いま世界中で働き方に大きな変化が起きています。希望するしないにかかわらず、一部の業種ではテレワークが始まりました。
4 月最終週に実施した調査(*1)によって、日本でいち早くテレワークに移行したのは、地域別でいうと東京で、規模別では大企業、役職別では中間管理職ということがわかりました。一方、一部の地域や中小企業、現場の事務職などでは、テレワーク化が低い傾向です。その大きな要因として、業務プロセスのペーパーレス化がまだ十分ではないことが挙げられます。また、たとえペーパーレス化が進んでいても、機密性の高い情報を取り扱う端末は「持ち出し禁止」がほとんど。そのため、結局は物理的に出社しなければ仕事になりません。
このように、テレワークに移行できない事務職は、管理職ではない社員の現場業務によります。その結果、テレワーク化は管理職でより進み、そうではない社員は比較的遅れるという現象が起きているのです。
今回の調査で最も注目すべき点は、テレワークを「できることなら続けたい」と考える人が、現テレワーク従事者数の約半分(49%)いることです。これは「続けたくない」と考える人(23%)を大きく上回ります。
新型コロナウイルス 感染拡大の懸念が収まった後のテレワーク継続意向
インテージ社自主企画調査より推計した有職者母集団に合わせ、エリアと性年代でウェイトバック集計
これはなぜなのでしょうか?
今回はその理由を探るため、今テレワークをしている人たちが、形としては自らの意思ではなく、新型コロナウイルスによって突然始まったとはいえ、この新しい働き方に対してどのように思っているのか、またテレワークという働き方がもたらす価値とは何なのかに焦点をあてます。「できることなら今後もテレワークを続けたい」と考える人の特徴を調査データから捉えて、その背景について考えていきましょう。
テレワーク経験が 1 カ月を超えると、継続意向が強まる
長くテレワークを続けている人ほど、テレワークの継続意向が強いという結果が出ています。
テレワーク開始時期別 継続意向
4 月 7 日 に発令された 7 都府県の緊急事態宣言によって、急遽テレワークが始まった人は多く、当初はかなり混乱があったことが推察されます。しっかりした準備や研修ができないままテレワーク化となったため、ビデオ通話ツールの使い方がわからない、自宅のインターネット回線が遅い、などのトラブルが多発したようです。当初のビデオ会議の半分の時間は参加者間の応答確認だった、という話も聞かれました。
一方、緊急事態宣言以前にテレワーク開始を判断した企業もありました。そういった企業に勤めている人々は、調査実施のタイミングですでに 1 カ月以上テレワークを継続していたことになり、自分なりにテレワークをうまく活かせる工夫をしているようです。
実際に継続意向が強い人の調査結果をみると、「こまめに休憩をとる」や「生活のスケジュールを変えない」など、生産性を上げる上で自分に適した時間の使い方をしているのが分かります。また、工夫している数も継続したくない人と比較して多いです。慣れた人に話を聞くと、「ビデオ会議の最初にちょっとした雑談をする」「ビデオ会議にメンバーが入ってきたら、必ずその人の名前を呼んでから挨拶をする」など、オンラインでも業務が円滑に進むようなコミュニケーション方法を生み出しています。こういった工夫を増やすことで、テレワークも順調に機能していき、新型コロナウイルスの影響とは関係なく継続意向が強くなっているのでしょう。
つまりテレワーク化は、時間の経過(経験)とともに、働きやすさも向上すると言えます。
テレワークをしている時に工夫していること
「テレワークでノー満員電車」が日本の生産性を上げる
東京に勤務している人がテレワークを継続したいという意向の強さは顕著です。その理由は「通勤のストレスが消える」という点につきるようです。テレワークをする前までは、当然のことと思っていた満員電車での通勤。これがいかにストレスであったか、そしてそれがなくなることで、仕事の生産性と生活の質が上がったことに気づいた人が多くいるということです。東京 50 km 圏内在住者オフィスワーカーの平均片道通勤時間は 50 分であり、片道 1 時間を超える通勤をしている人も 35% 程度いるとされています(*2) 。しかも、世界的にみても、珍しいほどの満員電車。ラッシュの混雑がいかに日本の生産性を弱めているか、これに人々は実感を持ったということでしょう。
勤務地別 テレワーク継続意向
テレワークは未就学児がいる人にとってメリットが大きい
小さい子供、特に未就学児がいると、家では仕事に集中できず、テレワークの継続を望まないのでは、と考える人も多いかもしれませんが、結果は逆でした。未就学児がいる人こそ、テレワーク継続意向が強いのです。
しかしこれは、今までの通勤と子育ての両立がいかに大変だったかを暗に示した結果とも考えられます。未就学児を抱える人からは「そのとおり!」という声が聞こえてきそうです。
子供の相手をしつつ朝の準備を進め、大量の荷物と共に保育園へ連れていき、寂しがる子供に後ろ髪を引かれる思いで出社。オフィスに到着する頃には、エネルギーのほとんどがなくなってしまう人もいるのではないでしょうか。また出社できても、常に離れている子供のことを気にかけながら仕事をする──小さい子供がいる人にとって、今まではこれが代表的な働き方でした。
以下の表を見ると、未就学児や小学生の子供が自宅にいながらのテレワークは、多少の不都合はあるものの、総合的にメリットが大きいと感じる人が多いようです。通勤のストレスはないし、保育園からのお迎えコールを気にかけずに済む。子供が体調不良でもそばにいてあげられることは、親にとって非常にうれしい働き方なのです。
同居続柄別 テレワーク継続意向
これまでにも、子供が体調不良の場合はテレワークをしていた、という人もいると思います。働き方としては好都合ですが、少し後ろめたい気持ちがあったのではないでしょうか。
今は子供がいる・いないにかかわらず、社員のほぼ全員がテレワークをしています。これは「自分だけが子育てのために違う働き方をしている」という意識をもたなくて済む環境です。これこそが、子育て中の人のサイコロジカル・セーフティ(心理的安全性)を保証していると言えるでしょう。
「テレワークを続けたい」のは外回り営業よりもデスクワークの人が多い
普段デスクワークをしている人がテレワークを継続させたいという数値は、全体の 52% と高めでした。これは誰もが納得の結果でしょう。反対に、営業や販売の外回りをしていた人は 41% に留まります。これらの人たちにとっては、リアルなコミュニケーションを「密」にとることが成果につながる経験もあるため、テレワーク化により、今までの仕事の仕方や姿勢を大きく変化させる必要が出てきます。より慎重な姿勢にならざるを得ないでしょう。これは、「どちらともいえない」と判断ができない人の率はあまり変わらないのに、「テレワークを続けたくない」としている率が、外回りをしている人で高いことからもより強く推察できます。
仕事内容別 テレワーク継続意向
しかし「オンライン商談」や「オンライン飲み」など、新たなコミュニケーションも生まれ、営業のやり方も変わってきているようです。外回りの営業職であっても、新しい方法を取り入れることにより、テレワークを継続したいという人たちが少なからずいるという点にも注目です。
派遣・契約社員は「続けたくない」
テレワークの継続意向は 30 - 39 歳でもっとも高くなり、ベテランになるにしたがって低くなる傾向が出ました。また、30 - 39 歳は「やや続けたい」ではなく、明確に「続けたい」と考えている人が多いことも、特徴としてあげられます。
年代別 テレワーク継続意向
これまでの仕事の仕方を変えることに抵抗を感じるベテランと、そうではない若手。この2つの違いが如実に現れた結果だと言えます。ただしこの差が、役職によるものではないことが、次の表の結果でわかります。これは日本の企業も年功序列から脱し、役職と年齢にそれほど強い関連がなくなっているためだと考えられます。
逆に、派遣・契約社員はテレワークを継続したくないという意向がやや強いことが見てとれます。これは雇用の不安定さからくる結果だと推測されます。テレワークは会社からの安定的な雇用の保障があってこそ、と言えるのかもしれません。
役職別 テレワーク継続意向
当事者性、相互性、順応性——テレワーク継続の 3 つのポイント
今、テレワークに関して、世間ではさまざまな意見が聞かれます。そしてその意見は時に同じ人の中でも、矛盾していることもあるようです。例えば、「子供がいるとテレワークは難しい」という意見と「子供がいるからテレワークをしたい」という意見、「外回り営業はテレワークができない」という意見と「オンラインでもオフラインでも商談の成果はあまり変わらない」といった意見などです。
今回の調査結果を丁寧に読み解くと、なぜこういうことが起きているのかがわかります。未就学児がいると家での仕事はしづらいと思っていたが、それでも会社で仕事するよりは目の届くところに子供がいたほうがいいことに気づく。また外回りの営業については、今までと同じスタイルで営業活動するのは難しいものの、新しいスタイルの営業方法があることに気づく、ということなのでしょう。そしてそういったことに気づいた人から、テレワークの継続意向は強くなります。
今回、多くの人々がこのような気づきを得た理由は 3 つあると思います。
1 つ目は「当事者性」です。今回コロナウイルスの拡大によって、多くの人が各自の事情とは関係なくテレワークの当事者になりました。これは、例えば「子供が熱を出しているから今日はテレワークにする」といった個人の事情によって当事者になった場合とは、大きな違いがあるのです。つまり周りが全員当事者であるため、これまでのテレワークにつきまとってきた「感じる必要のない申し訳なさ」が、今回はないということです。
2 つ目は「相互性」。今回始まったテレワークは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことが目的だったため、自分の仕事相手もテレワークであることが多かったでしょう。そのため、テレワークで仕事をすることに共感がもたらされ、多少の不都合にはお互い目をつぶり、乗り切ろうという感情が発生しました。
そして 3 つ目は「順応性」です。多くの人は、今回ひと月以上の期間をテレワークで過ごしています。自宅でのネットワーク環境整備やビデオ会議のやり方、あるいは自宅でのランチをどうするのかなど、テレワークを始めた当初は戸惑いの連続だったと思います。しかしながらそれも、1 カ月を超えてくると徐々に順応し、そこに自分なりの工夫も加わり、「快適に」とまでは言わないまでも、それぞれに合わせた形で仕事に集中できる環境を作り始めているようです。
これら 3 つの理由によって、多くの人たちが、新型コロナウイルスの影響が少なくなってきた今でも、テレワークを継続したいと考えるようになっているのでしょう。
次回は今、テレワークが人々のワークライフバランスに関する意識をどのように変えているのかに着目し、考察していきたいと思います。
Contributor:
アナリティカル コンサルタント 中島 美月