情報環境の変化によって買い物行動は大きく変わりました。こうした変化を Google では「パルス消費」「バタフライ・サーキット」などの新しい概念を用いて紹介してきました。今回は、その劇的な変化のうち、「買い続けているもの」に注目したいと思います。
皆さんの中には特定のものを「何となく購入し続けている」という実感を持つ人も多いのではないでしょうか。事前に調べることなく習慣的に継続して購入する――。ごく自然の購入行動かもしれませんが、なぜそのように気軽に買えるようになったのでしょうか。最初に買った時は、インターネットで何度も検索したり、類似商品と比較したり、今ほど気軽に買えてはいなかったと思います。継続購入しているからと言って、必ずしもその商品やブランドに強い愛着をもっていることでもありません。なぜ買い続けているのか、はっきりとした理由を答えるのはなかなか難しいです。
こうした習慣的な継続購入は、これまで顧客ロイヤリティによって説明されてきました。しかし実際には、顧客ロイヤリティの考え方も幅が広いため、既存の概念だけでは説明が難しい継続購入も多くあります。そのメカニズムを調査によって解き明かします。
調査方法:買い物追跡型の定性調査など
生活者の行動の根底にある心理を捉えるためには、行動する瞬間を分析する必要があります。今回の調査では、回答者の記憶だけに依存することを避け、生活者の実際の初回購入・継続購入の経験を分析するために、まずは買い物追跡型の定性調査を設計、その結果を踏まえて定量調査を追加しました。
調査に協力してもらったのは 8 人の参加者。まず参加者には、買ったものの詳細と気持ちを日記形式で記録をしてもらい、その後の 2 回のインタビューを通して、記録をたどりながらそれぞれの初購入・再購入に至った過程と気持ちをヒアリングしました。定性調査から浮かび上がってきた買い物行動に関する仮説は、消費財から耐久財まで 10 個の商材(*1)の購入経験者 10,000 人(*2)に対して定量調査を行うことで、どのくらい一般的なものなのかを確認しています。今回の調査概要は以下をご参照ください。
情報環境と買物行動のリアル——多くの商品は「経験財」から「探索財」へ
まず本題に入る前に、これまで Google が実施した調査によって明らかになった生活者の買い物行動について、特に重要な 3 つの特徴を紹介します。これらは今回の一連の調査を通じても再確認できました。
情報技術の発達によって、従来は経験財(実際に購入して経験する前までは、なかなか価値を知ることができない商品)だと言われていたマッサージや飲食などの商品・サービスも、他の人の口コミや評点などを見て、ある程度その技術や味を予測できるようになりました。加えて、利用者による動画投稿や、AR/VR などの最新技術を活用することで、商品・サービスに関する情報はよりリアルなものとなりつつあります。つまり多くの商品・サービスが、直接経験しなくても事前の情報探索を通して把握できる「探索財」へと変わっているのです。
買い物の対象を経験財と探索財に区別するアプローチは、アメリカの Philip Nelson が 1970 年代に提唱した後、買い物行動と情報の関係性を分析する際の枠組みとして発展してきました。とりわけ 2000 年代以降の消費者研究では、インターネットの普及により情報探索コストが劇的に低下したことで、一部の経験財が探索財化する可能性が指摘されてきましたが、今回の調査では、ほぼすべてのカテゴリで探索財化が進んでいることがわかりました。
生活者は自分の選択に自信を持ちたい
あらゆる商材に関する情報と選択肢があふれている現在、生活者は合理的思考よりも、直感を信じて選択することが増えているということは以前の「パルス消費」で紹介した通りです。また、情報探索を通じて自分の直感に自信をもちたい、頼れる商品やブランドを探したいという心理が強いこともわかっています。
今回の定性調査でも、信頼できる情報が自然と入ってくるように情報源を整理する、全体像を把握して自分の判断軸を確立するといった行動が見えました。
買い物は疲れることでもある
EC と流通の充実により買い物に関する情報と選択肢が増えましたが、ただ便利になっただけではありません。このような状況では、買い物はただ愉快なことではなく疲労を感じるものでもあります。買い物の中で再購入というルーティンを導入することは、情報量の増大に対する自然な反応であり、ほぼ無意識的な行動なのです。「信あれば徳あり」ということわざのように、「信じる商品を継続購入する」という心理と行動は、生活者が買い物にかかる負担を最適化した結果であると言えるでしょう。
なぜ私たちは繰り返し購入するのか?
このような心理の発見は、買い物に対する向き合い方の新しい側面に光を照らします。例えば、初回購入は、新しく頼れる商品やブランドを探す情報探索の一環でもあるとも考えられますし、再購入は愛着によるものとは限らず、また最初から情報探索をして商品を選ばなければいけない苦を避けようとする本能に基づく最適化とも言えます。次回は、調査結果のデータを用いて、初回購入から継続購入にいたるプロセスを紹介します。
連載「継続購入の深層心理」
- 第1回:なぜ私たちは繰り返し購入するのか?
- 第2回:カギは初回購入よりも前にあった、「肯定度」が決め手
- 第3回:情報探索が買い物の「肯定度」に与える影響とは
2022/03/17 13:00 記事を更新。初出時、 4枚目に掲載しているチャートの表現に誤りがあったため、修正しました。
2022/05/26 19:45 記事を更新。初出時、 1枚目に掲載しているチャートの表現に誤りがあったため、修正しました。