テレワークが外出自粛による一時的なものだったのかどうか──。2020 年 4 月の新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言は、結果として多くの人がテレワークを試す機会となりました。そんなテレワークが、人々にどのような気づきを与え、暮らしをどう変えたのかを過去 4 回にわたってまとめてきました。そしてテレワークが外出自粛による一時的なものだったのか、それとも人々のその後の意識や行動にも影響を与えたのかを確認するため、Google は 7 月初旬から中旬に追跡調査(*1)を実施。前回調査の回答者 3000 人のうち、テレワーク経験者の中から、約 2000 人が回答しました。
5 月末に緊急事態宣言が解除され、その後、各地で感染がまた少しずつ増え始めていた7月調査時点までの約 1 カ月間における働き方や心境の変化について聞いています。連載最終回の今回は、この追跡調査の結果を踏まえて、これからの働き方について考えます。
7 月時点でも 56% がテレワークを継続
前回の調査では、テレワークを取り入れたオフィスワーカー(固定のオフィスを拠点にしてデスクワークや外出をする内勤職や営業職など)のうち 49.3% が、感染拡大の懸念が収まった後も「テレワークを続けたい」と回答していました。もちろん感染リスクの軽減が大きな理由ですが、その他にも、テレワークを始めたことで長時間の通勤や満員電車での移動、形式的な会議や“気遣い残業”などが知らず知らず生産性を下げていたと気づいたことも、理由に挙がっていました。そうして捻出できた時間を家族との時間や余暇の充実に使えることも、継続意向につながっていたことがわかりました。
その後、実際に 7 月の時点では、どの程度の人がテレワークを続けていたのでしょうか。今回の調査によると、56% の人が、何らかの形でテレワークを続けていることがわかりました。
テレワークの「継続を希望しない」は 15% にとどまる
ここからは「7 月時点でもテレワークを継続していたか」「今後もテレワークの継続を希望しているか」で、調査回答者を下図 A 〜 Dの 4 つに分類して、今後のテレワークのあり方を考えます。
まず、テレワークの継続を希望している人(A + C)は今回の追跡調査対象の 64% です。つまり、一度テレワークを経験した人は、調査時点で実際にテレワークをしているかどうかにかかわらず、その継続意向が強いと言えます。これは 4 月調査時の 49% を大きく上回る数値です。
特に、テレワーク継続を希望していて実際にもテレワークを続けている、会社の方針と働き方の意向が合致している人たち(A)は、勤務状況についての総合的満足度が、その他のグループと比べて高いことがわかりました。注目すべきは、A と同様に「会社と意見が合致している、テレワークを継続していない」人たち(D)と比較しても、その満足度が有意に高い点です。これはテレワークで得られるメリットの大きさを表しているのではないでしょうか。
現在の勤務状況についての総合的満足度
続いて、テレワーク継続を希望していたが会社の方針で継続できなかった人たち(C)を見てみましょう。当然かもしれませんが、このグループは業務環境や会社の対応に不満を感じる割合が高くなっています。これは「現在の勤務先で働くことに誇りをもっている」という項目の割合が、このグループで特に低くなっていることからもわかります。
設問項目 「現在の勤め先で働くことに誇りをもっている」
そして会社の方針如何にかかわらず、オフィスワーカー自身が「テレワークの継続を希望しない」割合(B + D)は 15% と少数派です。
その少数派の多くは、自宅では机や椅子、PC 周辺機器の設備が充実していないと回答しています。また、仕事とプライベートの切り替えの難しさや、自宅で仕事をすることに家族の理解を得ることの難しさなども、理由の上位に挙がっており、これらは会社や周囲のサポートにより改善できる点と言えるでしょう。
一方で、もちろん対面でのコミュニケーションを重要視する業種や職種もあります。会社も自身もテレワークを継続しないという方向で意見が合致している人たち(D)の職種を見ると、営業や販売など、直接人と触れ合う職種が多い傾向です。オンラインで業務が成立する場合でも、長年培ってきた仕事の方法とテレワークとの折り合いをつけるのが難しかったり、対面の方がより効果的に仕事を進められたりといった事情もあるのかもしれません。
業種でみると、「土木・建築・不動産・建物サービス」や「運輸・倉庫・物流」「金融・保険業」で働く人たちの割合が高くなっています。
自身がオフィスワーク中心でも、その企業で働く人の過半数が、いわゆる現場を担当しており、現地に行かなければ仕事を進められなかったり、機密性が高い情報を扱う業務が多くて、オフィスに行かないと必要な情報にアクセスできなかったりというケースも、テレワークとの相性はあまりよくないようです。
テレワークかオフィス勤務かの 2 択ではない
ここで注目してほしいデータがあります。今回の追跡調査対象の人たちに「働き方を選べるとしたら、どのような働き方をしたいか」を聞きました。
働き方を選べるとしたら、どのような働き方をしたいか
全体を見ると「週 2 〜 3 日はテレワークしたい」という人が 34% と最も多いですが、現在テレワーク継続中でありながらもオフィス勤務に戻りたいと考えている人(B)であっても、テレワークを選ぶ回答がゼロではなく、むしろ 72% の人が何らかの形でテレワークできる自由さがほしいと考えているのです。
つまり、毎日テレワークだと仕事に支障が出てしまうが、働き方を以前のように完全に戻して、毎日オフィスワークを望んでいるわけではないということです。
今回のように A 〜 D の 4 つのグループに分けて、今後テレワークはどうあるべきかを考えてみると、選択肢はテレワークなのかオフィス勤務かの二者択一ではないことがわかってきました。また、多くの人がさまざまな業種や事情の中でテレワークを経験した結果、テレワークという新しい働き方に対しては、多くの人がポジティブであることも確かなようです。
一方で、大多数がテレワークに前向きではあるものの、すべての業務をテレワークにすべきではないと思っている、ということも見えてきます。大切なのは、働き方の 1 つの選択肢としてテレワークがあること、そしてテレワークするかしないか、どの程度テレワークにするかは企業と個人双方で決められるようにすること、それが可能な環境を社会として整備していくことなのです。
テレワーク経験者は暮らしの意識にも変化
このままテレワークが長期化すれば、同時に労働環境=住環境をより快適にしようとする動きも高まるでしょう。通勤しやすさで選んだ今の自宅が、実は住みやすさや働きやすさの観点では快適ではなかったと気づくかもしれません。調査でも「自分の生活の在り方を見直したいと思うようになった」「住空間の快適さを改善したいと思った」「海や山など自然に近いところに住むのもいいと思った」「もう少し広い家に住みたい、住み替えたいと思うようになった」など全体的に住環境に関連した回答が目立ちました。テレワークを継続した人では、よりその傾向が強いことからも、今後、引っ越しや海や山の近くへの移住などが、人々のライフプランの有力な選択肢になっていくかもしれません。
働き方の変化を経験したことによって生じた、プライベートでの現在の気持ち 上位 10 項目
前回の記事では、ワークライフバランスを「仕事と暮らしを調和させることで、人々の幸福度を上げていくその仕組み」であるとしました。観光地やリゾート地で休暇を取りながら、テレワークをする働き方である「ワーケーション」という言葉の浸透は、その象徴と言えます。
このような傾向から、特に BtoC のビジネスを展開している企業が忘れてはならない視点があります。それは、今働き方の変化を経験している人たちは、同時に自分たちのビジネスの顧客でもあるということです。顧客は、新しい働き方や暮らし方を見つけようと模索している段階にあります。暮らし方の変化とともに、否応なく、これまで選んでいた製品や足を運んでいたお店などすべての"当たり前”を見直すことになるでしょう。こうした動きは、今後の商品やサービス展開、そしてマーケティング施策を考える上で考慮すべき重要な変化ではないでしょうか。
テレワーク化は、いち早く取り入れたほうがいい
ここまで 5 回にわたり、テレワークは企業と個人双方のデジタルトランスフォーメーション(DX)によって獲得できる働き方の 1 つであることに言及してきました。決して、感染症の拡大を防止するためだけの一時避難的な取り組みではないのです。そして、テレワークそのものにも、多様性があることがわかってもらえたでしょうか。
社会のデジタル化が進む限り、テレワークは働き方の基礎として存在し続けることになるでしょう。今後、企業はこれまでのように全社員がオフィスで働くことを前提にした組織やシステムづくりではなく、個々人に対し、より柔軟な働き方があることを前提にして、さまざまなアップデートをしていかなければいけません。実際、今回の調査でもテレワークの継続を希望しない人が抱える問題の多くは、仕事をする場所の選択肢が自宅のみだった点にありました。
業務のクラウド化、モバイル化などの DX は、すでにさまざまな企業で進みつつあり、Google でも「G Suite」を通して企業のサポートをしています。また帯域保証型のインターネット回線や 5G などの次世代モバイルネットワークを組み合わせることで、安全かつ通信速度を保証した、“どこでもオフィス“と言うべき環境を整備できるようになります。そうした環境整備と同時に、企業として既存の評価制度や業務の見直しも進めることで、本当の意味で、働く場所が「自宅」か「会社」かという二者択一から解放されるかもしれません。
そう言うと、企業側からは「負担が大きすぎる」という声があがりそうです。しかし、実は過去にも似たアップデートがありました。職場で PC が 1 人 1 台になったとき、モバイルが誕生したとき、スマホが普及したとき。それまでの当たり前が当たり前ではなくなり、ビジネス環境や働き方は変化してきました。
テレワーク化は、モバイル化の次に来ている連続的な変化です。この変化をいち早く自分のモノに、あるいは企業のモノにしたほうがいいことをお伝えして、この連載を締めたいと思います。
Contributor:
アナリティカル コンサルタント 中島 美月