世の中に流通する情報量が増加し、人々がそれを受け取る手段も発達したことで、今日の消費行動は変化しています。
例えば、近年盛んになっているサブスクリプション。公共料金などインフラとしての役割を担うものだけではなく、エンタメや小売サービスなどさまざまなカテゴリに広がっています。これは、未来に向けて自動化した継続購入として捉えることもできます。
こうした未来の継続購入まで契約してしまう行動はどのような心理によって支えられているのでしょうか。連載を通じて解説します。
前回の記事で、合理的ではなくとも「自分の選択に何らかの自信を持つこと」が重要という生活者の意識について触れましたが、その心理を探るべく、複数のカテゴリでの初回購入と再購入を対象に、購入直前の生活者の態度に関して調査分析してみました。当然ながら再購入では初回購入時よりも選択に対する自信が強いことがわかりました。再購入時にはすでに商品・サービスの利用経験があるため、選んだ商品・サービスに対してより多くの、質が高い情報を持っている状態と言えます。
「肯定度」が継続購入のカギ
初回購入だけを対象に分析をしても、とても強い自信を持って購入していた人もいれば、購入しているにもかかわらずあまり自信がなかった人もいます。これは興味深い点です。そこで、初回購入にもかかわらず商品・サービス体験前から強い自信をもって購入をしている人が一定数存在し、差があることに着目しました。
この購入者間の心理の違いは、今までのマーケティングであまり注目されることがありませんでした。それはマーケティングや販売の成果を定量的な指標を通して評価してきたこと、また生活者の選択を合理的な思考プロセスの結果として捉えてきたことに起因すると考えます。自信があった購入と、あまり自信がなかった購入は、それぞれ同等の 1 つの販売として数えられ、各購入者は、同質的な 1 人の顧客として捉えられてきました。
しかし、直感による買い物が増えている今日において、この行動と心理を「直感による選択を情報を通して肯定する」ことと理解する必要があります。そして今回選択に対する自信の強度に対して「肯定度」という造語を当てることで、調査結果から「肯定度」が商品と生活者との長期的な関係性を理解するための手がかりとなることがわかりました。
肯定度によって体験も変わる
肯定度が高い買い物では、購入後の商品・サービスの利用体験を向上させることがわかりました。選択に対する自信が、実際に商品の満足度に影響を与えるのです。
肯定度を高めるプロセスは自分が直感で決めた商品・サービスに関して情報収集をすることで本当にこれでよいか再確認し自信を強める行動です。肯定度が高い購入は、そのような体験を通したものだからこそ、買った後の利用でも満足することが多いことがわかりました。
実は、このような傾向は買い物に限ったものではありません。人間のすべての行動に広く当てはまる本質的な行動心理で、誰もが日常的に経験しているものでもあります。近年では行動経済学の研究により、事前に接した情報が、その後の行動や態度に強く影響を与えることが証明されています。
あらゆるカテゴリで事前の情報探索が可能になっている今日、このような効果は特定のカテゴリだけでなく、買い物全体においてより発生しやすくなっています。
次回購入の可能性、初回購入前から醸成
複雑な買い物・情報環境において「これだ!」という商品を探したい生活者にとって、満足できた商品・サービスをまた買いたくなるということは容易に想像できます。分析を進めてみたところ、次回購入意向は、初回購入前の情報接触によって醸成される肯定度と関係していることがわかりました。
注意すべきポイントは、カテゴリによって差はあるものの、肯定度が比較的高い場合のみ、次回購入意向も高まる可能性があるということです。例えば、あまり自信のない買い物をした時や衝動買いをした時に後悔しがち、ということを考えると、次回購入意向は、購入前の肯定度が高い時こそ促進されていることが理解しやすいでしょう。
生活者の商品との関係性を、1 回の購入で終わるものではなく、その後のことを続けて考えると、商品の利用も一種の情報探索の過程として捉えることもできます。しかも、五感を通して感じるとても情報量が豊富な体験であるはずです。その体験が満足できるものであれば、商品に対する肯定度はさらに高まることでしょう。初回購入前の肯定度により、利用体験が向上、さらに肯定度が上がり、次回購入につなる、そしたまた肯定度が受け継がれる、つまり継続購入という習慣は、高い肯定度が呼び起こす連鎖反応によって形成されるものだと推察しています。
肯定度が LTV 最大化に寄与する
この情報探索と肯定度の視点を持つことで、買うという行動やデジタルマーケティングにおけるコンバージョンを散らばっている無数の点ではなく、つながった線として分析できるようになります。
情報接触により選択した商品に対する肯定度が変化するという視点、また肯定度が購入後の心理にも影響を与えているという発見から、購入前後の生活者に対してどのようなコミュニケーションが有効なのかを考えることは、結果的に初回購入者が継続購入者になってもらうための施策にもつながります。
さまざまな情報があふれる現在、たった 1 回の購入を生むことにフォーカスしたマーケティングではなく、未来の購入も考慮した戦略、生活者が信じることができる商品サービスの企画を考えよ、とはマーケティングでも大きな課題です。これを「肯定度」という切り口で考えていきたいと思います。
次回は「肯定度」と情報探索のあり方の詳細について、具体的な例を挙げながら、この新たな視点がどのように適用されているのかについてお話します。
連載「継続購入の深層心理」
- 第1回:なぜ私たちは繰り返し購入するのか?
- 第2回:カギは初回購入よりも前にあった、「肯定度」が決め手
- 第3回:情報探索が買い物の「肯定度」に与える影響とは