外出自粛の影響で、生活者の意識や行動にはさまざまな変化が生まれました。Google が 2020 年 4 月から 実施を続けている「生活動向に関する週次調査」によると、人々の普段の生活でも、企業活動でも、オンラインツールを積極的に利用している様子を確認できました。
これまでオンライン上では「情報検索」「SNS」くらいしか使っていなかった人たちも、オンラインの利点である「気軽さ」「時間や空間を問わずに活用できる」「隙間時間を活性化できる」といったことに気づいて積極的にオンライン利用を始めただけでなく、それが定着し始めていることも注目です。
例えば オンラインでの購買行動は、全国緊急事態宣言発令に伴い急激な増加が見られ、解除後も一定数はオンラインでの購買が定着しています。背景には感染リスクへの不安といった消極的理由もあるでしょうが、一方で「店員を気にしなくてもいい」「普段は入りづらいお店やブランドも気軽に検討できる」「買わずにお店を出ても気まずさがない」といったメリットに気づいた人も多いと考えられます。
必要に迫られてのオンライン化でしたが、結果として人々が新たなメリットに気づく機会にもつながり、新しい習慣として定着し、これからも一貫して伸び続けるものもあるでしょう。それに伴い、対面を前提としていたサービスのリモート化など、事業変革も加速すると考えられます。そこで実際にオフラインのビジネスをオンラインへ移行した、またはオンラインでの新たな需要を見出した事例を見てみましょう。
保険の対面相談をオンライン化した「保険市場」
まずは株式会社アドバンスクリエイトが運営する「保険市場」の事例です。保険市場は、全国の窓口で保険相談を提供していましたが、2020 年に入り、将来の 5G 時代の到来を見据えてオンラインによる保険相談の取り組みをスタート。その後まもなくコロナ禍により実際の面談での保険相談が困難になる中、導入していたオンライン接客を積極的に進めることで顧客のニーズに応えるとともに、デジタル広告の力で認知拡大に努めました。
外出自粛を受けて、相談から申し込みまでビデオ通話上で完結できる「オンライン保険相談」を 3 月にリリース。従来、OMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインを融合したマーケティング施策)を推進しており、「オンライン保険相談」の準備も進めていたからこそ、急激な情勢の変化にもタイムリーに対応できました。その後、認知拡大を目的に 4 月〜 5 月に YouTube 広告を配信。以前は、新規の面談による保険相談は 1 日に 200 件ほどでしたが、オンライン相談をリリース後は、1 日あたりオンラインで約 280 件、対面相談で約 20 件と、対面相談のみの時期と比較して件数は約 1.5 倍となりました。
重要なのは、オンライン相談を準備しただけではなく、その認知をデジタル広告の力で拡大したことです。YouTube 広告を始める前は、検索広告で保険相談へ誘導する施策がメインだったため、広告の 90% が「検索」、10% が「ディスプレイ リマーケティング(*1)」でしたが、今回はそれらに加えて、認知拡大のみならずコンバージョンへの貢献も期待できる YouTube 広告の「TrueView アクション」も配信。配信前と比較して、Google 検索における「保険市場」の指名検索は 1.48 倍に増加しました(*2)。オンライン保険相談のページ来訪者の約 36% が、YouTube 広告を見たと回答していることからも、動画広告の視聴を通じて保険に関する理解を深めたことがうかがえます。
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自粛後も約半数が「オンライン相談」を希望、新規顧客の発掘につながった
保険市場は全国に直営のコンサルティングプラザを 12 拠点、提携の協業店を約 660 店舗展開しており、全国ほとんどの地域をカバーしていましたが、前述の通り、5G 時代をにらんだ OMO 戦略の一環としてオンライン化を進めていました。しかしオンライン化に伴い、乗り越えなければいけない課題も多くありました。
その 1 つが対面接客をしていた営業スタッフがオンラインツールを使いこなすための教育でした。保険商品という特性上、対面でしか契約できない商品もあるため、オンラインで扱える商品かどうかの整理も必要でした。また対面では相談 1 件あたり平均 2 時間ほどかけていましたが、オンライン上での 2 時間は長く感じると考え、1 時間に短縮。当然、提案できる商品数は少なくなり、顧客単価は下がる傾向にあります。
しかしこれらを踏まえても、オンライン保険相談の「手軽さ」には大きなメリットがあることもわかりました。注目すべきは、オンライン相談の定着率です。緊急事態宣言解除後の 6 月時点でも 40 〜 50% はオンラインでの相談を希望しています。ライトな検討層からのニーズが高く、新たな顧客層の発掘につながりました。
利用者からは「移動時間も節約できて、交通費も節約できて、小さい子供がいるのでオンラインのほうがよかった」「オンラインでも、実際に面談するのと遜色ないサービスだった」などの声もありました。また担当者がオンラインでの対応に慣れるにつれて、生産性も向上し、顧客単価が低いといった当初の課題も解決されつつあります。保険市場では、今後も対面とオンラインそれぞれのメリットを生かしながら、その両方での相談サービスを継続していく予定です。
「Zoff」は一時全店休業、EC 強化で PC メガネの需要を捉える
続いては、「Zoff」のブランドでメガネの製造販売などを手がける株式会社インターメスティックの事例です。Zoff の店舗は商業施設内に多く、売り上げの中心を担っていましたが、緊急事態宣言の発令で商業施設が休業すると、Zoff も一時全店を休業せざるを得ない状況となったのです。そこで同社はこれを機に EC を強化して、変化を乗り切ろうと考えました。
保険市場と同じく、Zoff も全国緊急事態宣言前から対応は検討していました。そして在宅ワークが増えることで、コンタクトユーザーもメガネを利用する機会が増え、PC などデジタルデバイスの利用時間が増加するとともに、PC 用レンズの需要が高まると予想したのです。
そこで「Eye Performance(アイ パフォーマンス)」というブランド戦略のもと、PC メガネが在宅期間の目や身体の負担を軽減させる生活必需品であると伝えることで、EC でメガネを購入する際の障壁を払拭しようと考えました。4 月下旬から「ブルーライトカットコート無料キャンペーン」を打ち出し、EC での購入を促進。「ブルーライトカットコートの追加料金 0 円」「メガネとサングラスの 2 WAY商品」の 2 種類のメッセージを訴求しました。
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Google 広告への出稿は 4 月 29 日から 5 月 31 日までの約 1 カ月で、検索広告 、YouTube 広告(インストリーム広告、バンパー広告)、ディスプレイ広告 、ファインド広告、と全方位的に広告を配信しました。まだ店舗が閉鎖していた 5 月 15 日までの前半は、後半の 2 〜 3 倍の予算を投下してリーチ面を拡大しながら認知を広げ、後半は売上につながる獲得施策を重点的に展開しました。ブルーライトカットコートの標準搭載は業界でこれまでにない取り組みだったため、店舗とは異なる新たな顧客層での想起率向上による、EC 強化を目指しました。
EC サイトでの PC メガネの受注件数は過去最高を記録。検索経由では前年度と比較し 7 倍のコンバージョン数を獲得、コンバージョン単価は 6 分の 1 になりました。また、ブルーライトカットコートのオプション選択率が 2019 年の 10% から 2020 年は 72% へと増加。EC で購入した人の約 70% が、ブルーライトカットコートを選びました。
これまで Zoff でメガネを買ったことがない人にもリーチできた
今回のキャンペーンでは、単純な売り上げだけではなく、今後にも活かせる示唆や成果を得られました。例えば EC サイトの会員が増えたことで、そのデータを来店時にも活用し、より顧客ニーズを捉えたサービスを提供できるようになります。また 、これまで Zoff でメガネを買ったことのない新規購入層や、PC メガネ購入者に子供向け PC メガネを訴求するなどの新たな需要も掘り起こしました。こうした結果をうけ、今後も Zoff は EC での販売とデジタルマーケティングを強化していく予定です。
お祝い需要の低下を見越して新たな需要を開拓した「花キューピット」
最後は、全国約 4,300 店の生花店ネットワークを基盤とする JFTD グループの花キューピット株式会社です。
花キューピットは、これまでの 2 社とは異なり、そもそもコロナ禍以前からオンライン生花販売の「インターネット花キューピット事業」を展開していました。しかし、売上の多くはお祝い需要。外出自粛でお祝いの機会が減ることによる売上減少を懸念していました。そこで、お祝いに代わる新たな需要を見つけ、早急に販売を強化する必要があったのです。
日々状況が変わる中で、タイムリーに新しい需要を捉えるために、まずは「Google トレンド」のデータを活用。人々が花を購入する目的の変化を確かめました。その結果、2019 年までの検索トレンドと大きく変わっており、「お祝い」だけではなく自分への「癒し」や、パーソナルギフト需要であろう観葉植物の検索が増加したことがわかったのです。
検索動向 「観葉植物」
(*3)
次にそうした需要を捉えるため、商材をギフトとパーソナルギフト用途にカテゴリー分けして、後者の広告配信を強化。広告予算の配分を見直し、検索広告と YouTube 広告のクリエイティブも変更しました。その結果、パーソナルギフト商材のインプレッション数は 2019 年同期比 7.2 倍に、クリック率(CTR)も 5 ポイント上昇。3 月 1 日〜 5 月 26 日の期間で集計すると、パーソナルギフト商品の観葉植物の売上が大きく上昇しました。購入者の約 20% が初めてオンラインで花を購入したことを見ても、ねらい通りに新しい需要を取り込めたと言えます。
オンラインビジネスでは、変わりゆく生活者の需要に対していかに素早く対応できるかが重要です。その意味で、人々の興味関心を反映する「検索」はカギとなります。外出自粛の長期化で人々がオンライン活用に慣れるとともに、「バラ 明日配達」など、より具体的な要望に基づいた検索が増えてきました。こうした状況をうけ、花キューピットでは、より鮮明に届けたい人に向けた情報発信やサービス提供を実施していく予定です。
また、外出自粛により人々は「自分の近場での楽しみ」を見つける機会が増えていることがわかっており(*4)、結果として、消費行動も変化する可能性があります。全国の生花店を加盟店としたネットワークを束ねている花キューピットでは、そうした需要にも対応して各生花店の売上向上にもつなげたいと考えています。
オンライン化の“定着”、事業変革のきっかけに
対面からオンライン、店舗から EC、またニーズの変化を捉えたデジタルマーケティングの転換など、生活者の意識や行動の変化に伴い、ビジネスを強化した事例を紹介しました。あらゆる業態において、「新たな気付き」から売上拡大や新規顧客層の開拓に成功しています。
冒頭でも触れた通り、EC 利用やビデオ会議、オンライン上でのセミナー参加など外出自粛やソーシャルディスタンスを保つことを機に始まった新たな行動様式は、人々の行動が再開してもその水準は高いままを維持しています。こうした一過性ではない変化をうまく捉えることで、業界やビジネス規模を問わず、ビジネス変革が可能になっていくでしょう。
Contributor:
営業戦略本部 統括部長 広木さゆみ / シニアアカウントストラテジスト 松田千枝 / プロダクトマーケティングマネージャー 松葉威人