5 月 25 日に緊急事態宣言が全国的に解除され、これまでテレワークをしていた人が出社することも増えてきました。
テレワーク継続に対する方針は、「当面はテレワークを継続」「段階的にオフィス勤務を解禁」「職種によって対応を変える」など、企業によって異なるようです。そもそも緊急事態宣言から解除までの期間、テレワークを実施しなかった企業もありました。
では、テレワークに移行した働き方は、どの程度元に戻っているのでしょうか? そんな疑問に対して 1 つの解になりそうなのが、厚生労働省が発表した「新しい生活様式」(*1) です。新型コロナウイルスを想定し、日常生活の中で取り入れてほしい実施例を挙げています。その中の「働き方の新しいスタイル」では、テレワークやローテーション勤務といった働き方、また会議や名刺交換などのオンライン化を推奨しています。
こうした国の発表を考えると、たとえ新型コロナウイルスの拡大以前の働き方に戻った企業であっても、その企業の顧客や取引先などでは、テレワーク化が進んでいる可能性も高いのではないでしょうか。そして相手企業に会議のやり方などを合わせていった結果、部分的にでもテレワークを導入する必要が出てくるでしょう。
Google が 2020 年 4 月の最終週に実施した調査(*2) では、2020 年 1 月以降にテレワークを始めたオフィスワーカー(固定のオフィスを拠点にしてデスクワークや外出をする内勤職や営業職など)のうち、今後もテレワークを続けたい人は 49%、続けたくない人が 23%となりました。その中でも特徴的なのが、「オフィス/テレワーク混合」で働いている人よりも「完全テレワーク(毎日テレワーク)」で働いている人の方が、継続意向が強かった点です。
テレワーク継続意向
「中小企業でテレワーク導入ムリ」は本当か
その一方で、「テレワークが導入できるのは大企業だけで、中小企業では無理」と考える人もいるかもしれません。たしかに、今回の新型コロナウイルスの拡大によってスタートしたテレワークは、まず都心の大企業からその動きが始まったことは事実です。
しかしながらテレワーク導入率のデータを見ると、企業規模が小さいほどオフィス勤務率が高い傾向はあるものの、すべての企業規模で「オフィス/テレワーク混合」と「テレワーク勤務」を合わせた数値が高く、「オフィス勤務」のみと同等かそれ以上の導入率でした。このことから、今回は規模に関わらずテレワークを導入した企業が多かったことがわかります。
企業規模別 テレワーク導入率
企業規模別のテレワーク継続意向を見ると、企業規模にかかわらず「続けたい」「やや続けたい」が半数近くにのぼり、多くの人が今後もテレワークを継続したいと望んでいることがわかります。テレワークは企業規模にかかわらず、従業員にとって満足度が高い働き方であると言えそうです。
企業規模別 テレワーク継続意向
この結果を見ると、「テレワークを導入できるのは大企業だけで、中小企業では無理」と諦めてしまうのはもったいないのではないでしょうか。オフィス勤務と組み合わせたりすることで中小企業でもテレワークを導入できるケースは十分にありそうです。
もちろん、医療、公務員、公共交通機関や配達、販売など、エッセンシャルワークと呼ばれる職業にとって、テレワーク導入が非常に難しいのは事実です。ただこれは業態の違いであり、企業規模からくるものではないと言えます。
企業規模によって優先課題に違い
それでは、企業が今後テレワークにより円滑にシフトするために、何をすべきでしょうか? 今回テレワークを始めた人たちが企業に求めるものとして、会社のツールやシステムの拡充、業務のペーパーレス化、情報セキュリティ、自宅やモバイルでの環境整備や拡充、そしてテレワークに関わる費用の負担が上位にランクインしています。
これを企業規模別で見ると、大企業は会社のツールやシステムの拡充が強く望まれているのに対して、中規模企業ではまず業務のペーパーレス化が先決であり、小規模企業では情報セキュリティ対策がもっとも必要だと考える人が多いようです。企業規模によるテレワークへの課題の違いが見てとれます。
しかし、課題こそ異なれすべてに共通しているのは、システムの導入により解決できる可能性が高いということと、企業がいかに今後を見据えて投資をしていくかという視点が大切になるでしょう。
今後テレワークを継続するにあたり、必要だと思うこと
テレワークで生産性が下がった? カギを握るのは「経験期間」
企業としては、今後テレワークを継続もしくは導入するにあたって、生産性をどう担保するかが、非常に重要な要素になってくるのではないでしょうか。
調査結果によると、完全テレワークになった (毎日テレワークに切り替わった)人の中で 48%、つまり半数近くは、テレワークになったところで業務の生産性は変わらないと答えています。一方で、業務全般の生産性が上がったと感じている人たちの割合が 13% なのに対し、下がったと感じている人たちは 40% であり、この比較では「生産性が下がった」と感じている人のほうが多いことがわかりました。テレワークによって、かえって勤務時間が長くなったとの声もあります。しかし、この数値をどう読み取るかが重要です。
完全テレワークの人の、業務全体の生産性
これには、テレワークの「経験期間」が関連していると見られます。この調査は全国に緊急事態宣言が出た後すぐに実施されたため、回答者の多くはテレワークにまだ慣れていない時期だったと考えられます。一方で、早い時期にテレワークを開始した人たちは生産性が向上したと答えました。
多様な働き方を認める企業では、テレワークも生産性向上に寄与
テレワークによって生産性が上がったと感じている人の特徴はまず、テレワークをする上での「会社のシステムやツールの拡充」に対して要望が少ないことです。次に、多くは新型コロナウイルス拡大以前からテレワークを促進していた企業に所属していること。この 2 つの特徴から、テレワークによって生産性が上がったと感じている人たちは、新型コロナウイルスの拡大によって急にテレワークの準備を始めたのではなく、それ以前からすでに準備が整っていたと推測できます。企業が以前から従業員に対し多様な働き方を用意していた結果とも言えるでしょう。
実際に、生産性が上がったと感じている人たちが勤めている企業では、テレワーク促進以外にも、パラレルキャリアの支援、フレックス勤務、育児・介護休暇取得の促進、さらには LGBTQ に関する取り組みなど、多様な働き方を先んじて取り入れている企業でもあることが、調査結果からわかりました。
新型コロナウイルスの拡大の前から、勤務先の企業で取り組みを行っているもの
続いて、テレワークによって業務全般の生産性が上がったと感じている人と、生産性が下がったと感じている人で、日ごろの仕事に対する考え方について比較してみました。
生産性が上がったと感じている人は、「新しいことや難しい仕事にも挑戦する」「スキルアップや自己投資を怠らない」など、前向きな回答が多いことが特徴。具体的な仕事の進め方に関しては「まず計画を立ててから取り組む」「1 人で黙々とやりたい」と回答する人が、生産性が下がったと感じている人に比べて非常に多いことがわかります。また「現在の勤め先で働くことに誇りをもっている」という人も多く、所属する会社に対するロイヤルティが高いことが見えてきます。
なお、生産性が上がったと感じている人の中で、会社が行ったテレワーク対応に対して「満足」と答える人は 7 割を超えました。
仕事に対する価値観
企業が多様な働き方を提供しているから前向きで生産性が高い人たちが集まるのか、そういった人たちが多いから多様性と柔軟性がある企業になるのか──。どちらが先に来るかは、この調査では正確にはわかりません。ただし、その 2 つに明らかな相関性があることは確かです。つまり、どちらかが上がれば、もう一方も上がるということ。こうなったとき、企業と従業員の関係はとても良好なものになると言えるでしょう。
DX 成功事例としてのテレワーク導入
今、テレワークは非常に大きなインパクトを人や企業、社会全体に与えています。同時にテレワークを導入することは、人々にとっては「よりよいワークライフバランスを手に入れる機会」に、企業にとっては「従業員からのロイヤリティを高める機会」になっています。一方で今回の調査では、経営層の継続意向が他の層に比べて低く、また現場で働く人々はその継続意向に関わらず、ツールの導入や勤務形態についてさまざまな要望があることがわかりました。そのため、経営層が自分たちの感覚だけでテレワークの継続やオフィスワークへの回帰を決めてしまうと、従業員のロイヤリティ低下にもつながりかねません。
テレワークの導入に限らず、多様な働き方を認めることは、企業の生産性を上げるといわれています。なぜなら、従業員それぞれがもっとも働きやすい環境を手に入れることができれば、1 人ひとりの生産性が上がり、結果として企業全体の生産性向上につながるからです。新型コロナウイルスの影響で、テレワーク導入を積極的に行った企業の中には、今まさにそれを実感している人もいるでしょう。
ビジネス環境の激しい変化に応じて、社内を変革するのがデジタルトランスフォーメーション(DX)であると考えると、テレワークを成功させた企業は、DX の成功例の 1 つだと言ってもいいのではないでしょうか。
5 月末に全国で緊急事態宣言が解除され、休業していたショッピングモールや多くの飲食店が再開。街にたくさんの人が戻ってきているようです。Google は来る 7 月、今回の調査対象者に、再びテレワークについてやテレワークを経験した後のオフィスワークについて調査する予定です。新型コロナウイルスによって起きた変化が、どのように根づいているのか、もしくはさらにどう変わり続けているのか、はたまた元に戻っているのかを分析していきます。
Contributor:
アナリティカル コンサルタント 中島 美月