月単位、年単位など一定の期間内に定額を払うことで、さまざまなサービスを自由に使える、サブスクリプションサービス(サブスク)。
前回の記事では、サブスクリプションサービス(サブスク)のビジネスモデルを 9 つに分類し、サブスクを発展させる上で、業界としてどこに成長の余地があるのかを探りました。
今回は、サブスクを利用する生活者に着目します。サブスクに関心をもつ人の特徴や、そのきっかけが何なのかを Google が 2020 年 10 月に実施したアンケート調査(*)の結果などから分析。人々がサブスクを利用する背景には、「ミニマル」「アップグレード」「テンポラリー」「レビュー」「オープン」の 5 つの動機があるようです。
動機1:ミニマル——30 代以下「モノを最小限にしたい」
まず商品のジャンルごとに、それぞれ都度購入よりもサブスクを好む人の割合を調べました。
都度購入より定額制を好む人の割合
どのジャンルでもサブスク派は 20% 前後かそれ以下で、サブスクを“自分ごと”にしている人はまだ少ないように見えます。しかし回答者の属性を比較することで、異なる傾向がわかりました。
たとえば下の表を見ると、39 歳以下の人ほど、サブスクを支持する割合が高くなっています。
図:都度購入より定額制を好む人の割合(年代別)
これまでの調査データから、この層は所有(モノ)よりも体験(コト)をより大切だと感じる傾向がありそうなことがわかってきました。たとえば所有せずに「レンタルする」「シェアする」「利用する」というような、「買い方の使い分け」も普通になりつつあるのです。そうした点を見ても、こうした世代は「ミニマル」、つまりモノを最小限にしたいという動機で、サブスクを好んでいるのではないでしょうか。
「サブスクは自分の暮らし方に合っている」と答える人が 40 歳以上のほぼ倍という点からも、サブスクがこの世代に受け入れられ始めていることが見てとれます。
動機 2:生活をアップグレード——新商品をサブスクで試して
次にサブスクの選好度に差が出ていたのは自由に使えるお小遣いの違いです。1 カ月のお小遣いが増えれば増えるほど、よりサブスクを支持するようです。その動機には生活を「アップグレード」させたい気持ちが強い人が多いことが見えてきます。
この人たちはサブスクを利用することで、「普段は選ばない目新しい商品を利用したい」や「普段よりランクの上の商品を利用したい」という項目の割合がより高くなっていました。これは、新商品が多数ある中、いきなり決め打ちで購入するのはハードルが高いが、サブスクでいろいろと試すことで自分の暮らしを手軽にアップグレードしたい気持ちを満たせるのではないか、という期待からの支持と考えられそうです。
動機 3:テンポラリー——「子供のおむつ」など“今だけ”需要を満たしたい
そのほかにサブスクの選好度に影響している要因として挙げられるのは、未就学児の存在です。
未就学児のいる家庭では、「今」子供のためには必要だが、大きくなるにつれて必要ではなくなるものが多くあります。つまり、ある特定の期間に高まる需要を満たしたいという「テンポラリー」な気持ちが、サブスクへの関心を高めているようです。実際、この層の人々は、サブスクの良さとして「一度加入したら、それ以降その商品やサービスについて考えなくていい」ことを挙げています。
図:「定額制の良さは、必要な商品やサービスが途切れず、いつでも使えることだと思う」と答えた人の家族構成別の割合
動機 4:レビュー——ライフイベントを機に生活を見直し
次に、結婚や進学、引っ越しなど何かしらのライフイベントを控えた人がサブスクを支持している割合が高いこともわかりました。ここでの動機は「レビュー」。つまり生活に関する事柄を改めて調べたり比較検討したりしたいという気持ちです。
特徴的なのは、家族にライフイベントが起こっても、サブスクの支持はそれほど高まらず、自分自身がライフイベントの当事者になった場合に、サブスクに対する感度が向上している点です。ライフイベントがそれまでの生活を見直すきっかけとなり、その結果、選択肢の 1 つとしてサブスクについても、もっと知ってみたいと思うようです。
たとえば「住宅の購入」を控えた人は、調査では、健康食品のサブスクに対する関心も高くなっていました。新しい暮らしをきっかけに自分自身の健康も見直すようになり、その結果サブスクへの感度が上がったと考えられます。
図:「定額制サービスは、自分の興味の幅を広げられるチャンスがある」と答えた人の直近 1 年間にあったライフイベント
動機 5:オープン——1 度サブスク化すると、他のサブスク自体に肯定的に
さらに調査では、ある人の消費行動に 1 つでもサブスクが入り込むと、サブスクに対して「オープン」になることも明らかになりました。つまり一度サブスクを利用すると、他のこともサブスク化してみようという気持ちになりやすいということです。
図:デジタルコンテンツのサブスクを利用している人としていない人との比較。すでにサブスクを利用している人ほどサブスク自体に肯定的
サブスク化による「意外な競合」
サブスクのメリットは一般的に、「購入する手間の軽減」や「たくさん使えることによるお得感」だと言われますが、今回の調査からはそれだけではなく、「ミニマル」「アップグレード」「テンポラリー」「レビュー」「オープン」という 5 つの動機が見えてきました。
特に「保有はしなくていい」が「体験はしたい」という気持ちに、サブスクはフィットしやすく、またお小遣いの多い層は余裕消費や余剰消費の 1 つとしてポジティブに捉えやすいと言えます。
一方で事業者側は、これまで家計内で変動費として扱われていた項目がサブスク化によって固定費化されることを意識しなければなりません。固定費に計上される以上、まったく別の分野の消費であっても、この可処分所得を取り合う競争相手になるのです。これは、たとえば携帯ゲームのサブスクと車のサブスクが競合になり得るということです。自社サービスのサブスク化には、そういった側面があることも十分理解することが重要です。
どうやってサブスクにたどり着く? 検索データから明らかに
では人々は、どのような情報探索の結果、サブスクの利用に行き着いているのでしょうか? 調査会社のヴァリューズが参加者の許可を得て収集したビッグデータ(*2)の分析結果から、リモートワーク中の 30 代男性が「花」のサブスクに申し込むまでを見てみましょう。
彼は、リモートワークによって自分の部屋にいる時間が長くなったためか、まず「インテリア」に関する情報探索がアクティブになりました。その後、自分自身が他人にどう見られるか、という点から関心がファッションに拡大し、そこから「部屋に花を飾る」ことに着地しました。
その後、花のサブスクの複数サービスを比較。さらに部屋つながりで「家具」にもサブスクがあることを知ると、その過程で「アート」にも興味が広がっていることがわかります。これは「ビデオ会議越しに見える部屋を素敵にしたい」という「アップグレード」が動機であると言えるでしょう。
このように、サブスクサービスをその名称で直接検索する例はまだ稀なようです。他の例を見ても、日々の生活で起きる何かをきっかけにしてアクティブな情報探索が始まり、その過程の中で「偶然」サブスクサービスに出会うという流れがほとんどでした。
つまり人々は、サブスクを利用したいと思ってサブスクを探すのではなく、暮らしの中で見出した、何らかの目的を達成しようとした結果として、サブスクにたどり着く、という場合が多いと言えます。
「月額 xx 円で使い放題」よりも、人々のホープにつながる体験を訴求すべき
以上を踏まえると、サブスクビジネスを展開している事業者は、そのビジネスがサブスクであることの認知を高めるよりも、そのサービスがもたらす体験と生活者との距離感をいかに縮めるかという点に注力すべきと言えるでしょう。
これまでサブスクビジネスでは、「月額 xx 円で使い放題」や「専門家が選んだ商品が毎月あなたの元へ」といったビジネスモデルを前面に出した訴求が多く見られました。しかしそうではなく、本来発信すべきはその先のメッセージです。家具のサブスクなら「季節に応じておしゃれな部屋で過ごせる」、コーヒーのサブスクなら「いつでも自宅でカフェ気分を味わえる」のように、サブスク環境に身を置いた人々の「ホープ」を起点にした発信を意識することが重要です。
人々の情報探索は、日常生活の中で「ありたい自分」を自覚したそのときに、それに近づくためにスタートします。従来は欲しいものやサービスをどこかで認知して調べ始め、その結果関心が高まり、好感をもち、購入するという流れが一般的でしたが、今はより複雑化しています。
先ほどの例を振り返ると、「リモートワークで同僚・後輩・お客様からセンスよく思われたい」ということ。そういった目的やホープを叶えるため、つまり今の自分に不足しているものや自分がとるべき行動を知るために、常に情報探索をしているのです。
これはサブスクに限ったことではなく、多くの消費行動にも同様の傾向が見られます。このような生活者の情報探索行動を Google では「バタフライ・サーキット」と呼んでいます。バタフライ・サーキットの中にいる人々に、「サブスクも 1 つの手だな」と感じてもらうためのコミュニケーション設計が必要と言えます。
今回挙げた 5 つの動機を、前回の記事で分類したサブスクの 9 つのビジネスモデルと合わせて考えるのも良いでしょう。例えば「テンポラリー」には定期購買型や短期レンタル型、「レビュー」にはキュレーション型や長期リース型などが、相性がよさそうです。もちろんすべての類型に今回の動機が当てはまるわけではありませんが、サブスクのビジネスモデルを設計する上で、生活者のどんな動機を満たすものなのかを意識することは重要です。
人々の「望み」を叶えるための 1 つの方法として、サブスクを選択肢に入れてもらうことで、一気に自分ごと化され、サブスクとの距離が縮まる……そこに気づくことが、今後サブスクビジネスを拡大するためには大切なのでしょう。