音楽の聴き放題や月額制の家具レンタル、来店ごとにマカロンが受け取れるサービス──。今、大企業から町の商店まで、幅広い事業者がいわゆるサブスクリプションサービス(サブスク)を取り入れています。生活の中でも「サブスク」という言葉をよく聞くようになりました。
Google トレンドでも、「サブスク」というキーワードの検索量は、2019 年から 2020 年にかけて、4 倍以上に増加しています。
検索動向「サブスク」
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一方で事業者にとっては、実際にサービスをサブスク化することで事業を拡大できたケースはまだ限定的ではないでしょうか。そもそも、ひと口にサブスクと言っても、冒頭の例でもわかるように、その意味合いはさまざまです。
サブスクリプションとは、都度の売り上げ(課金)で所有権や利用権が利用者に移る「売り切り」モデルとは異なり、事業者と利用者の間の契約関係に基づいて継続的な売り上げを構築するビジネスモデルです。一般的には「定額制」という共通項があるため、事業者は安定的な収益や顧客基盤の確立、そして新規顧客開拓を期待してサブスク化に臨むと考えられます。しかし、たとえば「音楽コンテンツが聴き放題になるサブスク」と「健康食品が自宅に届くサブスク」では、オンラインかオフラインか、利用量に制限があるかどうかなど、利用者にとってのメリットはさまざまです。では、人々がサブスクを利用する意味はどこにあるのでしょうか。
そこで 2 回にわたり、これからのサブスクビジネスを理解していきます。
1 回目のこの記事では、サブスクビジネスを、その形態や生活者にとってのベネフィットなどから 9 つに分類し、サービス価値を向上させるヒントを紹介。2 回目は、人々がサブスクをどのように受け止め、何を期待しているのか、調査結果から読み解きます。いずれも事業規模や商材にかかわらず、あらゆるビジネスに当てはまる内容としてまとめました。
“サブスク”のモデルを 9 つに整理
サブスクを体系的に整理するにあたり、「対象となる財やサービスの種類」「財の所有権の所在」「サービス提供の場所」といった一般的な要素はもちろん、ここでは特に「生活者ベネフィット」という要素も加味しました。生活者の視点からビジネスモデルを分類したため、似たようなモデルに見えても、利用者が受け取る価値が異なる場合には別の類型としています。
なおここで言うサブスクとは、従来の定期購買型に限らず、「月単位、年単位など一定の期間内に定額を支払うことで、利用できるサービス」のことを指しています。
1:定期購買型
健康食品、化粧品、新聞や雑誌の定期購読など、同一の消費財が定期的に届くサービスを指します。従来あった定期購買モデルですが、近年ではコンタクトレンズやマスクなど、より幅広い消費財で提供が進んでいます。
2:キュレーション型
美容のアドバイザーが選んだコスメボックスが届いたり、ソムリエが選んだワインが届いたりと、特定のテーマに基づいて専門家や AI がキュレーションした商品が届くモデルです。利用者は、自分だけでは探し出せなかった「私や私の生活に合うであろうまだ見ぬモノ」との偶然の出会い(セレンディピティ)を楽しめます。
3:メンテナンス型
複写機やウォーターサーバー、近年では生ビールサーバーなど、繰り返し使える本体部分を無償あるいは非常に安価で貸し出し、消耗品部分を従量課金で販売するモデル。利用者はコストの高い装置を手軽に導入でき、業務用レベルの高品質な体験を、生活に取り入れることができます。
4:長期リース型
自動車や高級家具、アートなど、高価格帯の商品を、長期にわたって利用できます。価格がボトルネックとなって、購入をためらっていた商品にも気軽にトライでき、生活の質を高められます。
5:短期レンタル型
洋服やジュエリー借り放題、シェアオフィス使い放題など、その日、その瞬間に使いたいアイテムや空間などを利用できるモデルです。1 日〜 1 カ月ほどの短期で貸し借りを繰り返すので、人々は「購入する」「所有する」という行為から解放され、その時々のモチベーションやシチュエーションに合わせて、常に新しい商品やサービスを利用できます。
6:プロモーション型
他のモデルと異なり、サブスク単体で利益を出すのではなく、定期的に特定の店舗やオンラインストアに誘導し、ブランドとの接点を増やしてロイヤルティーを高めることが主な目的です。カフェならコーヒー 1 杯無料にしたり、オンライン上で無料で遊べるゲームを用意したりと、訪問するたびに特典や割引を受けられるサービスが多く、利用者はそのブランドをより身近に感じたり、店舗やサービスの新しい利用シーンや使い勝手を発見したりできます。
7:インストアサービス型
美容室使い放題や通常よりも安価に利用できる定額制の家事代行など、店舗や自宅でサービスを受ける権利を得られます。対面で有限の人的資源を提供するサービスはここに含まれます。期間内のサービス利用料が定額のため、利用者は支払い面での不安から解放され、安心してサービスを享受できます。
8:オンラインサービス型
オンラインでソフトウェアやプラットフォームを利用したり、レッスンを受けたりなど、一定期間そのサービスを使う権利が得られるモデルです。サービスは事業者が随時アップデートするため、利用者は常に最新の機能を使い続けられます。
9:デジタルコンテンツ型
動画見放題や音楽聴き放題など、デジタルコンテンツを利用できるサービスがここに当てはまります。過去から最新のものまで、多くのコンテンツがアーカイブされ、利用者は場所や時間を選ばず利用できます。あくまでコンテンツへのアクセス権を提供するものであり、オンラインサービス型のように直接人的資源を割くサービスは含みません。
自社のサブスクを成長させる「シフト戦略」と「コンバイン戦略」
上記の 9 類型には、サブスク事業者が今後、利用者にとっての価値を高めていくためのヒントが隠れています。
まずシンプルなアプローチとしては、各類型における現状のサービスの課題を発見し、解決するために、アップデートすることが挙げられます(=アップデート戦略)。たとえば「1:定期購買型」であれば、利用者の消費スピードと配送スパンのミスマッチを解消するために、利用データに基づいて、配送量や配送時期をコントロールするといった方法です。
そうしたアップデート戦略に加えて、ここで提案したいのは、「シフト戦略」と「コンバイン戦略」です。これは、現在自社サービスが位置する類型から、半ば強制的に他の類型にシフトしたり組み合わせたりするアプローチです。
図:シフト戦略とコンバイン戦略の例
たとえば「1:定期購買型」から「2:キュレーション型」へシフトする場合、毎月決まったフルーツを届けていたモデルから、季節に合わせて専門家が厳選したフルーツを届けるモデルへとサービスを発展させられるかもしれません。これにより、利用者はセレンディピティを新たな価値として享受できます。
他にも「7:インストアサービス型」で、通い放題の対面レッスンを提供していた英会話教室が、「8:オンラインサービス型」にシフトすることで、利用者は場所の制約を超えて英会話レッスンが受けられます。さらに、事前収録した映像や音声コンテンツを提供するなどして「9:デジタルコンテンツ型」にシフトし、時間的な制約までも超えて学習ニーズを満たせるサービスになる、といった発展も可能です。
また「9:デジタルコンテンツ型」に「4:長期リース型」の要素を組み合わせることも考えられます。たとえばフィットネス動画のサブスクを提供する事業者が、ジムで使うような機器をリースすれば、利用者の体験の質は向上するでしょう。
このように、9 類型をベースに、自社サービスの「シフト戦略」と「コンバイン戦略」を考えることで、利用者にさらなる価値を提供できる可能性が大きく広がります。
次回、人々はサブスクをどう受け止めている?
今回は、サブスクを 9 つに分類することで、利用者にとってのサービス価値向上の可能性につながる可能性を紹介しました。
では利用者自身は、サブスクをどのように受け止めているのでしょうか。次回の記事では、利用者側にスポットを当てて分析します。アンケート調査や検索データの分析から、サブスクに肯定的な人の特徴や、人々がどのような情報探索を経てサブスクにたどりつくのかなどを紹介します。