「在留外国人の多くは日本語を話せる」は本当? ――。そんな “ 常識 ” に対し、当社ソフトバンクが展開する「LINEMO」では調査を実施し、母国語による在留外国人向けのマーケティングに可能性を見出しました。
LINEMO は 2021 年に、店舗を持たないオンライン専用の格安キャリアとしてサービスを開始しました。オンラインで申し込みまで完結するため従来は、Web サイト上での登録に慣れた若年層が主な顧客でした。しかし昨今の競合キャリア増加に伴い、当社としては顧客層の拡大を図りながら、新規契約数の増加につなげる必要性が高まっていました。
在留外国人向けのマーケティングに可能性
顧客層の拡大を模索する中で、浮かび上がってきたのが外国人顧客の存在でした。特に LINEMO では、3 カ月以上の長期滞在を目的に来日する「長期滞在外国人」、すでに日本に長期滞在している「在留外国人」に注力しました。
従来 LINEMO では外国語でのマーケティング戦略がなかったにもかかわらず、一定数のニーズがあったことにヒントを得たのですが、とはいえ具体的な施策レベルでは検討できていませんでした。
そんな中で、Google の担当者とマーケティング施策を相談し、まずは市場調査を実施することに決めました。
調査前の時点では、仮説を立てることも難しい状態でした。そこで調査を通じて、実際に外国人顧客が持続可能なビジネス機会となり得るのかどうか、定量、定性の両面から手がかりを得たいと考えていました。
定量・定性の両面から、顧客のリアルに迫る
今回の市場調査を担当したのは、Google 社内で海外進出やその事業拡大をサポートする International Growth Team です。
まずは定量調査を実施。長期滞在外国人と在留外国人を対象に、「顧客となり得る人々は、どの国からどういった目的で日本に引っ越すのか?」を確認するのが狙いです。
日本国内での外国語での検索トレンドを確認すると共に、5 カ国語で約 20 種類のサーベイを実施しました。
この調査で難しかったのは、日本在住の場合、ログデータからユーザーの国籍は特定できないということです。そうなると、国籍ごとのニーズやインサイトを理解できません。そこで私たちは、検索ワードから国籍を推定しようと試みました。たとえばベトナムの正月「テト」や中国の「春節連歓晩会」など、その国籍の人が特に関心を持つであろうキーワードやトピックへの動きを手掛かりに、国籍を推定したのです。
次に定性調査では、LINEMO の広告クリエイティブについて検証しました。活用したのは、AI による Google の定性調査ツール「Voyager」です。
Voyager は、130 以上の国の約 4,600 のリサーチパネルを通じて 3 億人以上を対象に調査ができます。大きな特徴が、AI による高度な音声認識と回答結果の分析です。音声での回答によりテキスト以上に細かい文化的なニュアンスまで把握できる上、それらのデータを実用的なインサイトに展開します。これを使うことで「LINEMO を選んだ理由」や「LINEMO の動画の何が効果的だったのか」「どのようなメッセージが生活者に響いたのか」などを細かく理解できました。
従来とは異なるであろうインサイトをしっかりと把握することで、施策を成功に導こうと考えたのです。
母国語でのコミュニケーションの重要性
これらの調査からは、非常に多くの示唆を得ることができました。
まず定量調査では、対象者のデモグラフィックや興味関心、交通手段や Wi-Fi の利用状況といった生活状態を確認できましたが、それは私たちの予想とは大きく異なっていました。
調査前は、「在留外国人の多くは日本語を話せる」ものだと想像していましたが、調査からは異なる実態が見えてきました。ベトナム、韓国、フィリピン、漢字文化圏の人々は、日本においても母国語での情報やサービスを求めていたのです。
また定性調査では、広告クリエイティブにおいてメリットだと感じる訴求ポイントが、国によって異なることも判明しました。
たとえば今回の調査では、ベトナム国籍の人にとって「クレジットカードなしで登録できる」が大きなメリットだった一方、「申し込みから最短 2 日で利用可能」は特にメリットではありませんでした。
クリエイティブを多言語で展開、AI ツールの活用で効率化
調査で得られた示唆を踏まえて、広告での訴求ポイントも変更しました。
従来は英語のみだった外国語での広告展開に複数の言語を加え、広告はもちろん、ランディングページなどの細部まで翻訳することにしました。複数言語での展開にはコストがかかりますが、前述の調査で外国人顧客のニーズを深く把握できたこと、そして実際に配信した広告のコンバージョンも高かったことが、この意思決定につながりました。
また広告クリエイティブやランディングページを翻訳する際にも、AI ツールを活用して効率化しました。たとえば Google 広告の「ボイスオーバー」を活用することで、動画に現地の言語によるボイスオーバー(ナレーション)を追加。また Google 広告を複数言語に翻訳する際には、Google のテクノロジーと翻訳者による品質チェックを組み合わせた「キャンペーン翻訳ツール」を活用して広告をローカライズしました。
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これら一連の広告施策については社内で「現地か国内、どちらで実施するべきか」という議論もありましたが、多くの人が「訪日前に、すでに携帯キャリアを決めている」という調査結果を踏まえ、最終的には国内外の両方で展開することに決めました。
契約者数の増加率は、日本人をはるかに上回る
このような未開拓市場の掘り起こしによって、新規契約者数は大幅に増加し、今回の施策は事業成長にも大きく貢献しました。
たった数カ月の取り組みで、契約者数の成長率は日本人顧客を大きく上回り、Google 広告の顧客獲得単価(CPA)は 6 カ月間で 25% 減少しました。
また今回の一連の施策を通じて、広告担当の部門だけでなく、キャンペーンや Web サイトの担当者とも、在留外国人や長期滞在外国人顧客のインサイトを中心に認識をすり合わせることができました。施策の方向性について、部門を超えて目線合わせをしながら、それぞれの持つ視点を活かしたアクション改善ができたと思います。
また、Google の多様なマーケティング手法や広告製品により、未検証のまま可能性を取り逃がさず、スピーディーかつ効率的に潜在顧客層を発掘できたことも、私たちにとって大きな価値となりました。
現在は、さらに深くニーズを理解すべき段階にあります。年々増加する日本への移住者のインサイトを細やかに捉えるため、新規入国者と日本在留者のそれぞれに対し、どのようにリーチできるかを日々検討しています。今後も Google とのコラボレーションをうまく活用し、LINEMO のさらなる事業成長や市場拡大を実現していきたいと考えています。
Contributor:澤村 萌(広告営業 テレコム業界担当)/ 高 原(インタナショナルグロースコンサルタント)