2019 年、世界のゲームコンテンツ市場は前年比で約 20% 増加し、市場規模は 15 兆 6,898 億円まで成長。そのうち 44.0% を東アジアが占めており(*1)、その大部分がスマートフォン向けモバイルゲームなどのデジタル配信ゲームです。このように、ゲームコンテンツ市場が成長している背景には、2019 年からのトレンドである「ハイパーカジュアルゲーム」の存在が大きいと言えるでしょう。
隙間時間にプレイできる「ハイパーカジュアルゲーム」が成長
ハイパーカジュアルゲームとは、「待ち合わせの暇つぶし」「電車やバスなどでの移動中」「仕事の休憩時間」「家で何かをしながら」といった隙間時間に、気軽にプレイできることを目的にしたモバイルゲームを指します。集中して長時間プレイするゲームが主流だった 2018 年までとはゲームのトレンドが大きく変化しました。
実は、世界全体で見るとハイパーカジュアルゲームでの広告収益に貢献しているユーザーの約 3 分の 1 は 39 歳以上、そして 60% 以上が女性です(*2)。これは、従来の若年層、男性が中心のゲーマー像とは大きく異なるかもしれません。
このような変化を新たなビジネスチャンスと捉えて、日本のゲーム企業もハイパーカジュアルゲーム市場に多数参入しています。しかし、新たなビジネスを展開するためには、それに合った収益モデルの確立が不可欠です。
前提として、モバイルゲームの収益モデルには 2 種類あります。1 つは追加の機能やコンテンツを購入する「アプリ内課金(IAP)」、もう 1 つはプレイ中に広告を表示する「アプリ内広告(IPP)」。多くのハイパーカジュアルゲームは、後者のモデルを採用しています。
ハイパーカジュアルゲームの場合、継続的かつスピーディーな開発で、新たなコンテンツを提供し続けることが、ユーザー体験の向上につながるという特徴があります。そのため、ビジネスモデルを成立させるためには、広告のマネタイズと最適なユーザーの呼び込みの双方をカバーする包括的なソリューションをいち早く取り入れることが重要です。具体的には、同じ アプリ内広告による収益モデルでも、収益側と出稿側のパフォーマンスを分けずに包括的に計測し、最適化を図る方法です。
今回は、この施策で成果をあげたアジアのハイバーカジュアルゲーム企業「芸者東京」「Black light studio Games India」「ITI」3 社の事例を紹介します。
従来モデル:収益側・出稿側の広告費用対効果測定および最適化の仕組み
採用モデル
指標にした LTV は 48% 改善、ROAS も 5% 向上:芸者東京
芸者東京は、米 App Store のランキングで 1 位を獲得したゲーム『Snowball.io』などを制作する日本企業です。
同社ではこれまで、上の図で示した従来モデルを採用しており、広告収益側(マネタイズ)と広告出稿側(ユーザー獲得)のパフォーマンスを別々に計測していました。 Google のツールで言えば、収益側は AdMob、出稿側は Google 広告といった具合に計測ツールが分かれていたため、全体としてのパフォーマンスを測ることが難しかったのです。そのため設定する KPI も、収益側は広告のクリックなどに基づく広告収益、出稿側はユーザーの新規獲得数や獲得単価が主で、いかに広告費を抑えて効率的にインストール数を獲得するかに注力せざるを得ませんでした。
それに対して、アプリの収益化をサポートする Google の「AdMob(アドモブ)」と「Google 広告」を連携させ、包括的にパフォーマンスを正しく評価する仕組みを採用。両者をつないで全体が見られるようになったことで、広告費に対する売り上げを表す「広告費用対効果(ROAS)」や、顧客 1 人あたりの自社サービスや商品を購入した金額の合計を意味する「ライフタイムバリュー(顧客生涯価値:LTV)」を指標として計測できるようになりました。
それを受けて芸者東京では、米国内の Android ユーザーを対象に、LTV を指標としたキャンペーンを実施。単純にインストール数の獲得を目的としていた従来のキャンペーンでは、すべてのインストールを一律に評価せざるを得ませんでしたが、LTV を指標としたことで、そのインストールがどれだけ収益につながるかを評価できるようになりました。その結果、ROAS は 5%、3 日間利用を継続したユーザーの LTV は 48% 改善。AdMob の配信割合は 2 倍以上に増加しました。
また、コンバージョン(CV)につながった「クリエイティブ アセット」の配信面にも、変化が見られました。以前のインストールキャンペーンでパフォーマンスがよかったアセット上位 5 つは動画 3 つとテキスト 2 つだったのに対し、今回の LTV キャンペーンでは上位 5 つすべてが動画でした。LTV を指標とすることで、パフォーマンスのよいアセットや配信すべき広告が、従来と異なっていたことがわかります。
ユーザーの継続率の伸びも 1 日目が +11%、7 日目では +25% と上昇。同様にエンゲージメント時間も、1 日目が +45%、7 日目で +17% と改善しました(*3)。
このように、収益側と出稿側全体を見ることで、ROAS や LTV を指標としたキャンペーンを実施できるようになり、アプリ内広告による収益改善に成功しました。芸者東京では、今後も同様のキャンペーンを、イギリスや日本などの他の地域でも展開していく予定です。
LTV の算出に自信がなくても ROAS を改善、ほかの地域でもユーザー増:Black light studio Games India
Black light studio Games India は、インドの中堅カジュアルゲームスタジオです。人気タイトル『Ludo SuperStar』は、300 万人以上のデイリーアクティブユーザーがいます。ただ、そのほとんどがインド国内のユーザーで、さらに成長するためには、インド以外の地域におけるユーザー拡大が不可欠でした。しかし、LTV の算出に自信がもてず、投資に対して慎重な姿勢をとっていたのです。
その状況を打破するために、芸者東京同様に、広告キャンペーンの収益性を評価する「AdMob」と 「Google 広告」を連携。収集したデータから LTV を分析し、インド以外の地域における LTV の高いユーザーに向けて、広告キャンペーンを最適化しました。
これにより、Black light studio Games India は広告キャンペーンの ROAS を正確に把握できるようになり、半年間で IAP と IAA を合計した全体の収益が 45% 増加。また中東地域でのユーザー数が 45% 増と、狙い通りの成果を実現しました。Black light studio Games India では、今回の経験を生かし、LTV の分析に基づいた広告キャンペーンをさらに幅広い地域に拡大していく予定です。
メインの市場では成果を出せていても、他の地域で横展開する際に難しさを感じている企業は多いかもしれません。しかしこのケースからもわかる通り、LTV の算出方法や正確性に自信がなくても、収益側と出稿側のプラットフォームを連携させ、パフォーマンスを包括的に捉えることで、他の地域でもこの仕組みを応用することができます。
短期的な LTV を改善、ベストプラクティスをもとに海外展開も視野に:ITI
ITI は、モバイルゲームやアプリの開発に特化した日本企業です。ハイパーカジュアルゲームも多数リリースしており、なかでも代表作『Rescue Cut』は、全世界 57 カ国で計 2 億ダウンロードを突破しています。
同社が LTV の高いユーザーを獲得するために指標としていたのは、アプリを 7 日間継続利用したユーザー 1 人あたりの広告収入でしたが、その一方で、7 日未満の短期間 LTV の改善には課題を抱えていました。
そこで広告収益などの収益側のデータと出稿側のパフォーマンスを包括的に測定。これまで両者を個別に測定していた時には LTV を正確に計測することは難しく、「ゲームを 10 回遊んでくれる可能性が高いユーザーの獲得に最適化したキャンペーン」のように、より多くゲームを遊んでくれそうなユーザー獲得に注力していました。しかし両者を統合したことで、「一定の期間で一定の LTV を超える可能性が高いユーザーの獲得に最適化したキャンペーン」が可能に。この新たな広告キャンペーンによって短期的な LTV が改善し、さらに 7 日間継続したユーザーの LTV も 40% 改善しました。
今回、新たな広告キャンペーンに取り組んだことで、ITI ではハイパーカジュアルゲームの広告マネタイズにおける、ベストプラクティスを編み出すことにも成功。
- クリック率(CTR)3% を目指すクオリティの高いビデオクリエイティブの作成
- スマートフォンでの視聴に最適化した、アスペクト比が 2:3 と 16:9 のビデオクリエイティブとプレイアブル広告の作成
- 最終的なターゲットインストール単価(CPI)の 5 〜 6 倍の入札で、キャンペーンを開始
といった指標や枠組みで、今後さらなる海外展開も視野に入れています。
包括的なソリューションでリソース負担を軽減、ゲーム分野以外への活用も期待
ハイパーカジュアルゲーム市場は、生活者の変化に合わせて素早くコンテンツを開発し、気軽に継続して楽しんでもらう工夫が大切です。同時に、ビジネスとして安定した収益を上げるためには、ハイパーカジュアルゲームにマッチしたビジネスモデルの確立も必要不可欠。こうした生活者の変化に合わせたビジネスモデルの確立は、ゲーム市場や広告を主な収益源とするビジネスにとどまらず、マルチチャネルを持つ EC ビジネスなどでも重要な視点です。
データの詳細な分析や KPI の設定には、現実的な問題として多くのリソースが必要です。しかし今回のような ROAS の可視化は、これらの負担を軽減し、最適なユーザーの呼び込みまでを包括的に把握するための有用なアプローチです。1 つの視点として参考にしてみてください。