの程度日本人に広まっているのかを把握するため、インテージ社の SCI (全国消費者パネル調査)データを確認しました。
2012年 - 2018年 100 人当たり EC 利用金額の推移(消費財)
上記のチャートからわかるように、日本では、消費財もインターネットで購入するという行動が金額ベースでも年々増加しています。ここで注目すべきは、意識的であれ無意識的であれ、多くの人が「ネットか店舗か」ではなく、「ネットも店舗も」と購買チャネルを併用している点です (下記参照)。
EC・店舗 併用状況(消費財)
この動きはどこから始まったのでしょうか?もちろん大きな要因は、スマートフォンの普及により、EC の垣根が一気に下がったことでしょう。今回の調査でも、多くのカテゴリーで、特に女性において「スマホで買う」という回答は「パソコンで買う」という回答より高くなっています。しかしこのような行動は、情報リテラシーの高い若い世代に限定された傾向である可能性があります。
性年代別 EC 利用率
そこで、年代別のネットショッピング利用を確認した上のグラフを参照してみます。この数字からわかるように、特に一般消費財においては年代による差異は見られません。女性 60 代でも、すでに 約 6 割以上がネットショッピングに親しんでいることがわかります。
「集中」から「分散」の流れに
買い物行動のオンラインとオフラインのハイブリッド化は、生活者が商品を選ぶ行動に何らかの影響を与えるのでしょうか? もし変化があるとしたら、いったいどのようなものなのでしょう?
この変化のメカニズムを理解することは、今後のマーケティング コミュニケーションを考える上で非常に重要です。たとえばこれまで、商品やサービスの購入にあたっては、一般的に「認知し、関心を持ち、欲しくなり、買う」というプロセスを経過すると認識されてきました。なかでも、事前の認知が極めて重視されました。人は知らない商品を買うはずがないとされてきたからです。このため、認知獲得の目的で多くの広告予算が投下されました。
ところが、消費財までもがオンラインで購入されるようになると、この「認知し、関心を持ち、欲しくなり、買う」というプロセスを経ていないと推察されるデータが複数確認できたのです。
TOP20 の SKU 金額シェア(100 人あたり金額)
たとえば、あるカテゴリーにおいて、大規模な広告予算を投下して高い認知率を誇るブランドの売上比率が逓減する傾向が認められました。つまりある特定のカテゴリーにおいて4−5ブランドに「集中」していた購入候補が、それ以外のブランドも購入候補になる「分散」状態に変化しつつあったのです。もちろん、まだ兆しであって、全ての人々の意識や行動が変わってきているわけではありませんし、認知に意味が無いというわけではありません。ただ、それだけでは説明できない消費行動が今、生まれてきているということです。
人はそのとき、何によって購買意欲を刺激され、購買商品を決定するのでしょうか。それを知ることは、今後のマーケティング コミュニケーション設計にとって非常に大切なポイントになってきます。
次回の記事では、大規模定量調査と自宅訪問・買物観察調査の結果をもとに、このメカニズムを紐解いていきます。