人々のマイクロモーメントを見極めるには、データをもとにユーザーのシグナルを捉えることが大切です。例えば、検索動向を、一日を時間帯別に区切って詳細に分析することでも、ユーザーの動向が変化することがわかります。このパターンを見極めることで、実際の成果につなげた事例を見ながら、その重要性を考えてみましょう
私たちの生活にスマートフォンが欠かせない今、「いつでも」「どこでも」オンラインで必要な情報にアクセスすることが当たり前となりました。朝の通勤時、同僚とのランチ、午後の打ち合わせに向かいながら、そして夜のリラックスタイムなど。日常の様々なシーンでスマホを片手に必要な情報に接する人々の姿があります。
この傾向は、検索ボリュームの時間帯別推移1を見ても明らかです。下のグラフは、平均的な1日の旅行関連キーワード検索ボリュームの時間帯ごとのデータです。午前1時台-6時台を除いて1日中検索が行われており、いずれの時間帯でもモバイルからの検索数がPCを大きく上回っています。特に、ランチタイムおよび20時台から22時台にかけての時間帯に、モバイルの検索ボリュームが急激に増えるという特徴も見て取れます。
検索に関するこのような動きは、生活者の実際の行動パターンにも結びついています。
業界やカテゴリを問わず、1日の時間帯別のコンバージョン数は、朝6時頃から緩やかに上昇し、21時から22時にかけてピークを迎える傾向があります。企業のモバイル対応が急速に進んだ昨年から、この傾向が顕著になってきました。夜、自宅にいるときにスマホで検索し、そのまま購入や予約に踏み込むという、コンバージョンにつながりやすい環境が整ってきたようです。
では、夜に生じる「調べたい・検討したい」という生活者のマイクロモーメントは、ビジネスにどのような価値をもたらすのでしょう?大手旅行代理店のH.I.S.の取り組みを見てみましょう。
■ H.I.S.
時間帯別インサイトを活かしてパフォーマンスを向上
H.I.S.の時間帯別コンバージョンのデータをGoogleアナリティクスで抽出したところ、夜にかけて緩やかにコンバージョン数が増える傾向がわかりました。
さらに分析を進めるため、AdWordsの時間帯別レポートを確認したところ、コンバージョンが増える時間帯にすでに設定予算が上限に達しており、広告を表示できる可能性があったにも関わらず、せっかくの機会を逃してしまっていると判明したのです。
下のグラフは、グレーの線がGoogleの検索ネットワーク内で実際に広告が表示された回数(インプレッション数)、青線は予算不足のため検索ネットワークに広告が表示されなかった回数(インプレッション機会の逸失数)を示しています。20時台以降から青線の傾きが急激に大きくなっていることがわかります(赤で囲んだ箇所)。
H.I.S.はこの分析に基づき、夜の時間帯での効果最大化を狙う対策を実施しました。具体的には、AdWordsのキャンペーンの推奨予算を用いて時間帯別の推奨予算を使用し、さらに予算の共有機能を活用して投資収益率の高いキャンペーンに注力することで、予算のロスを軽減できたのです。
機会ロス対策の前後で比較すると、広告表示回数は86%、コンバージョンは123%増加、ROASは自動入札の活用により目標内で収めることができました。(H.I.S.関東WEB事業部WEB事業推進グループWEB企画チームチームリーダー砂山氏)
このインサイトをもとに、H.I.S.は、日中は店舗網の強みを最大化すべく、ローカルエクステンションやコールエクステンションを活用して店舗に誘導する試みを開始。さらに、モバイルサイト・アプリのUIを改善することで、夜の時間帯のオンラインチャネルにおけるコンバージョンをより増やす仕掛けづくりに取り組み、一日を通じて最適な形でユーザーのマイクロモーメントを捉える事を目指しています。
この例からもわかるように、ある1日の時間帯ごとの検索の量と質に着目し、それぞれの時間帯において生活者は何を求めているのか、具体的なマイクロモーメントを明確なイメージで描き出す。その上で、見極めたチャンスをどう最終的な購買決定まで結びつけるのか。緻密なデータ分析と、独自の発想による強みを活かした戦略策定がいよいよ重要になってきました。