マーケターは、生活者の変化に寄り添う必要が高まっている一方、デジタルマーケティングにおけるプライバシーへの配慮もより求められるようになりました。Think with Google の日本版においても、そうした傾向を映した記事がよく読まれているようです。
今回は 2021 年に読者のエンゲージメント率(*1)が高かった記事 5 本を紹介します。
1:さらなる顧客層の開拓、ポイントは顧客接点の拡大と UX 改善にあり──SBIホールディングス、エムスリーキャリア
デジタルマーケティングでは、見込顧客と接点を持つだけでなく、タイミングを逃さずに次の行動に進んでもらうことが重要です。オンライン上では、ワンタップで簡単に他のコンテンツやサイトへ離脱できるためです。
記事では、YouTube 広告や検索広告を活用した 2 つの事例を紹介。いずれも態度変容を起こし、顧客獲得に成功しました。
1 つ目は、SBIホールディングスが運営する保険の見積もり比較サイト「インズウェブ」です。従来は、検索広告で顧客を獲得していましたが、コンバージョンにつながるキーワードには限りがあり、また同業他社との競争も激しいために、顧客獲得単価(CPA)が高止まりしてしまうことに課題がありました。
そこで新たに、YouTube の「TrueView アクション広告」にチャレンジ。見積もり請求をコンバージョンポイントに設定したところ、検索広告と同程度の CPA で、潜在顧客の掘り起こしに成功しました。運用期間の後半は機械学習も進み、CPA は、前半より 23% 低下、コンバージョン率(CVR)は 40% 向上しました。
もう 1 つは、エムスリーキャリアが運営する薬剤師専門の転職プラットフォーム「薬キャリ」の事例です。転職を考えているが行動に移せてはいない見込顧客の獲得が課題でした。検索広告に登録ボタンを表示することで、ワンクリックで登録フォームにアクセスして問い合わせができる「リードフォーム表示オプション」を導入しました。
ウェブサイトへの遷移のステップを省略することで、UX を改善。それにより、リーチの拡大とコンバージョン獲得の効率化に成功しました。従来の広告運用と比較しても、CPA は 17% 低下、CVR は 14% 向上しました。
2:ABCD フレームワークでの制作、テレビとの統合プラン――日本マクドナルドとエムスリーキャリアが YouTube 広告でチャレンジしたこと
YouTube 広告は「本当に認知度向上やブランドリフトにつながるのか」「6 秒など短尺でもメッセージを伝えられるのか」。この記事で取り上げた 2 つの事例はそうした疑問に応えるものです。YouTube 広告で態度変容に成功した例として、上でも挙げた「薬キャリ」と、日本マクドナルド「月見バーガー」のケースを紹介しています。
薬キャリは、薬剤師転職市場のボリュームゾーンである 30 ~ 40 代の子供をもつ女性への訴求を目指しました。
YouTube 広告のクリエイティブは、Google が提唱する ABCD フレームワーク に則って制作。視聴者を飽きさせないテンポでブランド名をアピールしつつも、身近に感じてもらえるように工夫しました。動画の最後には検索窓を表示し、視聴者に行動を促した結果、TrueView インストリーム広告だけでなく、6 秒のバンパー広告でも、認知度が大幅にアップしました。
月見バーガーの事例では、全世代へのアプローチを意識。従来メインだったテレビ CM に加えて、YouTube 広告、OOH(Out of home、屋外)広告など、複数のメディアで広告を展開しました。なかでもコロナ禍の影響にあった 2020 年は「デリバリー」や「モバイルオーダー」の利用が進むなど、顧客とのデジタル接点がより重要になったと考え、YouTube 広告に力を入れました。
その結果、YouTube 広告からの認知が、同社内の季節限定商品の平均的な実績に比べて 45% 増加。認知獲得にかかるコスト効率は、テレビ CM の約半分に抑えられました。
適切なフォーマットを選び、クリエイティブを制作することで、YouTube 広告はリーチのみならず、ブランドの認知率向上などの態度変容にもつながることを、これらの事例が証明したと言えるでしょう。
3:次の時代に備えるために、Google 広告ができること:Google Marketing Livestream 2021
2021 年 5 月に開催した「Google Marketing Livestream 2021」から、デジタル広告領域の最新動向や Google の広告製品の発表をまとめました。
主なトピックの 1 つがプライバシーに配慮した広告テクノロジーの開発です。日常生活でデジタルツールを使う場面が増えるにつれて、プライバシー保護に関する懸念が高まっています。Google も 2021 年に、サードパーティ Cookie の廃止後も代替識別子を作らないことを発表しました。
一方でサードパーティ Cookie が廃止されると、これまで通りの方法では広告の効果を測定できなくなります。それでも、プライバシーの保護とビジネスで成果を上げることは両立させることが可能です。
Google は、プライバシーサンドボックスなど、プライバシー保護を重視したソリューションの提供を業界関係者と共に進めています。また、匿名化、集約、オンデバイス処理といったテクノロジーも開発し、インタレストベース広告の掲載や測定などもサポートしています。 今後も、機械学習を使って利用者の行動や購入判断に関するインサイトが得られるように取り組んでいきます。
なお、「Google Marketing Livestream 2021」の全編はオンデマンド動画で視聴できます。
4:NTTドコモはプライバシーとビジネスをどう両立させるのか――これからのデジタル広告に必要なデータ運用と組織体制
サードパーティ Cookie の段階的な廃止に伴い、企業は利用者の同意を得た上で顧客のファーストパーティデータを収集し、広告展開に活用するための準備を進める必要があります。
NTTドコモは、自社アプリのインストールと利用を最大化させるために、ファーストパーティデータと Google Cloud を活用しました。広告経由でアプリをインストールした利用者のデータと、その人が 28 日以内にアプリを利用する可能性の予測値を、Google Cloud 上に構築したプライベート DMP(顧客のファーストパーティデータを中心に管理するプラットフォーム) に集約。その後、利用者がアプリをインストールする度に予測値を自動で算出し、教師データとして Google 広告側に自動送信しました。なお、この教師データは、NTTドコモが利用者の同意を得て集めたものです。
Google 広告の AI は、その教師データに基づいてユーザーの初回利用の可能性を学習し、広告の入札単価を動的に調整。CPA を下げながらアプリの初回利用率も向上しました。
プライバシーに配慮したデジタル広告を、再現性をもって展開するには、社内のマインドセットやリソースも変える必要があります。NTTドコモは、顧客データをマーケティングに柔軟に活用する技術や専門知識を持った人材を部署内で育成したり、技術のある関連部署との密な連携を図ったりできる組織づくりなどにも取り組みました。
5:見過ごしていたニーズを拾うには? 「顧客視点」のデジタルマーケティングが成功した理由──アクサダイレクト生命
ネット生保を扱うアクサダイレクト生命保険は、以前から検索広告に力を入れていました。「アクサ」といった指名検索や、「医療保険」「がん保険」といった関連する一般ワードで検索広告を出稿してきましたが、競争が激しく、指名検索の強化にも限界があります。
そこで「人々の保険に対するニーズは何か」という原点に立ち返り、生活者の細かなニーズを拾いきる方法で勝負することにしました。
生活者の幅広いニーズに寄り添うべく、「医療保険 相談」「日帰り入院 保険」「糖尿病でも入れる保険」など、一般ワードのマッチタイプを部分一致に変更。コンバージョンに貢献しない検索クエリへの広告を取りやめたり、「損保」や「病名」といった生命保険とは無関連なクエリや、重複したクエリの除外をツールでルール化、ルーティン化し、細かいチューニングにトライしました。
また、広告文やランディングページの内容も変更し、一貫した訴求を心がけました。
さらに、申し込み以降の契約率や契約保険料が高い、つまりライフタイムバリュー(LTV)が高い顧客へのアプローチにも着手。LTV が高い顧客層の予測モデルを作成し、それを広告の自動入札に活用。そうした顧客への検索広告での訴求をより強化しました。
一連の取り組みは、LTV の高い契約数の拡大、顧客データの蓄積、顧客分析の精度向上、新しいニーズの発掘、LTV が高いキーワードの発掘……とよい循環が生まれ、2020 年 1 月から 8 月の前年同期比で、広告出稿クエリ数が 143%、CV クエリ数が 116%、契約数が 138%、年換算保険料収入が 135% アップしました。
以上、2021年に最もエンゲージが高かった記事 5 選でした。
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2021/12/02 14:00 記事を更新。初出時、わかりにくい表現があったため、文章を適宜修正しました。